コラム
2011年04月01日

CRE戦略が変える東京のオフィス需給

  松村 徹

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2000年以降、東京都心部には、高度な建築・設備スペックを持つ大型ビルが増加してきた。市況回復が思わしくなく、新規オフィスビル供給の集中による「2012年問題」が懸念される現在も、新たな建替え・再開発計画が相次ぎ、大型ビルの新規着工が止まらない。特に、事業法人によるオフィスビル投資が目立つ。この背景のひとつに、企業におけるCRE(Corporate Real Estate:企業不動産)戦略の推進があると考えられる。都心一等地に不動産を持つ企業では、地価に見合った土地の高度利用が求められ、低利用で老朽化した建物を保有するケースでは、CRE戦略が建替えや再開発を進める強い動機付けとなるためである。また、土地持ち企業のCRE戦略に関与して、プロジェクト・マネジメント・フィーや仲介手数料などを狙う不動産会社の営業戦略も、このような動きを加速しているといえるだろう。さらに、リーマンショック後の不動産価格の下落や低金利、企業収益や資金調達環境の改善から、賃借より取得が有利と判断する企業が増加した可能性も高い。

ところで、CRE戦略では企業が保有する、本社ビル、支店・営業所、店舗、工場や倉庫、福利厚生施設、更地などの有効活用が議論されることが多い。しかし、企業価値向上の観点から不動産の”最適な選択”を行う場合、賃借している不動産も企業活動に必要な空間・施設であることに変わりはなく、CRE戦略の対象となるはずだ。また、今後、IFRS(国際財務報告基準)の新しいリース会計基準が適用されることになれば、オフィスビルの借り手は賃貸借に関わる取引として、オフィス使用権を資産に、契約期間に支払う賃料の現在価値を負債にそれぞれ計上する必要が生じる。2010年4月期以降の資産除去債務会計適用の影響も考慮すれば、賃借のメリットが減少するという見方もできる。その場合、企業の不動産保有志向が高まり、本社ビル開発や賃貸オフィスビル取得の動きが強まるだろう。

しかし、当然ながら企業のオフィス需要のすべてを自社ビルで賄うことは不可能である。また、20坪からビル1棟までの多様な需要に対応でき、通常2年で契約更新も解約も可能なフレキシビリティの高さというメリットもあり、賃貸オフィス市場が大きく縮小することはない。とはいうものの、CRE戦略に長けた企業は、借り手市場の中で所有と賃借の損得を秤にかけながら、少なくとも賃借を選択する場合は、これまで以上に厳しい条件をオーナーに要求するようになると考えられる。たとえば、今回の「東北地方太平洋沖地震」の教訓から、個別ビルの耐震性能の高さは当然ながら、災害時のBCP(事業継続計画)性能、エリアの津波リスクや地盤の安定性、災害時の交通アクセス、ライフラインの堅牢性など、オフィス選びにおいてリスクマネジメントの観点がこれまで以上に重視されるのは間違いない。

このように、CRE戦略の推進が、都心部でオフィスビル供給を増加させる一方で、大企業を中心に賃貸オフィスビルの選別が進むという構図から、本社機能の集中する東京の大型ビル需給動向に少なからぬ影響を与えるのではないかと考えている。

(注)不動産経済研究所 『不動産経済ファンドレビュー』 2011年3月25日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。

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