2025年03月18日

EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-

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(参考)先制的な再建計画と他の計画や分析との関係
EIOPAは、先制的な再建計画と他の計画や分析との関係について、以下のように説明している(以下は、EIOPAのプレゼンテーション資料「IRRDの一般的側面」5からの抜粋の翻訳に基づいている)。
1.ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)
・どちらもリスク管理プロセスの一部である。
・ORSAには、自己資本要件の継続的な遵守に関する分析が含まれており、将来の (可能性のある) 自己資本要件違反の特定と評価を可能にする必要がある。
・先制的な再建計画では、深刻なストレスの結果としての自己資本要件の違反/低下を想定し、財務状況が大幅に悪化した場合に財務状況を回復するための可能な措置を特定する必要がある。
・先制的な再建計画のシナリオの方が本質的に幅広い。
要約すると、ORSAは先制的な再建計画に影響を与えるが、最初の前提として置き換えることはできない。アプローチと範囲が異なる。

2.ソルベンシーIIの再建計画
危機フローの時点の差異
・ソルベンシーIIの再建計画は、SCRに準拠していない場合に必要となる。
・IRRDの先制的な再建計画は「通常業務」環境で作成される。
目的
・IRRDの先制的な再建計画は、考えられる脆弱性を特定し、利用可能なツールと影響を分析することを目的としている。
・ソルベンシーIIの再建計画は、SCRの不遵守が確認されてから6カ月以内に、SCRをカバーする適格自己資本の水準の再設定又はSCRの遵守を確保するためのリスクプロファイルの削減を達成するために保険会社が取る措置を定めている。
IRRD計画は、SCR違反後のソルベンシーII計画の出発点として期待できる。

3.流動性リスク管理計画(LRMP
・LRMPは、短期的な流動性分析をカバーし、会社の資産及び負債に関連するキャッシュフローの流入及び流出を予測しなければならない。監督当局はより長い期間を要求する可能性がある。
・LRMPの目的は、ストレス下であっても、会社が全ての取引先に対する金融債務の返済期限が到来した場合に、それを決済するために十分な流動性を維持することを確保することにある。
・先制的な再建計画においても、流動性の状況とニーズを考慮することが重要となる。
・シナリオに応じて、LRMPは、脆弱性の特定、使用される指標、又は取られた措置において役立ち、先制的な再建計画に影響を与えることができる。
IRRDの前文第21項に記載されているように、「ORSA、コンティンジェンシープラン又はLRMPを含む、既存のツールは、先制的な再建計画を作成する際に考慮することができる。」
4|破綻処理計画
破綻処理計画は、保険会社が破綻処理のための条件を満たしている場合に、どのような破綻処理戦略(ツールと権限の使用を含む)を効果的に破綻処理するために追求するかを設定しようとするものである。破綻処理計画には、破綻処理可能性の評価が含まれ、その後、特定された破綻処理可能性の障害に対処するための代替措置を講じることができる。

破綻処理当局は、保険市場の少なくとも40%(生命保険市場では技術的準備金、損害保険市場では収入保険料に基づく)が破綻処理計画を作成及び(少なくとも2年毎に)更新する義務を負うことを保証しなければならない。SNCUは、監督当局が国・地域レベルで特定のリスクを表していると考える場合を除き、対象とならない。

破綻処理当局は、破綻した場合に、破綻処理措置が公共の利益になる可能性が、その権限の下にある他の会社と比較して高いと評価する保険会社について、破綻処理計画を作成する。これらの評価は、少なくとも、破綻処理の目的を達成する必要性、事業の規模、ビジネスモデル、リスクプロファイル、相互関連性、代替性、及び特に国境を越えた活動を考慮に入れる。

先制的な再建計画と同様に、破綻処理計画はEUグループのレベルで適用され、そのようなグループの破綻処理計画で十分にカバーされていない場合、個々の会社に適用される。

破綻処理計画は、破綻処理ツールを保険会社に適用し、破綻処理権限を行使するためのオプションを定めなければならない。破綻処理計画には、(1)計画の主要な要素の要約、(2)破綻処理計画の観点から関連する保険会社に関する一連の情報の要約、(3)破綻処理戦略の記述、(4)重要な機能6及び中核的な事業ラインを他の機能からどのように法的及び経済的に分離することができるかの実証、(5)担保として適格であると予想される資産の特定、(6)財務継続性を確保するための望ましい破綻処理戦略の実施に必要な資金需要ニーズ及び資金調達源の記述、(7)重要な利害関係者グループとのコミュニケーション戦略、(8)破綻処理可能性の評価の詳細な記述;、(9)該当する場合、破綻処理計画に関連して保険会社が表明した意見、等について、適切かつ可能な場合には定量化して、含める必要がある。なお、計画の主要な要素の要約は、保険会社に開示されなければならない。

さらに、グループの破綻処理計画は、(1)重要な機能の継続性を確保するための各事業体の破綻処理措置の概要、(2)破綻処理の手段と権限を協調的に適用できるかどうかの検討、(3)第三国の関係当局との協力と調整のための取決めの特定、(4)グループの破綻処理を促進するために必要な措置の特定、(5)グループの破綻処理措置に資金を提供するために利用可能な資金源の特定、も含まなければならない。

なお、破綻処理当局は、破綻処理計画及びその変更を関係監督当局に伝達しなければならない。

保険会社又は最終的な親会社は、破綻処理当局に対して、破綻処理計画の策定及び実施に必要な全ての情報を協力して提供しなければならない。また、関係加盟国の監督当局は、破綻処理当局と協力して、これらの情報の一部又は全部が既に利用可能であるかどうかを検証し、当該情報を破綻処理当局に提供しなければならない。
 
