1997年04月25日

「資本を大事にしよう」

  細見 卓

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最近の新聞紙上で、 野村證券等を巡るスキャンダルが大きく取り上げられ、 資本市場の合理性あるいは透明性について大きな疑問が投げかけられている。
野村證券でおこったことは、 味の素やその他の製造業の企業でおこったことと同質で、 資本 (株主) の利益、 あるいは資本 (株主) に対して正当なルールに基づく処遇を与えていないことからくる悲惨な出来事であると見える。 こうしたわが国の状況は、 米国等先進資本主義国の"企業と株主の関係"における透明さとは、 著しくかけ離れた不公正なものとなっている。


明暗をわける日米資本市場の背景
米国の株式市場は最近やや変調をきたしているとはいえ、 概して堅調に推移してきており、 それに較べ日本の低迷する株式市場は非常に見劣りする状況にある。
米国の資本市場が、 なぜこのように繁栄を続けてきたかについては、 ひとつには、 投信等の新資本がたえず流入していること、 また企業は自己株取得とそれに伴う株式消却を盛んにおこなっていること等が要因であり、 そうした需給面での改善が株価に端的にあらわれているのである。
こうした状況は、 米国資本市場の信頼性・透明性が背景にあってはじめておこりえたものといえるであろう。
一方、 わが国では、 第二市場 (店頭株式市場) が急膨張し、 他の市場からも資金が多く吸収されたが、 株価の乱高下もあって新規の資本の流入は一貫したものではない。 第二市場の隆盛は資本主義の若さを象徴するものであり、 それなりの評価を与えるべきであるが、 多くは投機的であり、 ベンチャー企業を育成するといった観点が欠けているように思える。
このような不活発さは、 米国の状況と対比して考えれば、 日本の資本が、 正当な処遇を期待できないと半ば諦めていることの証左ともいえるのではないだろうか。


非効率に運用されている日本の資本
現在の超低金利は、 資本市場としては異例中の異例であり、 このような事態においてもなお株式市場が上昇を示さないのは、 なにか構造的欠陥があると考えざるをえない。
近く外為規制が全面的に撤廃されるとすれば、 世界でも指折りの 1,200 兆円に近い個人金融資産は、 国内の低金利・株式リターンの低さを嫌って、 海外へ流出する可能性が大きいとも考えなければならない。
規制緩和・雇用調整等によって大幅に企業体質の改善がはかられたとはいえ、 国際的に見ると、 日本の資本収益率 (ROE) は2%台で、 諸外国のそれにくらべて大きく見劣りしている。 一方、 株価収益率 (PER) は日本市場が最も割高であることを示している。 日本の資本は 「十分に活用されて大きく収益をあげる」 ということなく、 逆に非効率な企業経営のために収益性が著しく劣っており、 史上例をみない低金利政策も企業収益へ貢献するに至らず、 流動性のわなに陥っている。
つまり、 日本では、 せっかく蓄積された資本も浪費とはいわないまでも、 効率が悪く運用されており、 いいかえれば、 資本提供者に正当な報酬を支払っていないといえる。 安易無気力な経済運営が行われているといわざるをえない。


現在見直されるべき資本主義の理念
かつてのバブル時にかき集められた膨大な資本は、 今は価格低下した不動産や陳腐化した工場、 収益性の低い株式に投資されたまま、 いわば休眠状態ともいえる状態にある。 もし、 経済合理性が十分に働いており株価水準が適正になっておれば、 新たな企業家による会社買い取り等M&Aや、 その他の会社組織の再編・合理化がおこなわれてしかるべきである。 にもかかわらず、 日本ではそのような動きがおこってこないということは、 企業家精神が混迷状態にあり、 また既発行株式が大きすぎる一方、 M&Aや事業の再構築ということに魅力をあたえない株価水準にあるからといえよう。
このような状態は、 すでにバブル崩壊後数年をへた今は、 次第に清算が避けられないところまで来つつあるが、 資本の収益力や資本に対する配当水準の適正化等については、 今なお理想からほど遠く、 力強さに欠けている。
日本では、 資本主義といって浮かんでくるのは、 自由な市場競争というような、 企業活動の分野での議論であるが、 資本主義というのは、 その言葉の示す通り、 「資本重視」 「資本の自由な発展行動を認めていく」 ということでもある。
日本の規制緩和・市場経済のスローガンには、 より基本にある、 資本の自由な行動、 あるいは自由な行動を保証するといった 「資本主義の推進力」 というべき健全な資本主義確立の重要性に十分議論が及んでいないと思われるが、 日本の産業の再活性化という観点からは、 残念なことであるといわざるをえない。

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