1993年08月01日

資金調達の社債シフトは本物か -発行企業の経営努力と投資家の視点-

  広瀬 毅彦
北海道大学 大学院経済学研究科   鈴木 輝好
  新美 隆宏

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<要旨>

  1. わが国の国内公募普通社債(Straight Bond : 以下SB)の発行は、89年度までは低調で「国内社債発行市場の空洞化」が懸念される程であったが、90年度以降急増を見せ、92年度には3兆8,200億円と過去3年間で約5倍の規模になった。中でも、一般事業会社による起債の急増が顕著である。上場企業が証券市場から調達する資金量のうちSBが占めるシェアも、80年代後半では国内外合わせてせいぜい1割程度でしかなかったが、92年度には8割近くにまで達しており、その重要性が増している。
  2. ここ数年、国内SBの発行が急拡大した背景には以下の要因が考えられる。第1に、過去に大量に発行した転換社債、ワラン卜債といったヱクイティ債の償還のための借り換え需要が強いこと。第2に、株価の低迷や、BIS規制および大量の不良債権の影響で銀行が安易な貸出を手控えていることによって、エクイティ債や借入などによる資金調達が難しくなっていること。第3に、金利の低下によって発行コスト面で社債の魅力が高まっていること。第4に、発行手数料の軽減や適債基準の緩和、償還年限の多様化によって、企業が国内SBを発行しやすい環境が整備されてきたことなどである。これらの要因のうち、前の2つは資金需要が相対的に社債に移ってきたことを意味している。また後の2つは社債発行に関する制度面の整備などによって社債の魅力が高まってきたことを意味している。なお、商法をはじめとする社債関連法が改正されたことも、今後の社債発行を促す要因である。
  3. 社債発行に関する制度面の整備は、発行企業に資金調達手段の自由度を増加させる。一方で、投資家には従来存在しなかったリスクを負わせることになる。そうなると投資家は自己責任原則に基づいて、より合理的に企業を評価し、より厳しく企業を選別せざるをえなくなる。他方わが国でも、徐々にではあるが、格付が発行コストに合理的に反映されるようになってきており、今後は一段と明確になるものと予想される。そうなれば、優良な企業にとっては国内SBによる資金調達が相対的に低コストになり、資金調達手段を国内SBにシフトしやすくなる。しかし、近年ようやく発行が可能になったような格付の低い企業にとっては、高い発行コス卜を強いられることになる。すなわち、国内SBに関する規制および慣行の緩和・撤廃が急ピッチで進んでいる中では、常に経営努力を怠らない企業だけが、投資家の認知を得てSB発行のメリッ卜を享受できるのである。これはまた、株主資本利益率(ROE)の高い企業だけが株式市場で評価され、エクイティ・ファイナンスを行えるのと同様である。なお、格付の高い企業のROEが高く、また持ち合い比率も高いという相関があるため、優良企業ほど資金調達の選択肢が広いのが現状である。
  4. わが国のSB市場の整備は発行市場を中心に進められてきた。しかしながら、もう一方の軸である流道市場にはいまだに問題点が多い。国内SBを発行企業にとっても投資家にとっても魅力あるものとするには、流通市場の整備が必要不可欠である。さもなければ、流動性リスクの存在が投資上の障害となり、発行コストを高めてしまうからである。具体的には以下のことが望まれる。第1に、リスクヘッジ手段などの基礎的インフラの整備。第2に、格付の定着と安定した基準金利の存在による市場価格形成メカニズムの確立。第3に、投資家による合理的な債券運用である。発行市場の整備が完了しつつある今こそ、その受け皿としての流通市場の整備が急務であろう。

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