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「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

金融研究部 上席研究員 吉田 資
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天神地区18では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした。2026年12月31日までに竣工予定のビルが同制度の対象となっている。このプロジェクトでは、初期設備投資で3,500億円の増収効果が発生する19と試算されている。
天神地区では、「天神ビックバン」を活用した再開発が進展している。西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に「ONE FUKUOKA BLDG.」(延床面積約14.7万m2・地上19階建て)を開発し、2024年12月に竣工した(図表-20 ①)。また、ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」の建替えを行い、オフィスやホテルを核とした「ヒューリックスクエア福岡天神」(延床面積約2.1万m2・地上19階建て)を開発し、2024年12月に竣工した(図表-20 ②)。
2025年も大規模オフィスビルの竣工が相次いでいる。日本生命保険と積水ハウスは、「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」の建替えを行い、「天神ブリッククロス」(北館:地上18階建て・南館:地上13階建て・総延床面積約3.7万m2)を開発し、2025年4月に竣工した20(図表-20 ③)。また、住友生命保険と福岡地所は、天神2丁目で「住友生命福岡ビル」と「天神西通りビジネスセンター」の建替えを行い、「天神住友生命FJビジネスセンター」(延床面積約4.2万m2・地上24階建て)を開発中であり、2025年6月に竣工予定と公表している21(図表-20 ④)。
18 天神交差点から半径約500mのエリア
19 帝国データバンク「「天神ビッグバン」の影響分析調査」(2023年11月6日)
20 日本生命保険相互会社・積水ハウス株式会社「天神ブリッククロスの竣工について~天神地区を南北に結び街の賑わいを生み出す緑豊かなランドマーク~」(2025年4月9日)
21 住友生命保険相互会社・福岡地所株式会社「「(仮称)住友生命福岡ビル・西通りビジネスセンター建替計画」の概要について」(2022年6月30日)
22 福岡地所、九州電力、九電工で構成される特定目的会社
23 天神一丁目761プロジェクト合同会社・福岡地所株式会社「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画の概要について」(2023年6月7日)
24 三菱地所株式会社「開発コンセプト「福岡文化生態系」 「(仮称)天神 1-7 計画」新築工事着工」(2024年5月15日)
福岡市は、2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネクティッドボーナス25」を公表し、博多駅周辺26の再開発を後押ししている。2028年12月31日までに竣工予定のビルが同制度の対象となっている。これらの再開発プロジェクトでは、延床面積は34.1万m2から49.8万m2へ1.5倍に拡大し、雇用数は3.2万人から5.1万人へ1.6倍に拡大すると試算されている。
博多駅周辺では、「博多コネクティッドボーナス」を活用した再開発が進んでいる。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、「コネクトスクエア博多」(延床面積約2.2万m2・地上12階建て)を開発し、2024年3月に竣工した27(図表-21 ①)。
また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)を連鎖的に建て替える計画を進めている29。その第一弾として、本店本館ビルを、オフィスを核とした複合ビル(延床面積約7.5万m2・地上14階建て)に建替えを行い、2026年1月に竣工予定である30(図表-21 ③)。
25 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
26 博多駅から半径約500メートル、約80ヘクタール。
27 九州旅客鉄道株式会社・福岡地所株式会社・ 株式会社麻生 「福岡東総合庁舎敷地有効活用事業「コネクトスクエア博多」竣工~地域・まち・ひとをつなぐ、エリア再開発の想いがコネクトする場所に~」(2024年3月15日)
28 中央日本土地建物グループ・オフィスビル情報「中央日土地博多駅前ビル」
29 西日本シティ銀行「西日本シティ銀行保有ビルの連鎖的再開発のお知らせ」(2019年12月19日)
30 株式会社西日本シティ銀行・福岡地所株式会社「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日)
2024年は「コネクトスクエア博多」や「ONE FUKUOKA BLDG.」などの大規模ビルが竣工し、新規供給量は前年比+11%増加し約3.0万坪となった(図表-22)。
2025年以降も、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に大規模開発計画が複数進行している。新規供給面積は2025 年が約1.8万坪、2026年が約2.7万坪に達する見通しである。総ストック量に対する今後2年間(2025 年~2026年)の供給割合は4.8%と、主要地方都市の中で最も高い水準となる見込みである(図表-23)。
一方で、2027年以降は「天神ビックバン」の制度終了等に伴い、新規供給は落ち着く見通しである。
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2029年までの福岡のオフィス賃料を予測した(図表-24)。
福岡市では、人口の流入超過が継続しており、福岡県の就業者数も増加が続いている。また、「企業の経営環境」は一進一退の動きをみせているものの、「雇用環境」については人手不足感が強く、金融業やサービス業を中心に企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。
福岡では、職場環境の改善等を目的として、オフィス面積の増床を含む設備投資を行う企業が増えている。コロナ禍を経てテレワークが普及するなか、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。また、半導体投資拡大や「金融・資産運用特区」の指定に伴い、企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の拡大が期待される。
一方、福岡市では「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中である。今後2年間(2025年~2026年)の総ストック量に対する供給割合は主要地方都市の中で最も高い水準になるが、2027 年以降、新規供給は落ち着く見通しである。
以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇基調で推移するものの、2027年以降は改善に向かうと予測される。福岡のオフィス成約賃料は、需給緩和の影響から当面は弱含みで推移するものの、その後は需給バランスの改善に伴い、上昇に転じる見通しである。2024年の賃料を100 とした場合、2025 年は「98」、2026年は「96」、2029年は「98」となると予測する。
(2025年07月02日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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