1990年11月01日

IMF・世銀総会から帰って

  細見 卓

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従来の総会においては、それに合わせて国際金融市場の動揺が起こったり、国際的な債務救済、援助について新しい提案がなされたりするので、世界の財政金融関係者にとっては大きな国際金融の行事としてその参加に意義を見出していた。しかしながら、今回の総会に関して言えば、むしろ総会の議題をも超える大きな問題、例えばソ連東欧の変革とそれに対する対応、あるいはイラクのクウェート侵攻による石油情勢の緊迫等の世界経済の根幹をゆるがしかねない事柄について展望が持てないままに恒例による会議が開催されたのが実状である。表面的には全く淡々とした会合であったが、実際はこうした世界の大変革を前にして、先進工業国の好調な経済発展も峠にさしかかっており、今後金融機関経営を含めて経済的な諸困難が避けがたいのではないかという危倶がくっきりと影を落としていて、その意味において活気に欠ける総会であったと言わざるを得ない。例えば、G7(7ヶ国蔵相・総裁会議)ような言わば世界の経済政策を実質的に決めている重要な会議においても、そのコミュニケはかなり平板なものであった。インフレと経済成長の低下の2つの相反するリスクが存在しているとか、大切なのは安定を指向する金融政策と健全な財政政策という聞き慣れた言葉が繰り返されるだけで、保護主義は断固排除すると言いながらも、石油価格の上昇が世界経済に深刻な影響を与えるだろうと言う具合で、会議の結果として大きな成果を約束するものでなかったのは大変残念であった。

会議参集者の間では、表面の平静さとうってかわって、自分も関与する財政、金融、銀行等の今後の困難についての不安に満ちた内輪の会話があちこちで行われていた。この点では、やはり世界が大きな転換点に向かおうとしているという印象を受けた。殊に米国の財政金融政策については、グラムラドマン法による赤字削減対策の期限が迫っており、一万ではS&Lを始めとして金融機関の経営困難の噂が多く、米国の下期のリセッションあるいは金融機関の貸出困難による資金供給不足等の問題が各所で真剣にひそひそと話し合われていたのが目についた。

中南米諸国の累積債務処理に関しては、目立った進展もなく新しい対策も十分講じられているわけではなく、それに加えてソ連東欧あるいは中東の紛争周辺国の経済困難、あるいは貧窮に悩み続けるアフリカ諸国の経済建設等への資金協力についても、これといった合意をみるととができず、この面からも今後の世界経済の発展のテンポの足踏みは避けられないように感ぜられた。

又、そもそも圧倒的な資金力を誇った米国のバックアップによって運営されてきたIMF・世銀というものが、米国の資金協力の衰退を前にして、どの国によってどのように補強されるかについて斬新的な提案も示されることなく、役割の低下していく状態を徒にそのまま放置しておいていいのだろうかという感じを参加者に抱かせたと思う。この点ではIMF、世銀の役割分担と協調、あるいはOECD、GATTといった欧州に所在のある機関をも含めて、その在り方の根本的見直しと強化について、力の弱った米国に代わって各国共同責任強化の仕組みを如何に築いていくか、又、その中で日本がどのような役割を果たしていくか等の課題を乗り越えねばならない時期に来ていることを痛感した。

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