コラム
2010年06月18日

デンマークを乗り越えて 一段高いステージへ

  廣渡 健司

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サッカー日本代表がW杯第1戦でカメルーンに勝利した。
直前の強化試合では厳しい状況だったが、現実を見極め、監督と選手がお互いに意見をぶつけあい、意思統一された戦略で、集中力を切らさず戦って得た価値ある一勝だ。
必死に守り、泥臭く戦う姿に、久々に理屈ぬきの感動を覚えた。
ただ、グループ予選を突破するには、難敵との対戦が待ち構えている。次戦は優勝候補の一角、オランダ戦。現実的にはデンマーク戦が鍵になるだろう。

デンマークは、ポジショニングの乱れない組織的な守備で相手の攻撃を防ぎ、高さという武器を活かすためのシンプルなサイド攻撃につなげるという戦術が徹底されている。圧倒的な攻撃力を持つオランダに対しても、個々の選手が各ポジションの役割の中で、局面での戦いを挑み、組織力で跳ね返し、高さを武器とする攻撃陣に出きるだけいいボールを供給しようとチャレンジし続ける姿は、制度のフレームだけを作って、自治体や専門人材の連携力・裁量権を機能的に発揮させていくデンマークの福祉政策にも共通する部分が多い。

42,394平方km(日本の約1/9)の国土と546万人(日本の約1/23)の人口を有する国デンマークは、国民の幸福度が世界1位との研究報告(エードリアン・ホワイト氏, イギリス・レスター大学)があるほど、国民の満足度が高い生活大国である。ノーマリゼーション(すべての人が普通の生活を送る権利を可能な限り保障する)の発祥の地でもあり、社会福祉政策に手厚い北欧諸国の中でも、特にキメの細かい地域福祉政策が展開されている。

とりわけ、認知症も含めた高齢者の介護では、地域の中で、ひとりひとりの高齢者に対して、コーディネーターを中心に、かかりつけ医、看護士、介護士、リハビリを担当の専門家といったメンバーが協力してチームとして支えていく取組が確立している。制度の枠にとらわれない自治体レベルの柔軟な支援と、それを支える介護人材の教育システムや知識・技能レベルの高さによって、高齢期になっても自宅で暮らし続けたいという国民ニーズを満たしている。これは、所得税50%、消費税25%という高負担を、国民自身が選択し、納得感のある社会システムを追及してきたからこそ実現できている。

周知のとおり、日本は超高齢社会への道を猛スピードで突き進んでおり、2030年には65歳以上の高齢者は3割を超え、2055年には4割以上と、世界のトップランナーに躍り出ることが宿命付けられている。介護現場での意欲的な取り組みや、産官学の連携の動きも活性化してきているが、社会保障制度(年金・医療・介護等)の超高齢社会への備えはまだまだで、将来像も見えてこない。そのことが景気の低迷とともに、大きな不安が漂う原因になっているのではないか。
北欧の高福祉国家モデルをそのまま日本に持ち込めないのは当たり前。大男をそろえ、高さを活かしたサイド攻撃を中心としたデンマークの戦術を日本が真似できないのと同じで、日本には日本の戦い方が必要だ。しかし、敵(現実)を冷静に把握し、自分たちの戦力を自覚して戦い(負担)、しっかりと存在感を示している姿は大いに参考にしなければならない。
批判を浴びながらも明日への第一歩を勝ち取った日本代表のように、超高齢社会との戦いにおいても、産・官・学・労、各ポジションのメンバーが現実を見極めた議論をぶつけ合い、戦略をまとめなければならない。進むべき道を確かなものと信じて団結して歩むことができれば、平坦でないその道も決して「暗い」道ではないはずだ。


なお、ニッセイ基礎研究所では、下記シンポジウムを後援しております。ご興味のある方は是非ともご参加ください。
シンポジウム「デンマークの認知症ケア 医療・ケアサポート最前線」(主催:NPO法人地域生活サポートセンター)のご案内
http://www.nli-research.co.jp/company/gerontology_forum/gerontology_info/gero_info100629.html

廣渡 健司

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