コラム
2001年10月01日

日本経済が直面する景気後退下の円高

  岡田 章昌

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1.高まる円高リスク

為替市場では、米国経済の先行き懸念を背景に円高リスクが急速に高まっている。景気が一段と悪化しつつある日本経済の現状を考えれば、なぜ円が買われるのか理解に苦しむ向きも多いことであろう。しかし、為替レートは二国間の通貨の相対価格であり、日本の要因だけでは決まらない点を忘れてはならない。日本が景気後退下であっても米国経済の状況次第では円高が進展することは十分にありうるわけである。現に98年夏のロシア危機に端を発した米金融システム不安からドル安が急速に進展し、98年8月以降のわずか数カ月の間に140円/ドル台から110円/ドル台へ円高が進行したことは記憶に新しい。
   9月中旬以降120円/ドル近辺から115円/ドル台後半へ進行した円高は、日本の通貨当局が急激な為替変動による日本経済への悪影響を緩和するため執拗なまでに円売り介入を繰り返したことから、9月中間決算期末には元の120円/ドル近辺まで水準を戻している。しかし、米国経済の下振れリスクがさらに高まっている上、米国の累次の利下げにより日米短期金利差が急速に縮小しつつある中では、このような円高は一時的な動きではなく今後もトレンドとして定着していく可能性が高いと判断される。
   現在高まっている円高リスクについては、9月11日に米国を襲った同時多発テロ事件を契機としたものと考えられがちであるが、事件前の8月上旬以降からすでに緩やかなドル高修正(緩やかな円高)が進展していた点には注意しておく必要がある。このような動きの背景には、(1)IMFの米国経済に関する年次報告で経常収支赤字の持続可能性の問題からドル下落リスクが指摘されたことや、(2)米国経済において失業率が急上昇するなど調整局面の深まりが懸念されたこともあり、事件前にすでにドル売り圧力(円高圧力)が高まっていたのである。したがって、同時多発テロ事件による国際金融市場の混乱はほぼ収束しつつあるが、今後については同時多発テロ事件の悪影響が加わる形で米国経済ファンダメンルズのさらなる悪化が顕在化してくることが予想される。今回は「有事のドル買い」という経験則は当てはまらず、今後もドル下落圧力(円高圧力)はくすぶり続けることであろう。

2.為替介入で円高トレンドを止められるか

景気後退によりデフレ圧力が高まりつつある日本経済においてデフレスパイラル懸念を払拭しつつ構造改革を着実に進めていく上で、さらなるデフレ圧力をもたらす円高はできることなら回避したいところである。今後の為替相場の動向をみていく上で注目されるのは、(1)日本の通貨当局が9月にみられたような円売り介入による断固とした円高抑制スタンスを10月以降も貫き続けるかどうか、(2)円売り介入が引き続き行われた場合には為替介入の効果により円高トレンドを止めることができるかどうかの2点である。
   9月における日本の通貨当局による円売り介入は、急激な円高が中間決算にもたらす悪影響を取り除くことを視野に入れたものと考えられる。また、意図していたかどうかは不明であるが、為替レートの輸出関連株への影響を通じた株価下支えに対しても効果があったといえる。したがって、決算対策の必要性が剥落する10月以降もこのようなスタンスが継続されるかどうかが注目される。9月末のように119円/ドル割れで介入が入るようであれば、日本の通貨当局の円売り介入は中間決算対策にとどまらず断固として円高トレンドを抑制しようとするものと捉えられるであろう。また、9月日銀短観における2001 年度下期の想定為替レート(大企業・製造業)は115.89円/ドルと6月調査の113.08円/ドルより円安方向に修正されており、企業収益への悪影響を取り除くという点では引き続き116~117円/ドルが水準として円売り介入の一つの目安となるであろう。
   しかし、円売り介入が引き続き行われた場合であっても円高トンレドを完全に止めることは難しいと考えられる。財務省が公表している91年度以降介入実績をみると(下図)、為替介入により円高トレンドの反転に成功したケースはほとんどみられず、為替介入はあくまでも行き過ぎた相場変動を抑制する程度の効果しかないとみておいた方がよいといえる。
   円高が一方向に進展する事態は為替介入による速度調整が期待されるため想定しづらい。しかし、米国経済の一段の減速を減速を背景に緩やかな円高が進行していく可能性が高く、日本経済は景気が低迷する中で円高が進むという厳しい状況に直面することになるであろう。

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