- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 欧米保険事情 >
- EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-
2025年03月18日
EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
3―IRRD(保険再建破綻処理指令)に対するInsurance Europeの見解
このIRRDの発効に対して、欧州の保険業界団体であるInsurance Europeは、2025年2月6日に、ポジションペーパーを公表14している。これは、これからEIOPAによる技術基準とガイドラインの策定が進められ、協議が行われていくのに先立って、重要な分野における今後の方向性についてのInsurance Europeの見解を示したものである。Insurance Europeは以前から、IRRDが国際基準を超えず、業界に不必要な負担を与えないことを保証するように求めていた。
1|ポジションペーパーの概要
プレスリリースの中で、Insurance Europeは、不必要な複雑さや負担を回避しながら、指令が「実行可能で、効率的で、比例的」であり、保険業界の現実を反映していることを確認するための議論に貢献することに引き続き取り組んでいる、と述べている。
また、「IRRDレベル2及びレベル3の協議前の重要な考慮事項」とのタイトルのポジションペーパーの中で、まずは「一般的に、IRRDが業界とNCAs(各国所管当局)の過度の事務負担を回避することが重要である。」とし、「この枠組みは、保険セクターに固有のものであり、他の金融セクターとの違いを反映したものでなければならない。例えば、保険の破綻処理は、銀行の破綻処理と比較して、解決策を見つけるための時間が長くなる。したがって、同じレベルの詳細さと計画は必要ない。」と述べている。
また、このポジションペーパーの中で、Insurance Europeは、さらに明確化と検討が必要だと考えるいくつかの分野を特定し、見解を述べている。具体的には、以下の通りである。
プレスリリースの中で、Insurance Europeは、不必要な複雑さや負担を回避しながら、指令が「実行可能で、効率的で、比例的」であり、保険業界の現実を反映していることを確認するための議論に貢献することに引き続き取り組んでいる、と述べている。
また、「IRRDレベル2及びレベル3の協議前の重要な考慮事項」とのタイトルのポジションペーパーの中で、まずは「一般的に、IRRDが業界とNCAs(各国所管当局)の過度の事務負担を回避することが重要である。」とし、「この枠組みは、保険セクターに固有のものであり、他の金融セクターとの違いを反映したものでなければならない。例えば、保険の破綻処理は、銀行の破綻処理と比較して、解決策を見つけるための時間が長くなる。したがって、同じレベルの詳細さと計画は必要ない。」と述べている。
また、このポジションペーパーの中で、Insurance Europeは、さらに明確化と検討が必要だと考えるいくつかの分野を特定し、見解を述べている。具体的には、以下の通りである。
(1) 実施のタイミング
業界では、最初の先制的な再建計画を2028年半ばまでに準備することを求めている。
少なくとも 2027 年までの移行期間を設けることで、最初の計画が策定されるまでに EIOPA の規制及び実施技術基準 (RTS及びITS) とガイドラインが確定し、これらの技術文書に含まれる要件が考慮されるようになる。
また、殆どの保険会社にとって先制的な再建計画の策定は反復的なプロセスとなり、会社とNCAs との協議を通じて何年もかけて微調整されることが予想される。計画の最初のバージョンに対する監督当局の期待はこれを反映したものであるべきである。
(2) 定義が不明確
評価減又は転換ツールにおける(保険契約の条件を変更した場合の条件変更後の)「強制的な最低補償」、先制的な再建計画の更新を引き起こす「重要な変更」、先制的な再建計画の内容の中で必要とされる「是正措置」等、いくつかの主要な概念では、EU全体で一貫した適用を確保するために明確な定義が必要となる。
(3) 最小市場カバレッジ要件
各管轄区域における先制的な再建計画及び破綻処理計画のための最小市場要件の範囲を定義するための以下のアプローチを支持する。
最小要件に達するためには、NCAが既にグループ計画を要求しているグループ及び子会社を最初に考慮すべきである。これらの計画の市場カバレッジの合計が最小要件を満たさない場合にのみ、NCAは、グループ計画を持たないより重要性の低い会社、グループ又は子会社からの先制的な再建計画及び破綻処理計画に関連する情報の要求を検討すべきである。
(4) 子会社の計画要件
子会社レベルの計画は、グループ計画で問題に対処できない場合にのみ必要とすべきであると強調し、以下のステップを提案している。
グループ監督者とNCAがグループの先制的な再建計画を受け入れる場合、子会社に対してこれ以上の措置が必要ない。グループの先制的な再建計画がNCAに受け入れられず、グループのリードNCAと子会社のNCAとの間の意見の相違を解決するためのあらゆる手段が利用された場合、保険会社との協議の後、リードNCAは次のいずれかを要求すべきである。
