コラム
2011年12月27日

新世代ビルのキーワードは「サステナビリティ」~「環境」だけでは市場は動かない~

  松村 徹

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東日本大震災直後の帰宅難民と計画停電、その後の節電の夏1 を経験し、いまだ収束しない放射能汚染や電力供給不安に直面している首都圏の企業の意識と行動は、いま確実に変わりつつある。ニッセイ基礎研究所が、2011年10月に不動産会社や投資家など市場関係者に対して行った不動産市況アンケート2 で、防災性と省エネ性において特に優れた不動産に投資するとした場合、そうでない不動産と比べて収益還元利回りにどの程度のプレミアムを考慮するかについて聞いたところ、何らかのプレミアムを考慮するとの回答がほとんどを占め、1%を超える高いプレミアムを付けるという回答も7%あった。前回調査で、環境性能だけに焦点を当てて聞いた結果と比べると、防災性が加わったことで積極的に評価する回答が明らかに増加した。

テナント企業においても、首都直下型地震や東海地震を想定したBCP(事業継続計画)の強化が喫緊の課題となり、耐震性能の高さ、非常用電源や防災備蓄の有無、複数の交通アクセスはオフィスビル選びにおいても重要な条件になっている。そもそも、地震や津波、豪雨などの自然災害や原発事故、伝染病など不測の重大事態に対する備えの有無は、企業における人命や事業の存続に直接影響する点で、地球温暖化ガス削減や自然保護などの環境配慮と決定的に異なる。「環境性能の高いビルには関心があるが、入居決定の判断要素ではない」が、「BCP上優れたビルには(実利が期待できるため)、それなりの対価を支払っても入居したい」ということだ。また、環境配慮についても、温暖化ガス削減に向けた義務的な取り組みというより、電力供給制約の長期化や電力コストの上昇懸念から、日常的かつ具体的な電力利用のあり方(節電、蓄電、発電、電源多重化・分散化、コスト削減)に関心が移った。企業の社会的責任(CSR)よりも、危機管理の色合いが強まったのである。

このことは、賃貸ビル事業において、テナント企業に「環境」を訴求するだけでは不十分であり、ビルのサステナビリティ(持続可能性:sustainability)が強く求められていることを意味する。ここでいうサステナビリティとは、(1)建築・設備の物理的・経済的性能、(2)資産価値・投資価値、(3)社会的価値(省資源・防災・公共性・ワーカーの健康等)、が長期的に維持されており、災害や社会・経済環境の変化に遭遇しても利用者(企業)の事業継続を可能にする基盤として機能することと訳せよう。市場は、ようやく理解が進んできた「環境不動産」や「グリーンビル3 」を飛び越え、より高次の「サステナブルビル」を求めているといえるだろう。

このような新世代のAクラスビルといえる「サステナブルビル」の条件として、たとえば、海抜が高く強固な地盤に立地し、躯体構造の耐震性が高く、非常用電源や防災備蓄が確保され、複数の交通アクセスが利用でき、省エネ性能に優れていても十分ではない。これらのスペックを前提としつつ、テナントが重視すべきは、ビルオーナー(ビル管理者)の総合的なマネジメント力だ。今回の震災時、テナントの避難誘導どころか、被害状況のアナウンスすら行わなかったビルが7割もあったという。東北では、在館者が寒空にビルから締め出されて帰宅難民化したケースすらある。また、夏の節電ではテナントの積極的な協力もあって目標を大きく上回る節電が実現できたが、節電運動の結果や今後の取り組みなどについて、ビル側から丁寧な報告や相談を受けたテナントは多くないようだ。つまり、ハード面だけの充足では、企業のBCPは心もとないということだ。ビルオーナーの危機管理力に加え、テナントとの対話力や提案力4 があってこそ、ビルのサステナビリティが担保されることを忘れてはならない。


 
海外では、「グリーンビル」を「サステナブルビル」と同義で用いることが多い。日本政策投資銀行が開発した「グリーンビルディング認証」でも、エコロジー(環境性能)の観点だけでなく、リスクマネジメント(防犯・防災)、アメニティ(テナント快適性)、コミュニティ(周辺環境・地域への配慮)、パートナーシップ(ステークホルダーとの協働)の5つの視点で多面的に評価しており、サステナブルビルの概念といえる。しかし、日本で「グリーン」や「環境配慮」と表記した場合、一般人がBCPの意味合いを直感的に理解することは難しい。少なくとも、「環境不動産」は、明らかにミスリードであろう。

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