1989年05月01日

賃上げを中心としたインフレ要因とその影響

石尾 勝

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■見出し

1.インフレへの警戒感高まる内外の経済情勢
2.発生要図によるインフレの類型化
3.春闘賃上げ率の動向
4.春闘賃上げ率の2つの考え方の整理
5.今年の春闘賃上げ率とコストプッシュインフレ惹起の可能性
6.他の幾つかのインフレ要因の展望
7.日生マクロ計量モデルによる物価関連シミュレーション
8.おわりに

■introduction

現在、日本経済は昭和40年台の「いざなぎ景気」以来の予想以上の力強い景気拡大が続いている。日本銀行の2月の企業短期経済観測調査(以降短観と呼ぶ)によれば、主要企業の業況判断DIは製造業、非製造業とも「いざなぎ景気」時のピーク値に匹敵する良好な水準となっている。

こうした高度成長期に迫る好景気が続いている一方で、これまでのところ、物価の極めて安定した状況が維持されてきた点が今回の景気拡大の特徴として指摘されよう。

しかし、物価を巡る内外の情勢は、不透明感が増しつつあるのも事実である。昨年から今年にかけて、米国や欧州でも予想以上の景気の好調が続きそれぞれ国内にインフレ懸念が高まったうえ、輸入インフレを避けるための自国通貨高指向も加わって、西独・米国等が相次いで公定歩合等の政策金利を引き上げて、金融引き締めを行っている。各国の中央銀行の政策スタンスは、予防的な意味を合めた「インフレ抑制」へ明確に移行していると言えよう。

こうした中、最近の我が国の物価指標の動きを見てみると、2月の総合卸売物価は前月比0.3%上昇し、前年同月比でも0.4%と'87年10月以来、1年4か月振りのプラスの上昇率となった。これは、原油入着価格の上昇や為替レートが円安に振れたこと等から、輸入物価が前月比2.3%(前年同月比では0.7%)の上昇となったことが影響している。

一方、消費者物価は2月分が前月比▼0.3%と続落しているが、これは、夏場にかけて上昇していた生鮮食料品価格が下落していることによる面も大きく、前年同月比では1.0%の上昇となっている。

今のところ、こうした指標面から見て我が国の物価の安定基調は崩れていないものの、これまでの円高効果が一巡しつつあること、原油価格が昨年の低迷時に比べかなり上昇し底堅く推移していること、また、国内の製品・労働需給も逼迫度が強まってきている上、消費税の実施も加わること等から、先行きの物価動向を懸念する声が高まってきている。このため、日本銀行も物価動向によっては機動的に金融政策を運営するとの姿勢を再三表明している。

そこで、このレポートでは、まず、インフレ要因とその過去の動向について簡単に整理し、その中で内在的なインフレ要因として最も注目される賃上げを中心にやや詳しく検討する。さらに、他のインフレ要因についても展望し、最後に計量モデルによって、賃上げを合めた幾つかの要因が国内物価にどれくらいのインパクトをもたらすか、その大きさについてみることにしたい。

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