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2025年09月02日

欧州大手保険グループの2025年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

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3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置13の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。

保険年金フォーカス「欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況-」(2025.6.6)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度等下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonが子会社の一部等でMAを、AllianzとGeneraliとAvivaが子会社の一部で、TMTP(技術的準備金に関する移行措置)を適用している。

これらの措置の適用による影響(2024年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度毎の影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。

長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2024年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2023年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2022年末)
 
13 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)(6)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」(2020.12.17~2021.1.15)等を参照していただきたい。
4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類14され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

制度導入後、各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割前後、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用してきているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

2024年末における自己資本の内訳は、以下の図表の通りとなっている。

2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響を受けての調整準備金(reconciliation reserve)(従って、Tier1(無制限))の残高が大きく減少して、全体の自己資本残高も1割~2割程度と大幅に減少していたが、2022年末から2023年末にかけては、AXAとAvivaはほぼ横ばい、Allianzが大幅に増加、Generaliは増加、Aegonは大幅な減少となっていた。2023年末から2024年末にかけては、各社の資本戦略等を反映する形で、各社各様に資本残高の資本構成の内訳が変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。

自己資本の内訳(2023年末及び2024年末)
 
14 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、次ページの図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスク分類の方式等が異なっている。なお、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーⅡ等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2025.4.1)とは異なり、AXAとAllianzとAegonについても、2024年数値を掲載している。なお、GeneraliとAvivaとZurichの3社については、2025年上期末の数値も公表しているので、これらの数値を掲載している。

これによると、リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、各社によって異なるが、ほぼ1割前後の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。

SCRのリスク別・地域別内訳(2024年末)
SCRのリスク別・地域別内訳(2025年上期末)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月02日「基礎研レポート」)

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