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プレコンセプションケア 男性こそ必要なワケ-男性の生活習慣やストレスは精液所見に影響、加齢は次世代の健康に影響、男性の健康支援も丁寧に-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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ストレスの影響については、ストレスレベルが高値の男性は、中程度の方と比べて精子濃度・総精子数・精液量が低いといった報告がある一方で、精神的ストレスと精子の質には関連性がないとの報告もある20。また、経験したストレスに比例して生殖能力が低下するとの報告があり21、精神的なストレスは、精液所見に影響を与える可能性に加え、性交障害や射精障害、勃起障害などの性機能障害のリスクを高める可能性が考えられる。
弊社が実施した「働く男性の自覚症状(健康問題)」に関する調査では22、有症状者の中で「ストレスを感じる」が最も高い割合を占め、尚且つ仕事に最も影響を与える自覚症状であることが判明している。ストレス耐性は個人差が大きいため、スムーズなストレス対処行動がとれるか、また企業側がストレスの少ない職場環境づくりができるか、がポイントになってくるだろう。
20 Nordkap L, Jensen TK, Hansen ÅM, Lassen TH, Bang AK, Joensen UN, Blomberg Jensen M, Skakkebæk NE, Jørgensen N. Psychological stress and testicular function: a cross-sectional study of 1,215 Danish men. Fertil Steril. 2016 Jan;105(1):174-87.e1-2.
21 Hjollund NH, Bonde JP, Henriksen TB, Giwercman A, Olsen J; Danish First Pregnancy Planner Study Team. Reproductive effects of male psychologic stress. Epidemiology. 2004 Jan;15(1):21-7.
22 乾愛 基礎研レポート「働く男性の自覚症状(健康問題)-就労男性は「ストレスを感じる」が、自覚症状、仕事へ最も影響する症状ともに高い割合に-」(2023年8月31日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75965?site=nli
大麻の有害性については、言わずもがなである。大麻とは、中央アジア原産のアサ科の植物で、葉・茎・種子等を乾燥させたものであり、精神作用物質やその他類似化合物が含まれるものである。大麻を吸引すると、短期的には、心拍数の増加や呼吸障害、強烈な吐き気や嘔吐を及ぼし、長期的には、一時的な幻覚や被害妄想、統合失調症の症状が出現するなど、深刻な精神障害が現れる23。生殖能力への影響については、精子数の減少や、月経調整異常及び胎盤形成異常が指摘されている。また、出生前、妊娠中及び授乳中における母親の大麻使用は、死産や子宮内胎児発育支援、低体重、発育不全など次世代への子どもへの影響も確認されている24。もちろん、パートナーである男性の大麻使用が母子に与える影響は計り知れない。
日本では、大麻取締法等にて、大麻の所持・譲渡・使用・栽培が禁止されているが、日本の薬物使用の状況をみると25、2017年時点における15歳から64歳以下の大麻生涯経験率は、1.4%と報告されており、国際的には低い水準ではあるものの根絶できてはいない。また、薬物検挙人数をみると26、大麻事犯は2023年時点で6,703人と過去最多を更新、その約7割が30歳未満と報告されている。10歳代から大麻を使用すると、思考能力や記憶力、学習機能を低下させ、脳の神経回路形成に影響を与えることが報告されており、成人して大麻を辞めても精神的な能力の低下は元に戻らないと言われている。若年者の大麻使用は、将来の親世代の健康及び次世代の子どものたちの健康に重篤な健康影響を与える可能性があるため、看過できない状況にあることが分かる。
23 公)麻薬・覚醒剤乱用防止センター(dapc)https://www.dapc.or.jp/kiso/22_cannabis.html
24 山本経之ら「大麻曝露によるヒトならびに齧歯類の生殖・周産期および発達過程に及ぼす影響に関する調査研究」厚生労働行政推進調査事業費補助金 分担研究報告書
25 厚生労働省 現在の薬物乱用の現状https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/torikumi/
26 厚生労働省 薬物乱用対策(11)第六次薬物乱用防止五か年戦略フォローアップ
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001277720.pdf
4――男性の加齢は次世代の健康に影響
一方で、近年、東北大学のマウスを用いた研究において、父親の加齢が子どもの発達障がいの発症に影響する可能性が指摘され28、生殖能力のみならず、次世代の子どもへの影響が示唆されている。この可能性は、過去の諸外国の研究報告からも首肯されるものであり、父親の加齢に伴い精子の分裂の際に生じる新規の変異数が上昇し、子どもに受け継がれる新規変異数は母親の4倍近くとなるため、子どもの自閉症や統合失調症などの遺伝的変異と関連する疾患を発症する確率も上昇することが明らかにされている29、30,31,32。
日本では、現状、不妊治療の保険適用などに男性側の年齢制限等は設けられていないが、今後、男性の加齢による影響も加味した上で、制度設計の見直しやプレコンセプションケアを展開する必要があろう。
27 一社)日本生殖医学会 http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa25.html
28 東北大学2021年プレスリリース「父親の加齢が子どもの発達障害の発症に影響する -マウス加齢モデルにおける精子DNA低メチル化が鍵-」https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/01/press20210106-01-dna.html
29 Kong, A. et al.“Rate of de novo mutations and the importance of father’s age to disease risk”Nature 488, 471–475 (2012). https://www.nature.com/articles/nature11396
30 Sanders, S. J. et al. “De novo mutations revealed by whole-exome sequencing are strongly associated with autism” Nature 485, 237–241 (2012). https://www.nature.com/articles/nature10945
31 O’Roak, B. J. et al. “Sporadic autism exomes reveal a highly interconnected protein network of de novo mutations” Nature 485, 246–250 (2012). https://www.nature.com/articles/nature10989
32 Neale, B. M. et al. “Patterns and rates of exonic de novo mutations in autism spectrum disorders” Nature 485, 242–245 (2012).
