コラム
2004年11月08日

望まれる住宅ストックの有効活用

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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1.人生における住宅:日本は「双六」、英国は「梯子」

人生における住まいとの関わり合いは、わが国においては「双六(すごろく)」に譬えられる。「終(つい)の棲家」となる広い持家に移れば、そこで「上がり」だ。興味深いことに、英国では人生における住宅の変遷は「梯子(はしご)」に譬えられる。ライフステージや経済状況に応じて「上がり」もあれば、「下がり」もあるというのである。

日本と英国の年齢階層別持家率

(資料)総務省「住宅・土地統計調査」英国国家統計局「Family Resources Survey」

まず、図に示す通り、年齢階層別の持家率は英国では引退直前でピークに達し、その後は若干ながら低下する。引退後に持家を売り払って賃貸住宅に移り住む高齢者が存在するからである。
しかし、持家から賃貸住宅へ住み替えをする高齢者世帯よりも、持家から持家へ住み替える高齢者世帯の方が断然多い。その実態は、小規模な持家への買い換えを行うことによって売買差額を金融資産に転換するというものである。
英国でも、住み替え自体は、現役期の方が活発に行われる。就職や転職を機に、あるいは、家族構成の変化の際にというだけでなく、所得の状況に応じて柔軟な住み替えが行われる。住宅ローンを利用して持家を取得した後に利払いの継続が困難になったら、持家を手放して賃貸住宅に住み、所得状況が好転したら再取得するということも行われる。この場合、居住する住宅の面積も、総資産を住宅という形態で保有する割合も、一度は「下がって」、また「上がって」という推移になる。

日本ではこのように柔軟な住み替えは行われない。世帯という観点ではなく、住宅市場という観点から両国を比較すると、持家の取引が新築住宅中心に成り立っているのが日本であり、中古住宅中心に成り立っているのが英国である。そして、賃貸住宅と持家の代替性が低いのが日本であり、代替性が高いのが英国である。生涯にわたって豊かな住生活を実現するのに適した市場構造がどちらの国にあるかは明白であろう。日本の住宅市場においては、量的には十分なストックが存在するが、中古住宅と賃貸住宅が本来の機能を発揮していないという意味で、質的には未成熟な市場と言わざるを得ない。


2.増加する住宅ストックの有効活用を

こうした構造を改善する最も手っ取り早い方法は、すでに十分な住宅ストックが存在するという状況を生かすことをおいて他にはないであろう。簡略に言えば、既存ストックの有効活用である。住宅ストックの量は既に充足されているというより、過剰気味だからである。

2003年に実施された「住宅・土地統計調査」によると、総世帯数が4722万世帯であるのに対して、総住宅戸数はそれを大きく上回る5387万戸も存在する。空家率は12.2%にも達している。ここで既存ストックの有効活用という観点から注目したいのは、住宅の所有者、特に複数の住宅を所有する持家世帯に関してである。
まず、「現住居を所有している世帯」は2571万世帯、「現住居以外の住宅を所有している世帯」は364万世帯と公表されている。「住宅を所有している世帯」は2638万世帯であるのに、「現住居を所有している世帯」はそれより67万世帯少ないということであるから、差の67万世帯とは「住宅を所有しているが現在は賃貸住宅に住んでいる世帯」と推測される。したがって、「現住居以外の住宅を所有している」364万世帯から67万世帯を控除した297万世帯が「現在居住している持家以外に何らかの住宅を所有している世帯」に相当するはずである。

住宅を所有している世帯の内訳(2003年)
(資料)総務省「住宅・土地統計調査」

そして、現住居以外の住宅を賃貸住宅として使っている世帯は124万世帯にとどまっており、親族用・別荘・空家など賃貸住宅利用以外で複数の住宅を所有している持家世帯は少なくとも173万世帯、持家世帯全体(2866万世帯)の6%に及ぶとみられる。
ちなみに、敷地に関して同様の試算を行うと、持家世帯の26%に相当する750万世帯が「現在居住している持家の敷地以外に何らかの住宅の敷地を所有している世帯」と推定される。

重要なのは、このように複数の住宅や敷地を所有する世帯の割合が今後も増加する可能性が高いことである。周知のとおり、戦後の高度経済成長期に地方から大都市へ人口が流入し、定着する過程で自分の代で新たに持家を取得した世帯が数多く存在し、そうした世帯の引退が徐々に進行している。その引退した高齢者世帯の約半分はこどもと同居しておらず、死亡時に当該住宅が遺産相続されるまでの間にこどもの多くは別途持家を取得しているとみられる。男女の初婚年齢、第一子出産時年齢、平均余命から判断すると、相続のタイミングとして最も多いのは「こども」が50歳代後半に達する頃と考えられる。思いがけず、引退間近に複数の住宅を所有してしまう世帯が今後増える可能性が高いということである。

親から相続した元「持家」であっても、所在する地域に自分や親族が住むニーズがあるとは限らない。その場合、空家のままで放置しておくのでなければ、賃貸住宅に転用するか、別荘として利用するか、売却するかの選択を迫られることになる。何らかの有効利用をしなければ、資産として残してくれた親への申し訳も立たないというものである。

つまり、相続された元「持家」が中古持家や賃貸住宅の供給源になり得るのである。そう言ってしまうと何ともやりきれない感じがするが、親から子という家族内の継承にとどめて空家にしてしまうのではなく、社会全体で前の世代が築いたストックを次の世代が継承する方がはるかに有益であろう。
前の世代に敬意を払い、前の世代が築いたストックを有効活用しようとするならば、住宅のありようは変わるし、また、前向きに変えていかなければならないであろう。もちろん、それは相続を契機としなくても、出来るはずのことではあるが。

 
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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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