2022年12月14日

男性の育休取得の現状-2021年は過去最高の13.97%、過半数は2週間未満だが長期化傾向も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 2022年10月に「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)」が施行され、男性の育休取得が一層期待される中、民間企業勤務の男性の育休取得率は9年連続上昇し、2021年は13.97%にのぼる(女性は85.10%)。産業別には、首位は圧倒的に「金融業、保険業」(40.64%)、次いで、2位「鉱業,採石業,砂利採取業」(24.54%)、3位「サービス業(他に分類されないもの)」(24.45%)と続く。
     
  • 男性の育休取得率が高い産業は(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育休取得を促進している企業が多い、(2)育児休業等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者 が多い、(3)職場に女性が多いなど従来から制度等の環境が整っている、(4)裁量労働など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が比較的大きいことなどがあげられる。
     
  • 事業所規模別には、男性の育休取得率は規模が大きいほど高い(規模が小さいほど低い)。調査によれば、中小企業における男性の育休取得促進に関する課題で最多は「人員に余裕がなく、既存社員による代替が困難」(56.7%)で過半数を占め、次いで「専門業務や属人的な業務が多く、対応できる代替要員がいない」(38.2%)などが続き、代替要員の確保に課題のある企業が多い。
     
  • 男性の育休取得期間は2018年と比べればやや長期化しているが、2週間未満(51.5%)が多い。男性の育休取得期間が女性と比べて短い背景には、育児休業給付金に上限額があるために収入が減少する世帯もあることや、育児休業制度が柔軟な形に整備されても、評価制度が従来と変わらないのであれば、数か月の休業が、その後のキャリアへ与える影響が不透明であることもあげられる。
     
  • 男性の育休導入期の現在では、政府や人員に比較的余裕のある大企業などの影響力のある組織で積極的に男性の育休取得を進め、そこで新たに表出した課題を整理し、制度や環境を更に整えることを繰り返すことで、労働者全体に浸透させていくことが効果的だ。また、本来は取得率が高く、取得期間が長ければ良いというわけではないだろう。例えば、夫婦で裁量労働や時間短縮勤務、週休三日制度などを組み合わせることで、必ずしも育休を取らずとも仕事と家庭を両立できるケースもある。
     
  • 一方で、現在のところ、家事や育児の負担は圧倒的に妻側に偏っており、男性の月単位の育休取得を進めることは家庭における男女の役割分担や働き方における意識改革につながるだろう。また、男性の育休取得は少子化抑制にもつながる可能性がある。今後とも育休取得率の高い組織における工夫などのベストプラクティスを共有するとともに、障壁となる要因を丁寧に取り除き、制度設計を工夫しながら、価値観を変えていくという息の長い取り組みが求められる。


■目次

1――はじめに~今年10月開始の「産後パパ育休制度」への期待
2――育休取得率
 ~民間企業の男性の育休取得率は13.97%、は金融・保険が首位で40.64%
  1|全体の状況
   ~民間企業の男性の育休取得率は9年連続上昇で2021年は13.97%、女性は85.10%
  2|産業別の状況
   ~男性は金融・保険が首位で40.64 %、男女とも取得率が高いのは情報通信
  3|事業所規模別の状況
   ~大規模ほど育休取得率が高く、500人以上で男性17.0%、中小は人手不足感
3――育休取得期間
 ~男性は2週間未満が過半数だが産業による温度差も、男女ともやや長期化傾向
  1|全体の状況
   ~男性は2週間未満が過半数、女性は1年前後が約6割、男女ともやや長期化傾向
  2|産業別の状況
   ~男性は金融・保険や複合サービスで5日未満、医療・福祉や情報通信、研究で月単位
  3|事業所規模別の状況
   ~男性は小規模では2週間未満が8割、中規模では1~3か月が約3割で長め
4――おわりに
 ~男性の育休希望は4割、制度環境整備やベストプラクティス共有など息の長い取り組みを
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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