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保険と年金基金における各種リスクと今後の状況(欧州 2025.4)-EIOPAが公表している報告書(2025年4月)の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
1 (年金分野) Institutions for occupational retirement provision(IORPs) risk dashboard April2025(2025.4.30 EIOPA)
https://nexteuropa-multisites.s3.eu-west-1.amazonaws.com/www.eiopa.europa.eu/assets/iorps-risk-dashboard/EIOPA-BoS-25-171_2025-April-IORPs-risk-dashboard.html
(保険分野)Insurance Risk Dashboard (2024.4.30 EIOPA)
https://nexteuropa-multisites.s3.eu-west-1.amazonaws.com/www.eiopa.europa.eu/assets/insurance-risk-dashboard/EIOPA_BoS-25-174_April-2025-insurance-risk-dashboard.html
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2 各リスクの内容は、その名称からほぼ直感的に想像はつくと思われるが、具体的な説明については、前回の報告(下記)を参照頂きたい。
保険分野 「保険分野における各種リスクと今後の動向(欧州2024.2)」(ニッセイ基礎研究所2024.2.29)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/77763_ext_18_0.pdf?site=nli
年金基金分野 「年金基金を取り巻く各種リスクと今後の見通し(欧州2024.2)」(ニッセイ基礎研究所 2024.3.12)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/77855_ext_18_0.pdf?site=nli
2――各リスクの状況
〇 マクロリスクについては、主要地域の次の四半期のGDP成長率予測が1.1%(前四半期 1.2%)と見込まれ、中程度のレベルで安定している。世界のインフレ率予測も2.2%(前四半期2.1%)とほぼ横這いである。
今後、米国による安全保障への関与と自由貿易への取組みを巡って不確実性が増し、マクロ経済に大きな影響を与える可能性が高くなっている(今後の予想を「横這い」から「増大傾向」へ変更)。
〇 信用リスクに関しては中程度のレベルで、引き続き安定している。
〇 市場リスクは、依然として高い水準である。保険会社の債券と株式のボラティリティは落ち着いており、2024年第3四半期末の保険会社の資産構成比は、債券は52.3%とわずかに上昇し、株式は5.0%と概ね安定している。不動産価格は下落傾向に転じたが、保険会社における資産構成比は3.0%と比較的小さいため、影響は限定的である。2023年の投資収益と保証金利の差は、良好な市場環境を反映して平均的にはプラスであった。デュレーションミスマッチ(中央値)も-5%程度で安定している。
2025年4月に発表された米国の新たな関税導入に市場は大きく反応した。その後の動きはある程度落ち着いているが、政策の不確実性と、更なるエスカレーションによる資産価格変動の可能性が高まっている。(横這いから増大方向に見通しを変更)
〇 収益性と支払能力のリスクは、現状の傾向を維持している。ソルベンシーマージン比率はわずかに改善している(2024第4四半期末の保険グループ平均208.5%(前四半期206.3%))。保険会社の収益性指標(資産収益率など)はわずかに上昇したが、資産負債超過収益率3は13.0%(前四半期15.1%)へと低下した。
〇 相互関連と不均衡リスクは、引き続き安定している。
〇 保険引受リスクについては、2024年第4四半期には、指標の一つである保険料収入が大幅に増加したことで、リスクの規模が増大したが、2025年第1四半期はそのまま中程度レベルで安定している。保険商品の利回りが上昇したことで競争力が高まったため、生命保険会社の保険料収入増加率は、14.5%(前四半期12.1%)となった。損害保険会社の保険料収入増加率も8.3%(前四半期 7.4%)とプラスであった。損害率はわずかに低下し63.4%(前四半期 64.6%)であった。
〇 市場受容リスクは、2024年第4四半期に上昇したが、その後、中程度で安定している。2025年第1半期では、市場全体よりも高い株価上昇率を示している。
〇 ESGリスクはこれまで中程度で安定していたが、今後12か月の見通しは、上昇傾向であることには変わりない。保険会社の気候関連資産へのエクスポージャーはわずかに減少し、保険会社が保有するグリーンボンド残高は社債残高の7%(前四半期末 6.5%)の投資で安定して推移している。気候変動の物理的リスクに関する指標としてのリスクエクスポージャーをみると、洪水に関しては変化はないが、暴風に関するエクスポージャーが高くなっている。環境に関する国際的な協定などを巡る政治的な動向の変化により、長期的な目標に向けた進歩が困難になってきている。
〇 デジタル化とサイバーリスクは、現時点では中程度のレベルにとどまっているが、現在の地政学的状況をみると、オペレーショナルリスク、サイバーリスク引受リスクの両面において、サイバー関連の脅威は引き続き大きな懸念事項となる。(見通しを増大方向に変更)
3 原文では、Return on excess of assets over liability (ROEに類似した指標か。)
〇 信用リスクに関しては中程度のレベルにとどまっている。
〇 市場と資産の収益リスクは、引き続き高水準のままである。債券のボラティリティが2024年第4四半期末時点における、債券市場と株式市場のボラティリティの高まりにより今後のリスクも増大傾向にある。保険分野と同じく、2025年4月に発表された米国の新たな関税導入に市場は大きく反応し、政策の不確実性と更なるエスカレーションによる資産価格変動の可能性が高まっている。(横這いから増大方向に見通しを変更)
〇 流動性(資金調達)リスクは中程度で、2024年第4四半期の金利上昇を受けて、デリバティブ時価総額が減少している。年金基金分野は、流動性の低下に対して今のところ耐性があるようだが、市場の急激な変動に備えて、継続的な流動性管理が求められる状況が続く。
〇 確定給付型基金の準備金と資金調達のリスクは中程度であるが、財務状況はやや悪化した。2024年第3四半期の資産の負債超過率(中央値)は17.9%(前四半期 20.4%)(中央値)である。
〇 集中リスクは中程度である。
〇 ESGリスクも中程度で安定している。株式・社債のうち気候関連資産のエクスポージャーについては、中央値は横ばいで0.6%であった。社債に占めるグリーンボンドへの投資割合は2024年第4四半期には9.4%(前四半期 8.0%)へと上昇した。しかし今後は、環境協定の動向の変化により、長期的な目標に向けた進歩が困難になると予想される。
〇 デジタル化とサイバーリスクは、保険分野同様に、現時点では中程度のレベルにとどまっているが、現在の地政学的状況をみると、サイバー攻撃の脅威は引き続き大きな懸念事項となる。
3――おわりに
サイバーリスクについては、大きな懸念があることは想定できるものの、定量的な指標として、「サイバーリスクに対する懸念を示す保険会社や年金基金の数」や「サイバー攻撃の件数」しかなく、今後の評価のために一層の改善が必要とされる項目もあると考えられている。
(2025年05月27日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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