2012年11月30日

12月に迫ったEUの男女同一保険料率への移行

  荻原 邦男

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本欄の趣旨から少し外れるかも知れないが、EU諸国で12月21日から予定されている、男女同一保険料率への変更を巡る話題をとりあげたい。

基礎研REPORT「男女別保険料率の禁止を巡るEU保険業界の動向」で紹介したとおり、EUは、2012年12月21日の新契約から、性別を理由に保険料に差をつけることを禁止し、各社は男女同一料率(gender neutral premium)の使用が義務づけられる。経緯の詳細は当該レポートを参照願いたいが、実施まで2ヶ月を切り、保険会社の対応と顧客行動に注目が集まっている。

統計的な男女の死亡率、生存率の差を考えれば、男女同一料率に訝る向きも多かろう。実は私も当初そう考えたのであるが、今は、これが文化の違いから来る多様性というものか、という心境である。もっとも、わが国でも今でこそ生命保険・年金は男女別料率が普通になっているものの、男女別になったのは30年余り前(1976年)である。当初は暫定的に、女性は男性より4歳年下の死亡率を適用する、いわゆるセットバック方式というものであった。その後、男女別の経験率に基づく生命表が適用されたのは1981年4月である。現在、各種の保険・共済制度の中には、男女同一料率を採用するものもある。

さて、本論のEUの対応であるが、事ここに至っては、現実的に受け止めるしかないわけで、例えば、英国保険協会(ABI)は顧客向けのガイダンスを9月に公表し、スムーズな制度変更に努めている。なお、その冒頭に以下の記述がある。「英国保険業界は、性別を使用してできるだけ正確なリスクを反映した保険料率を顧客に提供する権利を守ろうと、約10年の間、闘ってきた。不幸にも、保険業界はこの戦いに破れ、失意のうちにある。だが、今は、男女同一料率システムに合わせるべく、できるだけスムーズな移行が行われるよう注力している」。思いのほか直截な表現と感じられる。

そのガイダンスは、(1)生保、重度疾病、所得保障保険、(2)自動車保険、(3)年金などに分けて注意喚起しているものの、直接的に推奨される対応方法を書くのではなく、基本的には保険会社やアドバイザーに助言を求めることを勧める方式を採っている。

新聞記事によれば、制度変更に関して概ね次のような点が指摘されている

制度変更に関しての指摘点

注目されるのは、死亡保障商品において、新しい男女同一料率が男女の平均的な水準になるとすれば、男性は保険料率が下がりそうなものであるが、「専門家は5%程度の上昇を見込んでいる」としている点である。これは、保険料を下げると今まで以上に過大なリスクを負う可能性がある、といった保険会社側の保守性を反映したものと考えられる。(また、時間を掛けて調整がなされるとも考えられる。)

いずれにしても、欧州全般にわたって実施されることとなった大きな制度変更に対し、保険会社がどのようなマーケティング戦略をとり、顧客がどのように反応するのか、極めて興味深いものがある。文化的背景が異なるわが国で、同様なことが直ちに起きるとは考えられないが、引き続き注目していきたい。


 


 2012年10月22日付けThe independentの記事による。

 統計的に、女性のほうが給付率は高いとされているようである。新聞記事によれば、女性は28%の低下、男性は20%の上昇が予想されるとのことである。

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