2025年04月01日

日銀短観(3月調査)~日銀の言う「オントラック」を裏付ける内容だが、トランプ関税の悪影響も混在

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画:2024年度は上方修正、2025年度は例年並み

2024年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比3.3%増(前回は2.8%増)、経常利益は1.6%増(前回は同3.1%減)とそれぞれ上方修正され、利益計画は増益に転換した。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6月調査で比較対象となる前年度分の上方修正などを受けて、さらに伸び率がやや下方修正された後は、景気が悪化していない限り、上方修正されていく傾向が強い。

今回も同様のパターンとなり、これまでの業績進捗の計画比上振れを受けて、もともとの保守的ぎみであった想定を上方修正する動きが継続したと考えられる。

なお、2024年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は147.94円と、前回(146.88円)から約1円円安方向に修正されたが、年度の実績(152.49円)との対比では、5円程度円高の水準に留まっている。短観の想定為替レートは修正に時間がかかる傾向があるためだ。従って、今後6月調査(実績)で想定為替レートが円安方向に修正されることで、輸出企業が牽引する形で全体の収益計画が上方修正される余地が残っている。
 
また、今回から集計・公表された2025年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比0.8%増、経常利益が同1.4%減となっている。

例年、経常利益計画は年度始時点では保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナスでスタートする傾向が強く、今回も同様となった。ちなみに、追加関税をはじめとするトランプ政権の政策については、警戒感こそあるものの、具体的に業績に落とし込める状況にはないことから、殆ど反映されていないと推測される。

なお、2025年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は147.06円(上期147.17円、下期146.95円)と、足下の実勢(148円台)と近い水準に設定されている。
(図表8)売上高計画
(図表9)経常利益計画
(図表10)経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は慎重さが目立つ、人手不足感は極めて強い

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲2となった。設備の需給は概ね均衡圏内ながら、若干不足ぎみの状況が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲37となった。DIのマイナス幅は1991年以来の大幅なマイナスにあたる。建設業などでの労働時間規制強化やインバウンドなど人手を多く要する対面サービス需要の増加を受けて、人手不足感が極めて強い状況が続いている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用人員判断DIが▲39とそれぞれ、2ポイントの低下が見込まれている。とりわけ中小企業では、雇用人員判断DIの低下幅が5ポイントと大きい。中小企業では人材確保に対する懸念が強いことが、先行きの人手不足感の高まりという形で表れているものとみられる。
(図表11)生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)
2024年度の設備投資計画(全規模)は、前年比8.1%増と前回12月調査(9.7%増)からやや下方修正された。

例年、3月調査(実績見込み)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては若干下方修正される傾向がある4。また、人手不足による工事進捗の遅れも下方修正の要因となったとみられる。ただし、下方修正されたと言っても、前年比8.1%増という伸び率は引き続き堅調な投資計画と言える。好調な収益を源泉として投資余力が確保されるなかで、省力化・脱炭素・DX・サプライチェーン再構築の推進等に伴う投資需要が支えになっていると考えられる。
 
一方、今回から新たに調査・公表された2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2024年度見込み比で0.1%増となった。かつては、3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向があったが、近年では前向きな投資姿勢を反映してプラスになる傾向がある。今回も前年比でかろうじてプラスになったものの、3%台を記録した2023・2024年度と比べると勢いが見られない。日本も対象になり得る多くの関税策を掲げるトランプ政権の出方は極めて不確実性が高いうえ影響も大きいため、事業環境の先行き不透明感が俄然高まっている。このため、製造業を中心に様子見姿勢が強まり、設備投資計画をとりあえず据え置く動きが生じていると考えられる。企業規模別では中小企業で例年に比べて慎重姿勢が目立っており、人件費等の各種コスト負担が投資意欲の抑制に働いている可能性がある。
 
2024年度設備投資計画(全規模全産業で前年比8.1%増)は市場予想(QUICK 集計7.4%増、当社予想は8.0%増)をやや上回る結果だった。一方、2025年度設備投資計画(全規模全産業で前年比0.1%増)は市場予想(QUICK 集計2.2%増、当社予想は1.8%増)を下回る結果だった。
 
2024年度のソフトウェア投資計画(全規模全産業)は前年比7.4%増(前回は12.1%増)へと下方修正された。例年、3月調査では下方修正される傾向が強く、今回も同様となったが、引き続き高い伸びが維持されている。企業が、オンライン需要への対応や生産性向上・省力化等に向けた業務のIT化を積極的に推し進める姿勢を維持していることを示唆しており、前向きな動きと言える。

一方、2025年度のソフトウェア投資計画(全規模全産業)は前年比4.3%増となった。前年比でプラスからの滑り出しにはなっているが、例年と比べるとやや弱めだ。トランプ関税を巡る不透明感や中小企業におけるコスト増加への警戒感が抑制要因になった可能性がある。
(図表12)設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表13)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表14)設備投資計画(大規模・全産業)
(図表15)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
4 直近10年間(2014~23年度)における3月調査(実績見込み)での修正幅は平均で▲1.1%ポイント。

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(2025年04月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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