コラム
2008年06月25日

クリーンテクノロジーに向かう米国ベンチャーキャピタル

常務取締役理事   神座 保彦

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米国のベンチャーキャピタルは、投資先として環境技術関連領域であるクリーンテクノロジー分野に注目しだした。全米ベンチャーキャピタル協会公表数値によれば、2007年の米国ベンチャーキャピタルによる投資資金の約3割がバイオ医療機器などライフサイエンス分野に投入され、約4割がソフトウェア、インターネット、通信などIT分野に投入されている。注目を集めつつあるクリーンテクノロジー分野への投資は代替エネルギー開発企業への出資などが典型例だが、現在、ウエイトでは7%強にすぎないものの、対前年増加率では47%の急増を示している。

米国の年間ベンチャー投資額は、2007年で約3兆円なので、その7%強でも大きな金額が投入されているとも考えられる。ちなみに、日本のベンチャー投資は、年間投資額で米国の10分の1程度、投資残高で30分の1程度といった水準で推移してきている。

個別のベンチャーキャピタルにおいても、クリーンテクノロジーに向けて舵を切る動きが出ている。アマゾン・ドット・コムやグーグルなど多くのベンチャー企業への投資を成功させ、シリコンバレーで最も有名なベンチャーキャピタルと言っても過言ではないクライナー・パーキンズ・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)は、「不都合な真実」で名を馳せたアル・ゴア氏をパートナーとして迎え入れた。

ゴア氏は環境配慮の視点からの投資視点を持つジェネレーション・インベストメント・マネジメントの会長を務めるが、KPCBは、このジェネレーション社との提携も発表している。足元では、KPCBは環境ベンチャーなどを投資対象とした1200億円程の新ファンドを設定したところだ。

これまでベンチャーキャピタルといえば、投資金額の十倍を超えるような資金回収を可能とする「ホームラン」案件候補企業を発掘し、株式公開に向けて強力な経営支援を行うというのが典型的な投資発想である。「ホームラン」を狙うのは、成功企業のもたらした利益で、投資回収にまで至らない案件にかかわる損失発生を埋め合わせ、さらに余りが出ないとファンドのリターンがプラスにならないベンチャー投資の構造によるものである。

ところで、これまでIT、バイオテクノロジーと先端分野を渡り歩いてきたベンチャーキャピタルが、ここにきてクリーンテクノロジーに注目しだしたことは、彼らが、次の「ホームラン」案件がクリーンテクノロジー分野から輩出するはずと読んだことに起因するものであろうか。もちろん、出資者の資金を運用している立場上、その読みがなければ多くの資金を特定分野に投入することは考えにくい。

これまで、様々な分野でベンチャー投資を通じてイノベーション創出を後押してきたのがベンチャーキャピタルである。イノベーションが創出されると当事者が金銭的な報酬を受けるだけでなく、その恩恵は広く社会に及ぶこととなる。なお、このクリーンテクノロジー分野でイノベーションが創出できれば、その恩恵は人類社会や地球環境の持続可能性が高まる形で及ぶことが期待される。

この一連の動きを見ると、筆者としては、ベンチャー投資の世界にも、高い金銭的なリターンを獲得できる読みを満たしつつも、人類社会や地球環境の持続可能性を高めることにも同時に価値を見出すSRI(社会的責任投資)的な発想が少なからず出つつあるものと期待したいところである。

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ソーシャルベンチャー、ソーシャルアントレプレナー

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