6重要な機能(critical functions」とは、保険会社又は再保険会社が第三者のために行う活動、サービス又は業務で、合理的な期間内又は合理的な費用で代替できないものであり、保険会社又は再保険会社が当該活動、サービス又は業務を遂行できない場合、特に、多数の保険契約者、受益者又は被害者の社会福祉への影響、又は保険サービスの提供に対するシステムの混乱又は一般的な信頼の喪失から生じる影響を含め、1つ又は複数の加盟国の金融システム又は実体経済に重大な影響を及ぼす可能性があるものをいう(IRRD第2条(25))。
 重要な機能の特定は、破綻処理計画の重要な部分であり、破綻処理計画の範囲と公益評価の結果に影響を与える。
5|破綻処理可能性の評価とその障害への対処
(1) 破綻処理可能性の評価
破綻処理当局は、破綻処理計画を作成又は更新する場合、保険会社又はグループの破綻処理可能性評価を実施し、通常の破産手続又は破綻処理ツール・権限の適用によって、特別な公的財政支援に頼ることなく、信頼できる形で破綻処理可能であるかどうかを判断しなければならない。会社が通常の破産手続の下で清算されること、又は破綻処理当局が破綻処理ツールを適用し、破綻処理権限を行使することによって当該会社を清算することが実行可能かつ信頼できる場合には、破綻処理可能であるとみなされなければならない。

破綻処理当局が、通常の破産手続の下で清算された場合には、清算目的を同程度7に満たすことができないため、公共の利益のためには破綻処理措置が必要であると結論付けた場合には、次の一連の段階に進まなければならない。

(a) 保険会社の構造及びビジネスモデルを考慮して、破綻処理目的を達成するために適切な優先的な破綻処理措置を選択する。

(b) 選択された破綻処理措置を適切な期間内に効果的に適用することが実行可能であるかどうかを評価し、その実施に対する潜在的な障害を特定する。

(c) 保険会社が遂行する重要な機能の継続性を確保する観点から、加盟国又はEUの金融システム又は実体経済に対する破綻処理の影響並びに保険契約者、受益者及び請求者の集団的利益の保護を考慮して、選択された破綻処理措置の信頼性を評価する。

破綻処理可能性を評価するために、破綻処理当局は少なくとも、(1)業務の継続性、(2)金融市場インフラへのアクセス、(3)分離可能性(特に、重要な機能や中核的な事業ライン)、(4)損失吸収及び資本増強能力、(5)破綻処理における流動性及び資金調達、(6)情報システム及びデータ要件、(7)コミュニケーション(関連する利害関係者との)、(8)ガバナンス、(9)信頼性と影響、を考慮する必要がある。

保険会社又は最終的な親会社は、破綻処理当局に対して、破綻処理可能性の評価に必要な全ての情報を提供しなければならない。
 
7 法律には明確に規定されていないが「それ以外の手段と権限等で清算された場合と比べて」という意味と考えられる。
(2) 破綻処理可能性に対する障害への対処
破綻処理当局は、破綻処理可能性に対する重要な障害を発見した場合には、当該会社又はグループに通知する。当該通知から4カ月以内に、障害を大幅に軽減又は除去する措置が破綻処理当局に提示されない場合、破綻処理当局は、当該会社又はグループに対し、特定の「代替措置」を講じるよう要求することができる。

この代替措置には、(1)グループ内の資金調達契約の改訂、(2)最大エクスポージャーの制限、(3)特定の資産の売却や負債の再構築、(4)既存や新契約の活動の制限又は停止、(5)再保険戦略の変更、(6)破綻処理ツールの適用の複雑さを軽減するための法的又は運用上の構造の変更、(7)親会社の保険持株会社の設立の義務付け、(8)混合事業の保険持株会社に対して、会社を管理するための別の保険持株会社の設立を要求、等が含まれる。

破綻処理当局は、この決定を行う場合、決定の理由を当該会社又はグループに通知する必要があり、これに対して、会社又はグループは上訴する権利を留保する。
6|破綻処理措置
破綻処理当局は、以下の全ての条件が満たされる場合にのみ、保険会社に関して破綻処理措置をとることができる。

(a) 監督当局が、破綻処理当局と協議した後、又は破綻処理当局が、監督当局と協議した後、当該保険会社が破綻しているか又は破綻する可能性が高いと決定した場合

(b) 予防措置及び是正措置を含む代替的な民間部門の措置又は監督上の措置が、合理的な期間内に当該会社の破綻を防止するとの合理的な見通しがない場合

(c) 破綻処理措置が公共の利益のために必要である

なお、保険会社は、以下のいずれかの状況において「破綻しているか又は破綻する可能性が高い」とみなされる。

(a) 保険会社が、MCR(最低資本要件)に違反しているか又は違反する可能性があり、かつ、その遵守が回復される合理的な見通しがない場合

(b) 保険会社が、もはや認可のための条件を満たしていないか、適用される法令及び規則に基づく義務の履行を著しく怠っているか、又は近い将来、認可の撤回を正当化するような方法で義務の履行を著しく怠っていることを裏付ける客観的要素がある場合

(c) 保険会社の資産の価値が、近い将来、負債を下回るという客観的要素がある場合

(d) 保険会社が、保険契約者又は受益者への支払いを含む負債又はその他の負債の支払期日が到来した場合に、それらを支払うことができないか、又は近い将来、そのような状況になるという決定を裏付ける客観的要素がある場合

(e) 特別な公的財政支援が必要とされる場合

また、IRRDは、損失負担の優先順位等の破綻処理を支配する一般原則を規定している。さらに、破綻処理にあたってのいくつかのセーフガード((1)独立した(又は暫定的な)評価、(2)いかなる債権者も清算シナリオよりも不利な状況に陥らないようにする、(3)上訴権を確保)を規定している。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月18日「基礎研レポート」)

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