1989年06月01日

EC統合の行方

  細見 卓

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1992年を期してEC統合ということが、既定の事実のように言われている。その統合により、EC全体でGDPの5%拡大、雇用の増大、通貨統合、場合によっては中央銀行の設立(但し、西独のような連邦準備銀行のような形を考えているようだが)等が予想されている。確かに、3.2億人の人口を抱える一大経済圏の出現は、世界経済に大きな転機をもたらすと考えられる。

しかし、欧州においては長い時間をかけて、異なった文化や歴史の基に独自の国民経済を発展させてきているので、国境を越えて法律や規制を一体化するのは容易なことではないと思われる。約300の項目について調整が行われており、そのうち約半分ほどできたと言われているが、付加価値税一つを取ってみても、税率、免税範囲は各国ぱらぱらであり、税制統合によって各々の国々に大きな影響を与えるため、統合の目処さえついていないと言われている。この例からもわかるように、1992年に本当に統合ECが実現できるかどうかは、今後の統合に伴う調整の進展に俟つところが多い。

最近においては、英国のサッチャー首相を中心として、ブリュッセルにいるEC官僚の社会主義指向に対して、猛烈な反発が示されている。また、近時日本のECに対する態度について、非常に乱暴な意見を述べたと言われる仏のクレッソン欧州問題担当大臣は、統合ECはフォートレスヨーロッパ(ヨーロッパ砦)でも、シーブ(ふるい)でもないと言っているものの、地中海沿岸諸国の伝えられる言動を聞くと、統合ECを額面通りの成果をもたらすものと受け取ってよいかどうか疑問が残されている。

仮に、EC統合が動かし難い歴史の流れであって、完了時には東欧との経済連携、ひいては同じ欧州の屋根の下でのソ連を含むユーラシア経済圏へまで進むかどうかは、大きな注目の的であり(ソ連のゴルバチョフ書記長の唱えるヨーロッパハウス論と結びつく)、また、それが可能だということであれば、NATOを中心とした現行の西欧の防衛体制を根底から揺り動かす大きな震源となるであろう。

EC統合の持つ歴史的背景と今後の展望については、我々も経済的観点からみるばかりでなく、世界の政治的動向、地政学的安全保障体制等の幅広い視点から見守ってゆく必要があり、どのように対応してゆくかについても、そのような点をよく踏まえて検討してゆくことが肝要であろう。

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