2012年09月19日

格差・貧困の拡大と生活保護クライシス

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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■見出し

はじめに~過去最多の生活保護受給者
1――生活保護受給者・世帯の現状と課題
2――生活保護給付費・財源の現状と課題
3――生活保護クライシスへの対応
おわりに~幸福度からみた政策選択

■introduction

社会保障制度というと、誰もが年金・医療・介護は自らのこととして捉えるだろうが、「生活保護」については当事者意識も薄く、すぐには思い浮かばない人も多いだろう。最近では、高収入の芸能人の母親が生活保護費を受給していたことが社会問題になり、「生活保護」についても多くの人の関心が集まるようになった。しかし、マスコミ等による「生活保護」に関する報道は、不正受給や高齢者の孤立死など特異なケースに伴うものが多く、この制度の現状についてはあまり知られていない。
現在の生活保護制度は、国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法25条の「生存権」の理念に基づいて1950(昭和25)年にできたものだ。戦後の混乱期には生活困窮者が多く、200万人以上の生活保護受給者が存在したが、その後の経済成長とともに減少し、95年度に88万人と最小を記録した。それ以降は急激な増加傾向が続き、2011年度の生活保護受給者は過去最多となったのである。
一億総中流社会といわれた日本が、いつの間にか大きな経済格差の国になった。09年に厚生労働省が発表した相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)は15.7%とOECD諸国の中でも極めて高い。若年層の失業や非正規雇用が増加し、世代間の経済格差が広がり、貧困の世代間連鎖も始まっている。
政府は今年7月「生活支援戦略・中間まとめ」を公表し、生活保護制度の見直しにも言及しており、今後の生活保護制度のあり方は、「社会保障と税の一体改革」においても重要な課題なのである。その背景には、生活保護制度の捕捉率(生活保護基準以下で実際に生活保護費を受給している世帯の割合)が低く、まだ多くの潜在的生活保護者が想定されることや非正規雇用の増加とともに将来の生活保護予備軍が大量に発生する可能性があることなどが考えられる。
戦後、日本は高度経済成長を遂げ、国民生活はとても豊かになったというが、今日では終戦直後を上回る生活困窮者が生じている。いくら働いても貧困から抜け出せないワーキングプア、経済基盤が脆弱で結婚したくてもできない若者、親が健康保険料を支払えずに無保険状態に陥る子どもたち、われわれはそのような現実を直視しなければならない。本レポートでは、今日の生活保護制度の現状と課題を明らかにし、生活保護受給者が増大する社会的背景となる格差・貧困の拡大と生活保護クライシスへの対応について考えてみたい。

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2012年09月19日「基礎研レポート」)

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