・グループ計画で十分に対処されていないと考えられる子会社の特殊性に対処することに限定して、(グループの先制的な再建計画内の) 原文書に子会社レベルの附属書を追加する。
・監督当局の懸念に対処する現地の再建計画を作成する。
(5) 資金調達の取決め
特に、サービスの自由(Foos)及び設立の自由(FoE)のルールの下で国境を越えて事業を行う会社の場合、破綻処理のための資金調達メカニズムについてより明確化する必要がある。
破綻処理資金調達のための取決めの特徴と設計、特に取決めの資金調達(即ち、事前、事後又はそれらの組み合わせ)を決定するのは加盟国でなければならない。しかし、複数の加盟国が関与する破綻処理の文脈において、破綻処理資金調達がどのように扱われるかについての明確化が役立つかもしれない。
(6) 重要な機能
EIOPAの重要な機能に関するガイドラインは、各国の裁量を考慮し、欧州全体の保険市場の多様性を考慮する必要がある。
EIOPAは、NCAがそれぞれの市場の重要な機能を特定するために、国の裁量を得て、ハイレベルの方法論を提供することを目指すべきである。また、方法論は、例えば、社会や金融市場における保険の役割など、各国の特徴に対応できるように柔軟であるべきである。ある加盟国で重要な機能として分類されたものが、他の加盟国でも重要な機能として、デフォルトで分類されるべきではない。また、加盟国の保険会社が遂行する重要な機能はないと結論付けることも可能であるべきである。
(7) その他のトピック
さらに強調された領域には、計画の機密性、破綻処理当局の責任、保険ビジネスの特殊性、保険市場間の違いなどがある。
業界では、最初の先制的な再建計画を2028年半ばまでに準備することを求めている。
少なくとも 2027 年までの移行期間を設けることで、最初の計画が策定されるまでに EIOPA の規制及び実施技術基準 (RTS及びITS) とガイドラインが確定し、これらの技術文書に含まれる要件が考慮されるようになる。
また、殆どの保険会社にとって先制的な再建計画の策定は反復的なプロセスとなり、会社とNCAs との協議を通じて何年もかけて微調整されることが予想される。計画の最初のバージョンに対する監督当局の期待はこれを反映したものであるべきである。
(2) 定義が不明確
評価減又は転換ツールにおける(保険契約の条件を変更した場合の条件変更後の)「強制的な最低補償」、先制的な再建計画の更新を引き起こす「重要な変更」、先制的な再建計画の内容の中で必要とされる「是正措置」等、いくつかの主要な概念では、EU全体で一貫した適用を確保するために明確な定義が必要となる。
(3) 最小市場カバレッジ要件
各管轄区域における先制的な再建計画及び破綻処理計画のための最小市場要件の範囲を定義するための以下のアプローチを支持する。
最小要件に達するためには、NCAが既にグループ計画を要求しているグループ及び子会社を最初に考慮すべきである。これらの計画の市場カバレッジの合計が最小要件を満たさない場合にのみ、NCAは、グループ計画を持たないより重要性の低い会社、グループ又は子会社からの先制的な再建計画及び破綻処理計画に関連する情報の要求を検討すべきである。
(4) 子会社の計画要件
子会社レベルの計画は、グループ計画で問題に対処できない場合にのみ必要とすべきであると強調し、以下のステップを提案している。
グループ監督者とNCAがグループの先制的な再建計画を受け入れる場合、子会社に対してこれ以上の措置が必要ない。グループの先制的な再建計画がNCAに受け入れられず、グループのリードNCAと子会社のNCAとの間の意見の相違を解決するためのあらゆる手段が利用された場合、保険会社との協議の後、リードNCAは次のいずれかを要求すべきである。
・グループ計画で十分に対処されていないと考えられる子会社の特殊性に対処することに限定して、(グループの先制的な再建計画内の) 原文書に子会社レベルの附属書を追加する。
・監督当局の懸念に対処する現地の再建計画を作成する。
(5) 資金調達の取決め
特に、サービスの自由(Foos)及び設立の自由(FoE)のルールの下で国境を越えて事業を行う会社の場合、破綻処理のための資金調達メカニズムについてより明確化する必要がある。
破綻処理資金調達のための取決めの特徴と設計、特に取決めの資金調達(即ち、事前、事後又はそれらの組み合わせ)を決定するのは加盟国でなければならない。しかし、複数の加盟国が関与する破綻処理の文脈において、破綻処理資金調達がどのように扱われるかについての明確化が役立つかもしれない。
(6) 重要な機能
EIOPAの重要な機能に関するガイドラインは、各国の裁量を考慮し、欧州全体の保険市場の多様性を考慮する必要がある。
EIOPAは、NCAがそれぞれの市場の重要な機能を特定するために、国の裁量を得て、ハイレベルの方法論を提供することを目指すべきである。また、方法論は、例えば、社会や金融市場における保険の役割など、各国の特徴に対応できるように柔軟であるべきである。ある加盟国で重要な機能として分類されたものが、他の加盟国でも重要な機能として、デフォルトで分類されるべきではない。また、加盟国の保険会社が遂行する重要な機能はないと結論付けることも可能であるべきである。