5――プレコンセプションケアの展開
まず、東京都では33、生活習慣のチェックリストや取り組みポイントなどを性・年代別に分けて解説している動画の提供、都内在住の18~39歳の方を対象に妊娠成立に関する知識や検査値に関する講座を提供する「TOKYOプレコンゼミ」の開催、講座を受講した方を対象にしたヘルスチェックの提供及び検査費用の助成を行っている。また、江戸川区では34、男性向けに、タバコ・肥満・男性不妊の影響についても情報提供しており、女性に留まらず男性が取り組む重要性を周知している。
さらに、兵庫県では、不妊治療支援に特化した全国初の条例が施行される予定で35、保険適用外の先進医療費や通院交通費の助成、仕事との両立支援に加え、高校生や大学生を対象とした出前講座を実施するなどのプレコンセプションケアの推進に力を入れている。応援サイトである「かがやく未来はじめの一歩。」では36、小学校高学年~中学生を対象に健康に関する情報を提供しているほか、ポイントをまとめた漫画付き情報誌や、理解度をチェックするクイズも準備されており、若年男性のみならず学童期を対象とした早期からプレコンセプションケア理解醸成を図る有益な対策がとられている。
33 東京都 福祉局「プレコンセプションケア」https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/preconceptioncare
34 江戸川区 プレコンセプションケア連載第4回 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e051/kenko/kenko/colum/purekon4kai.html
35 兵庫県 不妊症等に関する支援促進条例(案)概要
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/documents/joureigaiyou11.pdf
36 兵庫県 プレコンセプションケア応援サイト https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf17/r6prekon.html
2024年の7月には、経済産業省が主導する健康投資に関する有識者会議(健康投資ワーキンググループ)にて、健康経営のアンケート項目の中に新たにプレコンセプションケアが加わるなど、健康経営の一環として企業が取り組む必要性が示されている37。
東京海上日動火災保険では38、女性の健康支援施策を「ミモザ健康委員会」と総称し、各種施策を展開している。その一環として、2022 年度にはプレコンセプションケアや更年期などをテーマに外部講師を招きオンラインセミナーを開催している。また、健康リテラシー向上のため、e-learning の実施やメールによる情報共有をし、その際には配信先を女性だけに限定せず全社員に配信することで、家族や同僚などに対する理解を促している。他にも、健康相談窓口を設置し、気軽に相談できる体制を整え、搾乳やホルモンバランスの不調時に利用できる「Mothers’ Room」スペースを設けている。これらの取組みの結果、女性の健康支援策への参加や活用数が多いほど、ワーク・エンゲージメントスコアが高くなる結果が得られており、取組みの効果が示されている。
また、楽天グループでは39、2020年より性別を問わず全従業員を対象としたプレコンセプションケア推進活動を開始し、2021年には妊活でのパートナーとのコミュニケーションの取り方や男性が陥りがちな無理解の事例などについて学ぶセミナーを開催、2024年には3月を「女性の健康月間」と定め、女性の健康に関する調査やイベントを実施している。
他にも、男性のプレコンセプションケアに関するe-learningを提供後に、希望者を対象に女性の卵巣年齢検査や男性の精子濃度検査キットなどを支給している企業もある。今後は、これらの企業の様に、女性だけでなく男性の健康支援にも注目しながら、プレコンセプションケアを展開していくことを期待したい。
37 経済産業省 第12回健康投資ワーキンググループ
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/012.html
38 東京海上ホールディングス2023サスナビリティーレポートp97 ※掲載許諾済
https://www.tokiomarinehd.com/sustainability/pdf/sustainability_web_2023.pdf
39 楽天グループ 楽天の女性活躍 取組み事例 https://corp.rakuten.co.jp/careers/womenscareer/ ※掲載許諾済
日本経済新聞 若い世代も「妊活」妊娠前の健康管理、企業が注目(2022年10月17日)
(2025年03月25日「基礎研レポート」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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