コラム
2003年02月07日

米国の景気動向と「双子の赤字」

  土肥原 晋

文字サイズ

1.再現された「双子の赤字」

1月にブッシュ大統領が発表した減税案は、米国の財政赤字を大幅に膨らませそうである。減税案を反映させた予算教書(2月発表)では、2003年度の財政赤字の見通しは3042億ドルに急増する。過去の財政赤字の最高は、92年度の2904億ドルであり、ブッシュ政権になって3年度目で早くも過去最高の赤字額を上回りそうな情勢だ。

しかも、この数字にはイラク攻撃に関係する費用を含んでいないため、戦争となった場合、「対イラク戦争のコストは最大2000億ドル」とコメントしたのち辞任したリンゼー大統領補佐官の言の半分とみても1000億ドルが上乗せされるため、今年度の財政赤字は、4000億ドルに達する恐れも出てきた。仮に、戦争に至らなくても、既に米国は15万人の軍隊を中東に派遣済みであり、招集された予備役は9万5千人と伝えられる。国防関係の受注も急増しており、国防費の上乗せは避けられないだろう。

一方、経常赤字も、2002年には5098億ドル(OECD見通し)とこれまでの最高額4103億ドル(2000年)を大幅に抜き去る勢いである。こうなると想起されるのは、80年代の米国経済で最大の課題であった「双子の赤字」である。何分にも20年近く前の話であるため、名目GDP比で新旧の双子の赤字を比較すると、財政赤字はピークの6.0%(83年度)が2003年度は2.8%(予算教書見込)、経常赤字はピークの3.4%(87年)が2002年4.9%(見込値)と、経常赤字が前回のレベルを上回る半面、財政赤字は前回の半分のレベルに留まる。

2.「双子の赤字のメカニズム」の問題点

なぜ「双子の赤字」がそれほど問題視されたのであろうか。80年代の「双子の赤字」は、レーガノミクスに端を発するが、大幅減税が財政難を惹起、実質金利を高止まりさせて成長を抑制し、また経常赤字を拡大させて海外資本の流入を促進した。その結果、経常赤字が拡大する一方でドル高が生じ、輸出を圧迫して経常赤字をさらに拡大させたのである。この対応策として、85年にプラザ合意による為替の調整を行ない、同年、財政面でも91年度の財政均衡を目指したグラム・ラドマン・ホリングス法が制定された。その後、経常赤字は91年に一旦黒字に転換したが、財政赤字の黒字転換には98年度まで、法改正後13年もかかったのである。

アブソープションアプローチからは、総生産と国内支出の差が経常収支となるため、財政赤字を拡大させて内需を拡大させると、経常赤字が拡大する。逆に、経常赤字を縮小したいのならば、財政赤字を減少させる必要がある。今回、ブッシュ大統領は大幅減税を選択し、双子の赤字は急速な拡大を見せているが、経済成長を優先した結果の双子の赤字であり、大統領は、「財政赤字解消のためにも最善の策である」と説明している。ただし、2004年の大統領再選を目指して賭けに出たとの見方も根強い。

この双子の赤字のメカニズムの起点は、財政赤字拡大によるクラウディングアウトである。新任のスノー財務長官も説明しているように、予算教書発表後も、「長期金利が落ち着いているのは、財政赤字のレベルが受け入れられないほど大きなものではない」からなのかもしれない。実際、米国経済の回復は遅れており、2年余にわたるストック調整後にもかかわらず、企業の設備投資意欲は依然弱く、需給面でのクラウディングアウトが直ぐに起きそうな状況ではない。また、インフレ懸念は薄く、ドル信認の面でもレーガノミクスが登場した時の経済環境とは大きく異なる。

一方、経常赤字の拡大については、イラク問題と並んで最近のドル安要因とされている。先日の紙面でも「米国の「双子の赤字」でドル安が進みそうだ。」と指摘されていた。双子の赤字でドル安が進むのであれば、双子の赤字をあえて問題視する必要はない。ドル安に動けば、米国の輸出が伸びて貿易赤字を抑制し、市場の調節が経済を正常化へと導くからである。現状では、「双子の赤字」は再現されつつあるが、かつて問題視された経常赤字が拡大しているのにドル高となった「双子の赤字のメカニズム」は、未だ出現していないようである。

3.今後の景気動向と「双子の赤字」

さて、当面の景気動向であるが、米国経済は下半期に向けて後半回復型となりそうだ。イラク問題を考慮に入れれば、上半期は、消費マインドの低下と、停滞気味の生産が持続し、消費・投資ともイラク問題の決着待ちとならざるを得ない部分が出てこよう。しかし、ここでの景気の停滞は、議会における景気対策の合意を促進させる。ブッシュ政権の減税策には民主党の反対が根強いが、民主党としても方策は気に入らないものの景気の梃子入れには賛成だからである。このため、下半期はブッシュ減税が何らかの形で実施に移され、これが景気を刺激する。減税は、それが消費されようがされまいが、確実に可処分所得を引き上げる。可処分所得の引上げは、やがて消費を促進しよう。

こうして下半期の景気にはインセンティブが働くと思われるのであるが、難しいのはそこから先である。そのころには、景気回復と財政赤字の拡大が重なって金利を上向かせ、「双子の赤字のメカニズム」が意識され始めているはずだからである。金利の上昇は、設備投資にも大きな打撃を与える。そろそろ終局に向かいつつあるストック調整であるが、立ち直りの時期に金利の上昇が起こると失速しかねない。そうなると、2001年に続いて二回目の減税法である今回も景気の持続的な回復に失敗してしまう恐れがあろう。2004年は大統領選挙の年であり、ブッシュ大統領の景気対策には後のない年である。その時、自らが一層大きく育てた双子の赤字に足を引張られないようにするためにも、「双子の赤字のメカニズム」が働く前に景気を成長軌道に乗せておかなければならないのである。

このレポートの関連カテゴリ

土肥原 晋

研究・専門分野

レポート

アクセスランキング

【米国の景気動向と「双子の赤字」】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米国の景気動向と「双子の赤字」のレポート Topへ