1998年02月25日

「バブル経済後の根本問題」

  細見 卓

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戦後何回かバブル経済を経験してきたが、 今まではその都度時の経過で問題が解決されてきたかの感がある。 しかし、 今回のバブル崩壊後の経済再建については、60兆円にも及ぶ財政支出にもかかわらず経済は好転せず、 「複合不況」 という言葉が今なお引用されている状況である。 経済に対する診断が誤まったことにより、 経済再建と財政再建の調整がぎくしゃくしたものとなり、 国民の判断を迷わすような措置が採択されている。 確かに各措置についてはそれぞれ問題点を捉えた対策であることに間違いないが、 それらを包摂する政策を貫く基本認識が必ずしも明らかでないことが、 いたずらに国民に閉塞感と焦燥感を昂じさせているのではないかと見える。
日本人の総悲観的な見方に対して、 外国人の日本経済を見る目ははるかに現実的であり、 その潜在的な活力を含め評価する言が多いことは皮肉なことである。 このような比較的好意的見方も、 日本の方でいつまでも悲観的な言説を弄していたのでは、 やがて日本経済に対する広く否定的な見方につながる懼れがある。 われわれは政府に刺激策や痛止め的頓服薬をいたずらに求めるのではなく、 自国経済についての正しい認識と自信を持ち、 日本経済の当面の困難からの回復に知識と意力をかけるべき時だと考える。


日本経済の認識について、 若干の私見を述べてみたい。

1. 価格体系崩壊への対応
バブル経済の崩壊は全資産価格体系の崩壊を意味し、 社会全体にキャピタルゲイン、 キャピタルロス、 積み上がった債務という痕跡を残す。 バブル崩壊とは経済の基盤である生産や生活につながる諸物価の体系を破壊したものであるとすれば、 これに対する経済政策の要諦はこの価格破壊による混乱が引き起こす経済主体・生活主体に与える悪い影響をいかに減殺し治癒していくかということでなければならない。 例えば、 非課税の特例期間を設けてキャピタルゲイン・キャピタルロスを一挙清算し、 更に時価発行等によって過大評価・過大発行になっている株式の整理・消却を推進する等が考えられる。 それにより、 日本の経済活動が新しい価格体系によっても正常に営んで行けるようにするのが基本である。 第二次世界大戦の敗戦により、 われわれは価格体系の大破壊を経験したが、 その時には新旧勘定の分離、 資産再評価等の措置をとり、 負担の軽減、 長期的処理を図った。 この故知が広く活用されていないのはなぜであろうか。 責任を恐れて誤りを認めなくては、 何の前進はない。


2. 不透明な会計制度への対応
世界経済はますますグローバル化し、 単一基準に基づいて運用されるようになる。 国際的な会計基準の設定も迫っており、 時価会計への移行は不可避である。 会計制度のような基本的なことがらの改定は平時には容易なことではなく、 むしろ混乱期に大きな変革の一環として取り入れるのが賢明である。 もちろん会計制度の改定は、 その利害得失が一様ではないが、 世界的基準への統合は避けられない道である。 その意味においては、 伝えられるような固定資産の評価益のみを取り上げて、 評価損等の取扱いが明らかにされず、 また下落している株式価格についての取扱いが時価主義から離れていくことは、 不都合と言わざるをえまい。
アジアの金融不安はそのかなりの部分、 会計制度の恣意性や不透明性に対する国際的信用の喪失によるといわれる。 日本についての批判も、 日本の会計・商法などについての計算規定等があいまいであることが一因となっている。


3. 会社の利害関係の再構築
株式会社の運営の主体は株主か、 ステークホルダーかについては、 今後議論を進めていくとしても、 今までの日本の商法の原理は会社の債権者の立場に立ち、 会社資産評価の堅実性を優先して考えるというものであり、 現在の株主資本主義時代には不都合となっている。 債権保護を中心にしてきた会社法は、 銀行と会社の関係を含めて今や根本的変革が行われようとしている。
変化の激しい時代での会社関係の利害調整は、 現状に即した時価会計の法則に移行すべき時ではなかろうか。

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