2025年03月19日

日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の12と予想、トランプ関税の影響度に注目

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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3月短観予測:製造業景況感は弱含み、インフレ予想は高止まりか

(非製造業の景況感は堅調)
4月1日に公表される日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが12と前回12月調査から2ポイント低下し、景況感の小幅な悪化が示されそうだ(表紙図表1)。この場合、同DIの低下は4四半期ぶりとなり、一昨年末以降、景況感が一進一退の域を脱していない形になる。自動車生産の回復等が支えになったものの、トランプ関税の悪影響や中国経済の低迷が景況感を圧迫したと考えられる。一方、大企業非製造業では、好調なインバウンド需要などに後押しされて、業況判断DIが35と前回比2ポイント上昇すると予想している。
 
ちなみに、前回12月調査1では、世界的なAI関連需要や自動車生産の回復などを受けて大企業製造業の景況感が若干改善した一方で、物価高による消費マインドの低迷や気温の高止まり等の影響により、非製造業では景況感が弱含んでいた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
前回調査以降、大企業製造業では、認証不正の影響剥落等に伴って自動車生産が回復したものの、中国経済の低迷が続いたほか、トランプ関税の悪影響が景況感を圧迫したと考えられる。トランプ政権による日本に対する直接的な追加関税は現状限られている2が、中国・カナダ・メキシコ向け関税の発動によってサプライチェーンに悪影響を受けた先があるほか、矢継ぎ早の関税策打ち出しが景況感の押し下げに繋がったと考えられる。

一方、大企業非製造業では、コメなどの物価上昇による消費マインドの低迷や、物流費・人件費等のコスト上昇が景況感の重石となったものの、冬の賞与増加や好調なインバウンド需要、価格転嫁の進展が追い風となり、景況感がやや改善したと考えられる(図表4~7)。

中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から1ポイント低下の0、非製造業が1ポイント上昇の17と予想(表紙図表1)。大企業同様、景況感が製造業でやや下向き、非製造業でやや上向きになると見込んでいる。
 
先行きの景況感については総じて悪化が示されると予想(表紙図表1)。製造業では、トランプ政権による関税引き上げやそれに端を発する貿易戦争への警戒感が景況感に現れるだろう。非製造業では、物価上昇の継続による消費の腰折れや人件費・物流費など各種コストの増大懸念が反映される形で、先行きの景況感が悪化すると見ている。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)景気ウォッチャー調査 景気の現状判断(水準)
 
1 回収基準日は前回12月調査が11月27日、今回3月調査が3月12日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
2 3月12日に鉄鋼・アルミ製品に対する25%の関税が発動
(来年度設備投資計画はやや弱めか)
2024年度の設備投資計画(全規模)は、前年比8.0%増と前回12月調査(9.7%増)からやや下方修正されると予想(図表8~10)。

例年、3月調査(実績見込み)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては若干下方修正される傾向がある3。人手不足による工事進捗の遅れも下方修正の要因となる。ただし、下方修正されたとしても、前年比8.0%増という伸び率は引き続き堅調な投資計画と言える。好調な収益を背景として投資余力が確保されるなかで、省力化・脱炭素・DX・サプライチェーン再構築の推進等に伴う投資需要が支えになっていると考えられる。
 
一方、今回から新たに調査・公表される2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2024年度見込み比で1.8%増と予想。従来は、3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向があったが、近年では前向きな投資姿勢を反映してプラスになる傾向がある。今回も前年比でプラスにはなるものの、3%台を記録した2023・2024年度と比べると慎重な計画が示されそうだ。日本も対象になり得る多くの関税策を掲げるトランプ政権の出方は極めて不確実性が高いうえ影響も大きいため、事業環境の先行き不透明感が高まっている。このため、製造業を中心に様子見姿勢が強まり、設備投資計画を据え置く傾向が一定程度見られそうだ。
(図表8)設備投資関連指標の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
3 直近10年間(2014~23年度)における3月調査(実績見込み)での修正幅は平均で▲1.1%ポイント。
(注目テーマ:インフレ予想とトランプ関税の悪影響)
今回の短観で最も注目されるテーマは、「トランプ関税の影響」だ。1月20日に発足して以降、トランプ政権が矢継ぎ早に関税引き上げ策を打ち出していることを受けて、米国の景況感指標では既に関税に伴う景気減速懸念を受けて悪化したものが見受けられるほか、金融市場ではリスク回避的な動きが頻発している。関税発動後初の調査となる今回の短観において、国内企業の景況感や来年度の収益・設備投資計画に負の影響がどれだけ現れるかかが注目される。
 
そして、もう一つの注目テーマは「国内の物価上昇」だ。日銀は1月に追加利上げを実施した後も、「経済・物価の見通しが(物価上昇率が2%程度で安定していくという)日銀の想定通り実現していくとすれば、それに応じて政策金利を引き上げる」との方針を維持している。短観では、今後の物価上昇と密接に関係する企業のインフレ予想とその裏付けとなる値上げ意向が、企業の物価見通し(物価全般の見通し・販売価格の見通し)や販売価格判断DI(先行き)で示されるため、インフレ予想の高止まりと値上げ継続の意向が確認できるかがポイントになる。
(図表11)仕入・販売価格DI/(図表12)企業の物価見通し(全規模)
(早期利上げの決定打とはなりづらい)
今回の短観では、引き続き企業のインフレ予想の高止まりや値上げ意向の継続、強い人手不足感が確認されると予想される。これらは、既に一次集計の結果が判明している今春闘での高い賃上げ継続とともに、日銀が追加利上げの判断材料としている「経済・物価が見通しに沿った経路を辿っている(オントラックにある)」との見方を補強する材料となる可能性が高い。

しかし一方で、今回の短観は、トランプ政権の関税発動を背景として、景況感(特に先行き)や来年度の設備投資計画などに企業の慎重姿勢が一定程度うかがわれる内容になりそうだ。
 
従って、日銀としては、前向きな要素を内包しつつも、注視すべき懸念材料も見受けられる形の短観という位置付けとなり、早期の利上げを促す決定打とはならないだろう。日銀はしばらく、賃上げの中小企業等への波及を確認しつつ、米政権の動向とその影響を慎重に見定めるスタンスを維持することになると見ている。

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(2025年03月19日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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