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- 増え行く単身世帯と消費市場への影響(3)-食生活と住生活の特徴
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2025年08月28日
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1――はじめに~単身世帯消費は「住居」「教養娯楽」が多い、暮らしの実態から読み解く多様なニーズ
前稿1では、単身世帯の家計収支と消費構造について分析した。可処分所得では、就労環境の改善などを背景に若年女性で大幅な増加が見られる一方、壮年女性ではコロナ禍の影響を比較的強く受けた様子がうかがえ、雇用面での脆弱性が浮き彫りになった。消費支出では全体的に2020年を底に回復傾向にあるものの、長期的には消費性向の低下が続いており、特に壮年女性では回復の遅れが目立った。
消費構造については、単身世帯は二人以上世帯と比べて「住居」や「教養娯楽」の割合が高く、年齢や性別によって異なる消費パターンを持つことが明らかになった。これらの分析から、単身世帯には経済力向上により新たな消費市場の牽引役となる可能性を秘めた層がある一方で、雇用の不安定さから経済的脆弱性を抱える層も存在するという二面性が浮かび上がった。
本稿では、引き続き総務省「家計調査」を用いて、単身世帯の具体的な消費内容を二人以上勤労者世帯との比較を交えながら分析する。その際、前稿の消費支出の分析と同様に、若年・壮年の勤労者世帯と、60歳以上は勤労者と無職世帯を合わせた全体に注目する。特に、家族世帯との違いが大きいと予想される食生活、住生活、教養娯楽といった暮らしの実態に着目し、年代別の消費特性の違いや、デジタル化の進展、価値観の多様化といった近年の社会環境の変化が単身世帯の暮らしや消費にもたらした影響についても考察を深めていく。
1 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)~家計収支から見る多様性と脆弱性」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/8/21)
消費構造については、単身世帯は二人以上世帯と比べて「住居」や「教養娯楽」の割合が高く、年齢や性別によって異なる消費パターンを持つことが明らかになった。これらの分析から、単身世帯には経済力向上により新たな消費市場の牽引役となる可能性を秘めた層がある一方で、雇用の不安定さから経済的脆弱性を抱える層も存在するという二面性が浮かび上がった。
本稿では、引き続き総務省「家計調査」を用いて、単身世帯の具体的な消費内容を二人以上勤労者世帯との比較を交えながら分析する。その際、前稿の消費支出の分析と同様に、若年・壮年の勤労者世帯と、60歳以上は勤労者と無職世帯を合わせた全体に注目する。特に、家族世帯との違いが大きいと予想される食生活、住生活、教養娯楽といった暮らしの実態に着目し、年代別の消費特性の違いや、デジタル化の進展、価値観の多様化といった近年の社会環境の変化が単身世帯の暮らしや消費にもたらした影響についても考察を深めていく。
1 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)~家計収支から見る多様性と脆弱性」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/8/21)
2――単身世帯の消費
一方、単身世帯では男性や若年女性を中心に「肉類」や「野菜・海藻」「穀類」「乳卵類」といった基本食材への支出割合が低い傾向がある。特に「肉類」は二人以上世帯の9.8%に対し、若年男性は3.1%、壮年男性は3.9%、高齢男性は4.2%、若年女性は4.3%といずれも半数以下にとどまる。「野菜・海藻」でも若年男女と壮年男性では同様の傾向が見られ、これらの世帯では食材を購入して調理するよりも、出来上がった食事を購入する傾向が強いことを示している。
ただし、同じ単身世帯といっても年齢による違いも大きい。高齢男女では「果物」や「魚介類」、高齢女性で「野菜・海藻」は、むしろ二人人以上勤労者世帯よりやや多い。一方、「外食」は高齢男性18.6%、高齢女性10.4%と若年・壮年単身世帯を大幅に下回り、二人以上勤労者世帯をも下回る。この背景には、健康志向の高さや時間的余裕、年金生活による家計管理の必要性などから、高齢期では自炊中心の食生活に移行していることを示唆している。
性別でも違いがあり、同年代で比較すると男性の方が「外食」志向が高く、女性の方が基本食材への支出割合がやや高い。これは、従来の料理に対する性別役割意識の影響も考えられるが、近年は料理をする男性の増加や女性の社会進出に伴う時短ニーズの高まりなど、変化の兆しも見られる。こうした消費パターンの背景には、デリバリーサービスの普及、コンビニ食品の高品質化、冷凍食品の技術革新など、近年の消費環境の変化がある。
さらに、コロナ禍前の2019年と比べると、名目ベースでは、若年男性を除き、すべての層で食費が増加している(図表2)。これは消費者物価指数の上昇(「食料」は98.7→117.8)によるもので、物価を考慮した実質ベースで見ると、いずれの層も減少している(図表3)。なお、単身世帯では若い世帯ほど減少幅が大きくなっている(若年男性▲26.8%、若年女性▲14.4%)。
