コラム
2008年05月08日

契約者還元の充実を

  明田 裕

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半世紀ぶりの抜本改正

北京五輪の開催まであと3カ月となったが、今年と同じ子(ね)年に行われた1996年のアトランタ五輪で筆者が思い出すのは、サッカーの対ブラジル戦である。出勤するため自宅を出た時点で試合は始まっていたが、会社に着くと、普段は静かなオフィスが「勝ってる」「まさか」と盛り上がっていたことを記憶している。
   そして1996年は生保業界にとって大きな節目の年であった。保険事業を律する「保険業法」が1939年以来半世紀ぶりに抜本改正され施行されたのである。そこでは、生損保の相互参入、いわゆる第三分野の自由化、生保募集における一社専属制の緩和といった一連の規制緩和が行われ、その一方で、ソルベンシー・マージン規制の導入、安全ネットの整備といった生保事業の健全性維持、利用者保護のための措置が図られた。


逆風・激動の時代によく機能した改正保険業法

振り返ってこの12年間は生保事業にとって逆風・激動の時期であった。超低金利の定着はいわゆる逆ざや問題を深刻化させ、7つの生保会社が破綻した。それに伴う生保離れもあり、保有契約高(死亡保障の総額)はまさに1996年度をピークに減少を続け、ピーク時の約2/3の水準に落ち込むに至っている。
   そうした時期にあって、改正保険業法はなかなかよく機能してきたといえるだろう。商品・価格の自由化や販売チャネルの多様化は利用者の選択の幅を広げたし、健全性維持のための規制は、生保会社やその契約者が被る痛手を比較的軽微なものにとどめることに貢献した。


契約者還元の充実を

ただ、健全性の維持が重視される一方で、契約者への還元、つまり契約者配当がこの間低く抑えられてきたことは否めない事実である。わが国の生命保険契約の多くは「有配当契約」と呼ばれるタイプであり、不測の事態が生じても保険金等の支払いを全うできるよう、予め死亡率等に相当の安全目を見込んで保険料を徴収しておき、死亡率等が当初想定どおりに推移した場合には、余分に徴収した部分を「配当」として還元する仕組みである(こうした「配当」はいわば余剰保険料の精算であり、株主配当とは全く性質が異なる)。しかしながら、この12年間については、健全性維持のための内部留保の充実がいわば緊急避難的に優先され、配当還元は必ずしもそうした仕組みに沿ったものではなかったように思われる。
   筆者は、健全性の維持・向上と契約者還元の充実の両方をバランスよく実現することこそ生保経営の目指すべき姿だと考える。英国やドイツのような還元ルール(剰余の一定比率以上を配当で還元すべきことを法定)を設けることも検討すべきだが、逆ざや負担が一段落したということであれば、先ずは各社が契約者還元の充実に努めるべきではなかろうか。

明田 裕

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