コラム
2009年08月05日

少子化政策マニフェスト、経済支援のその前に。

生活研究部 研究員   天野 馨南子

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2009年7月31日、8月の衆院選に向けた自民党のマニフェストが発表され、各党のマニフェストが出揃った。

各党がさまざまなマニフェストを掲げているが、「政権を獲得した際に実施する」ものがマニフェストであることから、政権獲得可能性の高い2党、自民党と民主党のマニフェストを見ると、どちらも少子化政策について大々的にPRしているのがわかる。

特に子育て支援として、両党とも子育て中の家庭への手厚い経済支援を謳っている。民主党の中学卒業まで月々26000円の子供手当(所得制限なし)は予算が5兆円を超えるおおがかりな経済支援策である。その他にも3歳から5歳の幼児教育無償化(自民)、公立高校教育授業料の無償化・私立高校生への年12-24万円の助成金(民主)、出産一時金55万円への増額(民主)、高校・大学の返済義務のない奨学金の創設ならびに低所得者の授業料無償化(自民)等、2党ともいずれも相当な財源確保が必要な経済支援がずらりと並ぶ。

日本の合計特殊出生率は1975年以降2.0未満で低下を続け、この3年間では1.32(2006)、1.34(2007)、1.37(2008)と1.3台という低い値で推移し続けている。このような状況で、カップルがあと一人、子供を持とうと考えるようになるには、先に述べたような手厚い経済支援が最も有効な政策なのであろうか。

実は、わが国の少子化対策の足を最も引っ張っているのは、子育て期の男性の長時間労働を柱としたわが国の労働環境である、という研究成果がワーク・ライフ・バランス研究や少子化研究の中で紹介されている。最も注目される研究成果として、2人目までの妻の出産意欲には「妻の夫婦関係満足度」が大きく影響し、「妻の夫婦関係満足度」には夫婦の「共有主要生活活動数」が最重要である、というものがある。「共有主要生活活動」とは、休日の「くつろぎ」「家事・育児」「趣味・娯楽・スポーツ」、平日の「食事」「くつろぎ」をともに行うことを指す1

つまり合計特殊出生率がいまだ1.37である現状を鑑みると、経済支援よりもまずは男性の「家庭回帰」を進めるほうが先決ではないかと筆者は考えている。

なぜなら、わが国の男性をみると週60時間以上働いている30代(子育て期)の男性が実に20.0%(2008年、全産業)と、子育て世代の5人に1人が家族で夕食を共にすることが難しいほどの長時間労働に携わっている。このような日本男性の働き過ぎは他の先進諸国と比較しても際立っている。

また、わが国の6歳未満児のいる世帯の男性が1日に家事(うち育児)に関わる時間はわずか58分(32分)であり、アメリカの206分(73分)、イギリス166分(60分)などと比べると非常に少ない時間しか、男性は家事育児に協力できていないのが現状である。

このような長時間労働の現状を改善しなければ、いくら産めよ増やせよといっても妻の夫婦関係満足度は向上せず、ゆえに妻の出産意欲も向上しないのである。

男性の31.8%が育児休業を取得したいと考えているにもかかわらず(ニッセイ基礎研究所「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」2008)、男性の育児休業取得率はわずか1.56%(2007)と低迷を続けていることは周知の通りであり、このような男性の育児参加への希望と現実の乖離もまた、少子化の元凶となっているように思う。

こうした男性の働き過ぎを解消し、カップルが家庭においてともにより豊かな時間をすごせるようにしてこそ、わが国の少子化に歯止がかかるのではないだろうか。見た目に豪華な経済支援策を並べるよりも、長時間労働削減対策に限りある財源を振り向けることこそが、少子化マニフェストの真にあるべき姿ではないかと考える。

1RIETI ディスカッションペーパー「夫婦関係満足度とワーク・ライフ・バランス:少子化対策の欠かせない視点」
     2006年9月

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生活研究部   研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

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