ただし、同じ単身世帯といっても年齢による違いも大きい。高齢男女では「果物」や「魚介類」、高齢女性で「野菜・海藻」は、むしろ二人人以上勤労者世帯よりやや多い。一方、「外食」は高齢男性18.6%、高齢女性10.4%と若年・壮年単身世帯を大幅に下回り、二人以上勤労者世帯をも下回る。この背景には、健康志向の高さや時間的余裕、年金生活による家計管理の必要性などから、高齢期では自炊中心の食生活に移行していることを示唆している。
性別でも違いがあり、同年代で比較すると男性の方が「外食」志向が高く、女性の方が基本食材への支出割合がやや高い。これは、従来の料理に対する性別役割意識の影響も考えられるが、近年は料理をする男性の増加や女性の社会進出に伴う時短ニーズの高まりなど、変化の兆しも見られる。こうした消費パターンの背景には、デリバリーサービスの普及、コンビニ食品の高品質化、冷凍食品の技術革新など、近年の消費環境の変化がある。
さらに、コロナ禍前の2019年と比べると、名目ベースでは、若年男性を除き、すべての層で食費が増加している(図表2)。これは消費者物価指数の上昇(「食料」は98.7→117.8)によるもので、物価を考慮した実質ベースで見ると、いずれの層も減少している(図表3)。なお、単身世帯では若い世帯ほど減少幅が大きくなっている(若年男性▲26.8%、若年女性▲14.4%)。
内訳を見ると、若年単身世帯では「外食」の減少が目立つ。「外食」の実質増減率(対2019年)は、二人以上世帯では▲4.1%にとどまるが、若年単身男女では約3割(男性▲32.6%、女性▲27.7%)にのぼる。また、壮年女性(▲25.0%)や壮年男性(▲12.0%)、高齢女性(▲10.0%)、高齢男性(▲7.1%)でも比較的大きく減少している。つまり、物価高の影響を受けて全体的に外食を控える傾向が強まっており、とりわけ外食志向の高かった若年単身男女でその傾向が顕著にあらわれている。
なお、「外食」の減少に伴い、若年男性では「油脂・調味料」(+43.3%)や「野菜・海藻」(+22.7%)、「肉類」(16.0%)が、若年女性では「果物」(35.8%)や「肉類」(31.2%)、「穀類」(17.8%)など基本食材の支出が増加しており、自炊が増えている様子が読み取れる。
一方、「調理食品」は、物価上昇にもかかわらず、実質ベースで増加している層もある。特に高齢単身男女(男性+12.2%、女性+11.8%)では約1割増え、二人以上世帯でも僅かに増えている(+1.2%)。外食の減少を補う形で、弁当や総菜といった調理食品への需要が高まったことを示している。
なお、食費に占める割合の変化で見ても、若年男女を中心に「外食」比率が低下し、「肉類」「野菜・海藻」比率が微増していることから、自炊傾向がやや強まっている様子が読み取れる。また、「調理食品」は、いずれの層でも僅かに上昇している。
以上より、この5年間で、単身世帯の食生活は、外食志向の高さを維持しつつも、中食や内食(自炊)の比重がやや高まる方向にシフトしている。こうした動きの一部はコロナ禍による行動変容に起因する可能性もあるが(在宅時間の増加など)、むしろ物価上昇の方が大きな要因であろう。実際、「食料」の物価はこの間に約2割上昇しており、家計への負担感が外食抑制につながっていると考えられる。さらに、前稿で示した通り、2024年の勤労者世帯の可処分所得は2019年比で若年女性を除き、実質的に減少しており、所得の伸び悩みも外食抑制や中食・内食へのシフトを後押ししている。
なお、「外食」の減少に伴い、若年男性では「油脂・調味料」(+43.3%)や「野菜・海藻」(+22.7%)、「肉類」(16.0%)が、若年女性では「果物」(35.8%)や「肉類」(31.2%)、「穀類」(17.8%)など基本食材の支出が増加しており、自炊が増えている様子が読み取れる。
一方、「調理食品」は、物価上昇にもかかわらず、実質ベースで増加している層もある。特に高齢単身男女(男性+12.2%、女性+11.8%)では約1割増え、二人以上世帯でも僅かに増えている(+1.2%)。外食の減少を補う形で、弁当や総菜といった調理食品への需要が高まったことを示している。
なお、食費に占める割合の変化で見ても、若年男女を中心に「外食」比率が低下し、「肉類」「野菜・海藻」比率が微増していることから、自炊傾向がやや強まっている様子が読み取れる。また、「調理食品」は、いずれの層でも僅かに上昇している。
以上より、この5年間で、単身世帯の食生活は、外食志向の高さを維持しつつも、中食や内食(自炊)の比重がやや高まる方向にシフトしている。こうした動きの一部はコロナ禍による行動変容に起因する可能性もあるが(在宅時間の増加など)、むしろ物価上昇の方が大きな要因であろう。実際、「食料」の物価はこの間に約2割上昇しており、家計への負担感が外食抑制につながっていると考えられる。さらに、前稿で示した通り、2024年の勤労者世帯の可処分所得は2019年比で若年女性を除き、実質的に減少しており、所得の伸び悩みも外食抑制や中食・内食へのシフトを後押ししている。
(2025年08月28日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/08/28 | 増え行く単身世帯と消費市場への影響(3)-食生活と住生活の特徴 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/08/21 | 増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-家計収支から見る多様性と脆弱性 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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