2023年10月10日

為替介入疑惑について考える~2つの可能性が浮上

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 10月3日、ドル円が1ドル150円を突破した直後に急速に3円近く円が買い戻される場面があり、市場では「政府が円買い為替介入へ踏み切った」との見方が台頭した。ただし、政府要人が、介入の有無について明言を避けているため、真相は未だ不明だ。
     
  2. 円買い介入の有無については主に二つの可能性が浮上する。一つは介入を行っていない可能性だ。150円を突破した段階で投資家等による大口の円買いが入り、それを介入と誤解した投資家による円買いを巻き込む形で円が急伸した可能性だ。(1)5日の日銀当座預金の動きが事前予想と乖離(介入の存在を示唆)していないこと、(2)ドル円の変動が高まっておらず、「過度の変動」とは説明しづらかったこと、(3)鈴木財務大臣が「水準そのものは判断基準にはならない」と発言した日に150円を超えた段階で介入すれば、為替操作とみなされやすいことから、筆者としては当シナリオの可能性が高いと見ている。
     
  3. しかし、政府が小規模な介入を実施した可能性も否定できない。150円を超える円安を許容できないものの、為替操作との国際的な批判を招かないように、「スピード調整」との理屈が立ちやすい小規模な介入に留め、有無も明らかにしていないという筋書きだ。日銀当座預金は事前予想と乖離していないが、数千億円のズレは通常でも起こり得る。
     
  4. 以上の通り、介入の有無は現時点では不明だが、少なくとも大規模介入があった形跡はみられない。ただし、3日の円急伸によって介入観測が台頭したことで、投資家は円を売りづらくなり、ドル円も150円を前に足踏み状態が続いている。そうした意味では、いずれにせよ、円安抑制という政府の狙いはとりあえず奏功していると言えるだろう。FRBのインフレへの警戒感は根強く、ドル高圧力の一服にはまだ時間を要しそうであるだけに、市場の介入に対する警戒感を維持できるか、政府の手腕が問われている。

 
ドル円レートの推移(2023年8月~直近)
■目次

1.トピック: 為替介入疑惑について考える
  1)10月3日までの円相場の状況
  2)10月3日以降の状況
  3)為替介入実施の可能性
  4)まとめ
2.日銀金融政策(9月)
  (日銀)現状維持
  ・今後の予想
3.金融市場(9月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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