1999年12月25日

新しい皮袋を

  細見 卓

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昨年世界を悩ませた政治的動乱、経済・金融の危機も小康状態となり、安堵のうちに年を送ることができた。クリントン大統領のIMF総会での演説を待つまでもなく、危機は再来を避けることができないものである。現代の金融・貿易機構を根本的に強化しない限り、世界の将来不安は取り除かれないというのが大方の見方であろう。
最近、米国の外交委員会(Council on Foreign Relations)が中心となって識者を集め検討した結果が、雑誌"Foreign Affairs"の年末号に掲載された。もちろん、いろいろな批判もあろうが、米国の識者達が多数参加した討論の成果であり、今後の検討にとって貴重な礎石となるものであろう。座長は日本でも有名なPeter PetersonとCarla Hillsが務め、IMF元調査部長Morris Goldsteinがとりまとめを行った。そのレポートの要旨は次のようなものである。
通貨危機を根絶することは困難であるが、新しい通貨機構をつくり上げて危機を防止し、その影響を軽減することは、世界の利益でもあると同時に、各国の利益である。
各国経済の世界経済に対する依存度は年々大きくなってきており、米国を例にとるとその依存度は80年代に比べて2倍となり、60年代と比べると3倍となっている。また、米国については貯蓄の大きな部分が海外投資に向かっており、海外投資の損失は米国経済を直撃するほどの影響度を持ち始めている。このようにして国際通貨体制の与える影響は内外ともにますます大きくなってきている。
国際金融市場の拡大により、資本や貯蓄が狭い市場を超えて広く発展することが可能となったが、一方、国際金融市場は今回のアジア危機のように時として非常に危険なものとなる。そうした危機を防止し、その影響を軽減するには、途上国が自国の経済運営を健全に維持し、国際資本にとって魅力的なものとする必要がある。
また今回の危機を顧みると、貸し手と借り手の態度が変わることが必要である。変わらなければ、国際金融の変動が大きく危機的な軌跡というものは変わらないであろう。ただ貸し手、借り手の態度の改善を望むと言うだけでは解決にならず、改善にむけて双方にインセンティブを与えることが必要である。
そのためは「公的救済はより小規模であまり頻繁に出動するわけではない」というルールが必ず守られる必要があり、そのルールによって貸し手、借り手の態度は変わるはずである。そうした観点から以下の6原則を上げている。
(1)途上国に危機防止のための努力をさせること
(2)流入した国際的資金余剰が最良の投資リターンが得られる形で運用されること
(3)危機が起こった時には、民間部門の貸し手、公的部門の貸し手間で公平な損失分担が行われること
(4)危機防止、危機解決にあたっては、市場原理を活用すること
(5)国際金融の脆弱さは途上国のみならず先進国の責任でもあること
(6)MFと世銀との役割分担を明確にして再確認すること
次に、以上の6原則に基づいて、以下のような7つの具体策を提案している。
(1)良好な国内経済運営を行った国については褒美が与えられること
(2)資本移動について過度になることを避けること
資本移動は望ましいことであるが、過度に到ると予想外の蹉跌をきたすことは、今回の危機で理解されたところである。
(3)民間部門にとって損失はできるだけ避けたいところとはいえ、公平な損失分担と市場原理の貫徹が必要
損失を徒らにIMFのような公的機関に移転することは、モラルハザードの原因となるため、公的救済に大きく依存することは世界経済にとって望ましくない。
(4)いわゆる通貨ペッグについては避けること
通貨は市場で評価された方がよい。
(5)IMFの融資についてはできるだけ少ない方が良いこと
IMFの基本となる役割は、国際収支が困難となった国が通貨切下げや近隣窮乏化政策をとらないように当局が措置をするのであって、援助で構造改革までも行うことは適当でない。
(6)世銀とIMFの役割は峻別されまた限定的であること
IMFと世銀の役割問題についてはかねてから議論されてきた。公的救済で世銀の役割が拡大し、IMFの融資額が拡大することは、途上国の経済発展のためにも有害である。
(7)改革は苦難を伴い不人気の政策となる。関係国の政治的支援が必要である。
以上が、レポートの要旨である。 個々についてこの場で議論をするつもりはないが、国際経済の安定的発展のためには、国際金融の発展は不可欠である。われわれ日本としても部分的ではなく世界全体を考える提案なり研究をすることが望まれる。

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