コラム
2013年08月12日

暑い夜に怖い話は定番だが・・・財政健全化に向けた判断に期待すること

  新美 隆宏

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夏の風物詩と言えば、家族旅行、海水浴や花火などのレジャー、夏祭りや盆踊り、スイカやカキ氷、ビールなどの冷たい飲食物などが挙げられるでしょう。この他にも、肝試しやお化け屋敷、怪談などに束の間の涼しさを求める人もいるのではないでしょうか。筆者も学生時代、サークルの夏合宿で肝試しをして、涼しい(怖い)思いをした経験があります。
   肝試しなどで涼しく感じる仕組みは、医学的には諸説があるそうです。いくつかを紹介すると、一つ目は、恐怖を感じることで体が緊張状態になり動悸や呼吸が速まって、酸素やエネルギーを脳や筋肉に届けようと末梢の血管が収縮して手足が冷たくなるという説です。他には、脳の中の恐怖を感じる領域と、冷たさを感じる領域とが近いために、恐怖を冷たさと誤認してしまうという説などがあるそうです。いずれにしても、あまりコストがかからずに涼を感じる手段であるようです。

日本の財政や経済にとって、この夏から秋は重大な判断をする暑い季節です。中期財政計画が閣議了承され、社会保障制度改革国民会議の報告書がまとまりました。秋には消費税率の引き上げについて安倍総理が判断を下します。日本の財政状況の厳しさは、当社のレポートは勿論、多くの媒体で述べられているので詳細な説明は行ないませんが、債務残高がGDP比で224%という水準は、他の先進国と比較して突出しているだけでなく、更に悪化する傾向が続いています。このような莫大な債務をどうするかという道筋を示すものが中期財政計画であり、歳出と歳入の具体的な対策の柱が社会保障制度改革と消費税率の引き上げです。
   アベノミクスにより良い方向に進み始めた日本経済が、今後、自律的な回復軌道に乗るためには、消費者マインドや経営者心理の改善による、個人消費や設備投資の増加が必要不可欠です。将来に不安を感じたままでは、財布の紐はなかなか緩まないでしょう。イソップ寓話の「北風と太陽」ではありませんが、国民が安心できる持続可能な社会保障制度や健全な国家財政への道筋が見えてこそ、本格的な消費や設備投資の伸びが期待できるでしょう。今年になってから個人消費は好調ですが、暗闇の中に見つけたおぼろげな光に対する期待の表れではないでしょうか。

財政状況が厳しい国は日本だけではなく、各国政府の取り組みに関心が寄せられています。各国政府の財政健全化の取り組みに対する市場からの警鐘は、格付の引き下げや金利上昇、株価や為替レートの下落などの金融マーケットの動きを通じて発せられてきました。日本については、国債の格下げやジャパンプレミアム、株価下落などで警鐘が発せられた時期もありましたが、今のところは大事には至っていません。8/12に2013年4~6月期の実質GDPの成長率(速報値)が発表され、+2.6%(年率換算)の3四半期連続のプラス成長となり、経済成長の面から消費税率の引き上げを躊躇する理由は無いでしょう。消費税率の引き上げは、金融マーケットでは既に織り込まれており、企業内での対応も進んでいます。
   安全工学やリスク管理の分野では、ハインリッヒの法則というものが知られています。これは、「1つの重大事故の背後には、29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」というものです。今回の財政健全化に向けた判断を誤ると、300の警鐘のうちの1つではなく、1つの重大な事象が生じないとも限りません。

お化け屋敷は、本当はお化けなどいないと信じた上で、一時の涼を求めるものです。いくら暑いといっても本物のお化けに出会っては洒落になりません。

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