(7) その他のトピック
さらに強調された領域には、計画の機密性、破綻処理当局の責任、保険ビジネスの特殊性、保険市場間の違いなどがある。
4―まとめ
以上、今回のレポートでは、最終化されたIRRDの概要及びこれに対するInsurance Europeの見解を紹介した。
EU加盟国全体で一貫したアプローチを確保することを目指して策定されたIRRDであり、これにより、保険契約者の利益の保護や金融の安定性の維持の向上が図られていくことになる。ただし、今回のIRRDに対して、業界サイドからは、さらなる規制対応のための負担の増加につながる懸念が示されており、今後の協議を通じて、実際の制度の適用に向けて明確化を図っていくことの重要性が強調されている。その意味でも、詳細を定める「レベル2」以下の実施基準やガイドラインの内容やそれに向けての業界の対応等に注目が集まってくることになる。
また、保険保証制度については、EIOPA が最低共通枠組みの導入を助言していた15が、保険会社、特に現在そのようなスキームを持っていない加盟国において、新しい枠組みに準拠するために既存のスキームに変更を加える必要がある場合に、大きな実施コストを伴う可能性がある、とされ、欧州委員会によって却下された。ただし、保険保証制度の検討は行われることになっており、今回のIRRDにおいても、先に述べたように、欧州委員会に対して、2027年1月29日までに、EIOPAと協議した後、EU域内の保険保証制度に関する最低共通基準の妥当性を評価する報告書を欧州議会及び理事会に提出することを求めている。このトピックは引き続き政治的な課題として検討されていくことになる。
再建・破綻処理制度を巡る動向は、関係者にとって極めて関心の高い事項となっていることから、今後の動きについては引き続き注視していくこととしたい。
15 保険保証制度に関するEIOPAの助言内容については、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーⅡの2020年レビューに関するCPを公表(16)-再建及び破綻処理等-」2020.4.1)で報告している。
EU加盟国全体で一貫したアプローチを確保することを目指して策定されたIRRDであり、これにより、保険契約者の利益の保護や金融の安定性の維持の向上が図られていくことになる。ただし、今回のIRRDに対して、業界サイドからは、さらなる規制対応のための負担の増加につながる懸念が示されており、今後の協議を通じて、実際の制度の適用に向けて明確化を図っていくことの重要性が強調されている。その意味でも、詳細を定める「レベル2」以下の実施基準やガイドラインの内容やそれに向けての業界の対応等に注目が集まってくることになる。
また、保険保証制度については、EIOPA が最低共通枠組みの導入を助言していた15が、保険会社、特に現在そのようなスキームを持っていない加盟国において、新しい枠組みに準拠するために既存のスキームに変更を加える必要がある場合に、大きな実施コストを伴う可能性がある、とされ、欧州委員会によって却下された。ただし、保険保証制度の検討は行われることになっており、今回のIRRDにおいても、先に述べたように、欧州委員会に対して、2027年1月29日までに、EIOPAと協議した後、EU域内の保険保証制度に関する最低共通基準の妥当性を評価する報告書を欧州議会及び理事会に提出することを求めている。このトピックは引き続き政治的な課題として検討されていくことになる。
再建・破綻処理制度を巡る動向は、関係者にとって極めて関心の高い事項となっていることから、今後の動きについては引き続き注視していくこととしたい。
15 保険保証制度に関するEIOPAの助言内容については、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーⅡの2020年レビューに関するCPを公表(16)-再建及び破綻処理等-」2020.4.1)で報告している。
(2025年03月18日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/02 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年05月13日
今週のレポート・コラムまとめ【5/7-5/12発行分】 -
2025年05月09日
下落時の分配金の是非~2025年4月の投信動向~ -
2025年05月09日
グローバル株式市場動向(2025年4月)-トランプ関税への各国の対応が注目される -
2025年05月09日
英国金融政策(5月MPC公表)-トランプ関税が利下げを後押し -
2025年05月09日
官民連携「EVカーシェア」の現状-GXと地方創生の交差点で進むモビリティ変革の芽
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-のレポート Topへ