コラム
2001年07月16日

大幅悪化でも楽観的すぎる?短観の結果

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

文字サイズ

1.見送られた金融政策の変更

今回の短観では製造業では業況判断が更に大幅に悪化したものの、非製造業ではほぼ横這いとなるなど、全体としてみると結果は事前の予想ほどには悪化しなかったと評価されよう。短観の結果が予想外の悪化を示すようであれば、7月12、13日の金融政策決定会合でも日銀が追加的な金融緩和に追い込まれる可能性があると考えていた。しかし今回の結果は、4月以降の鉱工業生産の落ち込みなど経済指標の悪化からみれば、むしろ懸念していたほどは企業の景況感が悪化していないと評価されるだろう。日銀が今回金融政策の変更を行わなかったのは当然である。しかし、今回の結果には年度の下期の売上げ・利益計画に輸出の増加などが組み込まれているなどの面で楽観的と考えられる部分も見られ、今後は下方修正される恐れが大きい。

2.大幅に悪化した6月調査

まず金融政策の決定に際して最も注目される業況判断DI は、大企業・製造業では▲16(前回▲5)と更に悪化したが、大企業・非製造業では▲13(前回▲13)と横這いだった。製造業の景況感は企業の規模によらず大幅に悪化したが、非製造業では3月調査から概ね横ばいの動きとなっている。非製造業の景況感がもともと悪かったということはあるもの、今回の調査でさらに悪化しなかったという点には、やや意外な感を持っている。

3.先行きには改善期待も

業況判断の先行き(3か月先)については、大企業・製造業では▲14、大企業・非製造業では▲11 と現状よりは若干の改善が予想されている。業種別にみると大企業・製造業では現状については2ケタの悪化幅となった業種が多い。例えば米国IT 産業の急減速の影響をもろに受けたと見られる電気機械は▲9からさらに▲35 へ大幅な悪化が続いている。しかし先行きについては、▲22 と13ポイントの改善幅となっているなど、今後には改善の期待も見られる。大企業・小売では3月調査に比べて若干改善を示している上に、先行きも改善が見込まれている。

企業業績や売上げにも先行きの改善期待が認められる。製造業では2001 年度上期は減益が予想されているものの、下期には大企業と中小企業では増益の計画となっている。大企業・製造業の2001年度売上高では、下期の輸出が3.8 ポイント上方修正され前年度比5.5%の増加が計画されており、年度全体でも輸出は2.4 ポイント上方に修正されて前年度比1.0%増加の計画となっている。1-3 月期の米国経済の減速が懸念されたほどにはならなかったことから、下期には米国経済の回復による輸出の増加という期待が背景にあると考えられる。

4.期待は失望に終わる懸念も

米国の4-6月期のGDP は7月27日に発表されるが、1-3月期の実質1.2%成長を下回るおそれが大きい。米国の株式市場はNY ダウもNASDAQ も企業業績に敏感に反応して大幅な上昇、下落を繰り返しており、非常に不安定な動きとなっている。これまでのところ米国の景気の減速は企業部門に留まっているが、いずれ消費の減少など家計部門にも及ぶはずだ。今のところ米国景気の標準的なシナリオは、今年の年末に実施される減税の効果で年末頃には底を打つというものだ。これに従えば日本からの輸出が盛り返すのはその後ということになるから、今回の短観の結果の背景となっている企業が抱いている米国経済など世界景気の動きよりは、輸出の回復はだいぶ遅いということになる。こうしてみると、今回の短観の結果が予想していた程は悪化していないという点を手放しで喜ぶわけにはいかないだろう。企業の期待している下期に売上げが回復して収益も改善するというシナリオは実現しない可能性の方が高いと考えられるからだ。

今回のサミットでは既に開かれた財務大臣会合でも世界経済の減速が大きなテーマとなった。米国経済の回復が緩慢だという証拠が増えれば、この点はより大きな問題となるだろう。日本経済は当面構造改革による景気の下押し圧力が強く、今年度はマイナス成長の可能性も大きい。世界経済の減速が国際的に大きな政治課題となってくれば、日本経済の回復に対する期待と圧力もますます高まって行くだろう。日本の財政赤字が巨額に上る現状では金融政策に対する期待が大きい。様々な機会に述べているが、量的金融緩和など提案されている金融緩和策の効果はほとんど期待できないと考えている。しかし、こうした追加的な金融緩和への国内外からの圧力に日銀がいつまでも抵抗することは困難で、いずれ追加的な金融緩和に追いこまれるのは必至である。補正予算を巡る議論が活発化し国債増発の思惑から長期金利が上昇すれば、長期国債の買いオペに対する圧力は非常に大きなものとなるだろう。そういう観点から考えると、参議院議員選挙が終わるころから4-6 月期のGDP が発表される9月半ばまでの間に、金融政策の変更が行われるという可能性が極めて高いといえるだろう。

このレポートの関連カテゴリ

42_ext_01_0.jpg

経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

レポート

アクセスランキング

【大幅悪化でも楽観的すぎる?短観の結果】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

大幅悪化でも楽観的すぎる?短観の結果のレポート Topへ