コラム
2010年04月22日

「現実」を踏まえた具体的な保育政策を!

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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この記事の見出しを見て我が目を疑った。施設が利用対象者を拡大するのは、利用者が少なく十分に活用されていないケースだと思いこんでいたからだ。この記事とは「保育所の利用 要件撤廃」――今朝の日経新聞(4月22日朝刊)一面の見出しである。
   記事の出所である「子ども・子育て新システム検討会議」から正式な報告書は出ておらず、内容の詳細を十分に確かめられていない段階で発言するのは研究者として本意でないが、長年保育所を利用してきた一ユーザーという立場からも、あえてここで声をあげておきたい。

待機児童とは、認可保育所に入所を申請しているにもかかわらず、施設が一杯で入所できない児童を指す。厚生労働省が「待機児童ゼロ作戦」を発動したのは2001年すなわち約10年前であるが、待機児童の数はその後も2万人前後で推移し、2008年には「新」待機児童ゼロ作戦が発動された。しかしながら、2008年秋の金融危機を契機として入所希望者が急増し、2009年4月に2万5千人だった待機児童は2009年10月時点で4万人を超えている。

待機児童ゼロ作戦が始まった2001年に22,214か所/194万人であった保育所数/保育所定員数は、2009年に22,925か所/213万人と各711か所、19万人増加している。並行して認可保育所の定員弾力化が進められ、2001年には年度当初は定員の概ね15%まで、年度途中は概ね25%まで、年度後半にいたっては児童を無制限に受け入れる運用となった。にもかかわらず、待機児童が直近ではむしろ増加しているのは、保育所の増加が潜在需要に追いつかず、対応が後手に回っているからだ。

保育所を増やし、保育を安定的に供給していくためには、当然のことながら財源が必要となる。厚生労働省の資料によると、保育に係る公費は0歳児が月14万円、1~2歳は月7万円、3歳は月2万円とある。保育の担い手を多様化、効率化するなどの対応ももちろん必要であるが、財源の手当がないままに待機児童を減らそうとしても限界がある。最も懸念されるのは、無理な政策のしわ寄せが児童におよぶことである。

広さの最低基準を満たしている保育施設でも、お昼寝の布団を敷きつめると足の踏み場もない状況となる。必死で仕事を続けてきた母親が、第二子が保育所に入れずに仕事を辞めざるを得なくなる。生活のために働かなければならないのに保育所が一杯で、小さい子どもを家に置いたまま母親が働きに出る。・・・これらは全て私が目にしている「現実」である。

保育所の利用要件を撤廃し対象者を広げるよりも先に、保育政策としてやるべきことが山積している。上述のような現実を踏まえ、100万人といわれる潜在需要に対応し、待機児童をゼロとするための具体的な財源と対策を示すことこそ、喫緊の課題であろう。

社会保障審議会少子化対策特別部会第1次報告参考資料(2009年)によると、必要な保育サービス等を整備するための追加コストは8600億円~1兆5,300億円と推計されている。2010年は2.7兆円、2011年以降は5.5兆円といわれている子ども手当(といいつつ何でも買える手当)の財源より、ずっと安いではないか。

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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

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