コラム
2011年05月17日

CSRとしての震災ボランティアを考える

  川村 雅彦

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3月11日の東日本大震災から二カ月が経った。この大型連休には、震災ボランティアとして東北地方に行かれた方もいることだろう。私は、4月下旬に一泊二日ながら、宮城県の被災地を訪れ、震災ボランティアの現場を見る機会があった。所属するNPOの研究テーマが「大震災後の新しいCSRを考える」となったため、伝聞ではわからない現地の状況を有志で視察することにしたのである。案内は現地に複数の活動拠点をもつRQ市民災害救援センター(本部東京)にお願いした。

最初に訪れた被災地は北上川河口に近い石巻市立大川小学校で、児童108人の7割と教職員10人が津波の犠牲となった(後日、天皇皇后両陛下が献花に来訪された)。なぜすぐ裏山に避難しなかったのか。地震から津波到達まで40分以上あったという。津波を想定していない地震マニュアルに従って、全児童を校庭に集め点呼した後、裏山に上がろうという意見もあったが、逆に川側のやや高台に向かったことが惨事につながったと聞いた。三陸地方には「津波てんでんこ」(一人ひとりがすぐに高台へ逃げろ)という防災伝承があるが、マニュアル遵守と現場判断の難しさを感じた。

次に向かったのは気仙沼市だが、海沿いの道は寸断されていたので、迂回して内陸部から入った。途中、いくつもの沢にガレキが残るのを見た。市街地に入ると光景が一変し、被災の範囲と惨状は想像を超えていた。土地の高低差が津波被害の明暗を分けたこともはっきり分かった。壊滅状態に近かった唐桑地区のカキ養殖場では、被災当時の話を直接聞いた。岸壁は1m沈下したという。次に訪れた南三陸町立伊里前小学校は高台にあったが、坂を下ると無数の学用品だけでなく写真や卒業の寄せ書までも土をかぶって放置されていた。これはガレキではないと思いつつも、その場を後にした。

話を聞けた被災者のなかで感銘を受けたのは、壊滅的な被害を受けながらも自ら立ち上がろうとする事業者の存在。悲しみを奥に秘めた眼の力が強く、起死回生の決意で復興をめざす。このような状況の中で、企業はCSR(企業の社会的責任)として、どのような支援ができるのであろうか。これを考える前に、震災ボランティアの現場に行って分かったことを簡単に整理しておきたい。

RQ東北現地本部は登米市(やや内陸部) にある廃校の体育館にあったが、中に入ると床や舞台に数十のカラフルなテントが所狭しと張られていたことに驚いた。よく考えてみれば当然だが、ボランティアはまず自らの寝泊まりする場所を確保することが基本である。また、ボランティアは多ければ良いというものではなく、稼動可能な人数は現地の収容能力(宿泊・食事・道具・移動等)を超えることはできない。一方で、被災地で使える技能の問題がある。泥かきなら体力があればよいが、例えば建物の解体・復旧には建設の専門技能が必要である。

夕食後に50名ほどのボランティア全員が集まり、明日の段取りのためのミーティングが始まった。チーム割ボードをみると、総務、料理、デリバリ、温泉バス、物資仕分け、泥かき等のチーム名が書かれている。様々な作業があり、後方支援を意味する「ボランティアのボランティア」という言葉も知った。今日来た人もいれば、明日帰る人もいるため、最適なチーム編成となるようメンバーを相互に融通する。チーム自体も状況に合わせて再編され、チームリーダーは互選で、アメーバーのような変幻自在な組織運営である。ここで大事なことは、効果的・効率的な救援のための日々改善と情報共有だが、ボランティア・コーディネーターの果たす役割が大きい。被災地には現地でないと分からない多様なニーズがあり、しかも時間とともに変化する。救援内容もそれに合わせて変えていく必要がある。現地救援の効果・効率は、彼らの能力に左右されるため、その育成が求められている。

ボランティアといえば個人やNPOを思い浮かべるが、「企業ボランティア」というのがある。同行者の中に旅行代理店の方がいたが、複数の顧客企業から組織としてのボランティアの申し出があり、仲介を依頼されたことが視察理由という。企業には資金や物資だけでなく役務の提供という救援方法もあり、むしろ社内の多様な人材を計画的に派遣できる利点がある。安定的な救援活動には多数短期よりもむしろ少数長期が望ましいと、コーディネーターは言っていたが、企業は現地で求められる知識や技能を考慮してローテーションにより人員派遣することは可能であろう。

最近になって、「プロボノ」という新しいボランティア手法が注目されている。元々は弁護士等などに限られていたが、様々な分野の専門家が職業上の知識・技能や経験を活かして社会貢献するボランティア活動をさす。これまでは個人的な意識に基づく活動であったが、プロボノ活動と企業の社会貢献と結びつけようとする企業が現れてきた。今回の震災でも宅配事業者が自社の車両・人材・ノウハウに基づき「救援物資輸送協力隊」を三県に設置している。これは単なる社会貢献を超えたCSRと言ってよいだろう。

CSRには多様な側面があるが、その本質は本業を通じで社会的課題を解決し持続可能な社会の実現をめざすことであることから、今回のような大震災においては、プロボノ的発想のCSRを検討することは非常に意義のあることである。

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