2025年02月21日

保険会社の清算にむけた動きの例(欧州)-FWU ルクセンブルクの清算に関するEIOPAの情報提供

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

持ち株会社FWU AG(ドイツ)の傘下には、2つの保険会社(ルクセンブルクとオーストリア)がある。主にユニットリンク保険を販売しており、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、スペインに保険契約者を持っている。

2024年7月、そのうちのFWUルクセンブルクが、ルクセンブルク国内の保険監督当局(保険委員会:CAA)に対して、ソルベンシーIIに基づく最低資本要件を満たしていないことを通知した。

それ以来、FWUルクセンブルク、CAA、ルクセンブルク裁判所、あるいは持ち株会社であるFWU AGなどが関与して、再建の方策の検討があったようだが、12月に持ち株会社FWU AG自体が破産手続きに入ることが決まり、結局、2025年2月の段階では、FWUルクセンブルクも解散・清算となる方向である。こうした流れを、EIOPAの発表をもとに見ていくことにしたい。

2――2024年12月18日のEIOPA報告書発出時まで

2――2024年12月18日のEIOPA報告書発出時まで1~今後の動きに備えた保険契約者へのアドバイスも~
 
2024年7月19日、FWUルクセンブルクは、国内保険委員会(CAA)に対し、ソルベンシーII指令に基づく最低資本要件(MCR)、ソルベンシー資本要件(SCR)、および適格資産による保険負債のカバーに関して国内法で義務付けられている要件を遵守できていないことを通知した。

これを受けて7月23日、CAAは、銀行等に保有されているFWUルクセンブルクの代表的な資産を凍結し、全ての外部への支払いを停止することを決定した。また7月24日、FWUルクセンブルクも、ルクセンブルク地方裁判所に、外部への支払い停止を申請した。

8月2日、ルクセンブルク裁判所は、保険会社が申請した外部への支払い停止を受理し、保険会社の資産と負債の管理を監督する管理者を任命した。任命された管理者は、FWUルクセンブルクの全ての行為と決定について、書面による承認を与える必要がある。支払い停止期間は最長6カ月に制限されている。
 
10月22日、FWUルクセンブルクはCAAに対し、MCRの適用範囲要件への準拠を回復したことを正式に通知した。ただしこの比率の計算の基礎となる過程やSCRの計算に影響を与える過程については、この時、特に以下のような不確実性が残っていた。

・いくつかのEU加盟国における納税義務の存在
・再保険契約を解除する再保険者の契約上の権利
・不適切な販売を受けた保険契約者に対する補償計画の実施にかかる費用の評価

これらの不確実性については、MCRの正確なカバー率を評価するために、CAAにより分析された。

SCRおよび適格代表資産により保険負債がカバーされていること、といった要件は、遅くとも2025年1月19日(すなわち2024年7月19日から6か月以内)に満たされる必要があり、CAAによる評価を受けている。
 
12月1日、ミュンヘン地方裁判所(ドイツ)がFWU AGの破産手続きを命じ(筆者注:上記のルクセンブルクにおける評価との関係は、ここでは記載されていない)、破産管財人を任命した。

しかし、FWUグループの中のもう一つの子会社であるFWUオーストリアは、オーストリア金融市場監督局(FMA)の監督下にある。FMAは、グループ監督機関(CAA)とFWUオーストリアの経営陣と緊密に連絡を取り合っており、FWUオーストリアの継続的な業務を確実にし、その保険契約者を保護するために措置を講じている。この時点でFWUオーストリアは破産しておらず、通常の事業活動を続けている。
 
1 EIOPA provides updated information to policyholders affected by FWU AC’s insolvency  (2024.12.18 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/eiopa-provides-updated-information-policyholders-affected-fwu-ags-insolvency-2024-12-18_en
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
1|消費者にできること
さてこの時点(2024.12.18)でEIOPAは、保険契約者に対して、今後の行動をどうすべきかについて、以下のような一般的なアドバイスをしている。
 
保険監督当局は保険契約者の最善の利益のために行動する義務を負っており、資産凍結や新規事業の引き受け停止などの措置をすでに講じている。

そうした中で、保険契約者が十分な情報を得た上で財務上の決定を下すための最善の行動指針は、様々な要因により異なる(例えば、保険会社の財務状況、保険契約の諸条件、加盟国によって異なるかもしれない契約と破産法の具体的な規定、その他の関連する国内法)。従って、保険契約者は、自己の契約に関する決定を下す前に契約の諸条件をよく読み、専門家のアドバイスを求めることが望ましい。ここでいう「専門家」とは、例えば、保険会社、仲介業者、国内の専用の連絡窓口、消費者協会がその候補として考えられる。
 
また、現在、FWUルクセンブルクについては、子会社を一時的に管理するために、裁判所から、独立した特別管理人が任命されている。特別管理人は企業の財務状況を評価し、最善の解決策を6か月のうちに特定しなければならない。その方策には、会社を再構築することから、会社を清算することまでの間に、広い可能性がある。
 
とはいえ、詳細については、ルクセンブルクもしくは居住地の保険監督当局の発信する情報をウェブサイトなどで確認することを推奨する。
2|誰が監督するか
次に、EIOPAは現在の保険監督体制について、以下のように説明している。
 
現在のEU監督システムにおいては、日常的な監督は各国の監督当局が担当し、本国当局が健全性、ホスト国当局が主に流通面を監督する、といったように役割が分かれている。グループ監督機関の追加の責任には、支店の活動と「サービスの無償提供」の原則に基づいて行われる活動が含まれる。全ての監督当局は、必要に応じて、国境を超えた事業の監督に関して協力し、情報を交換する責任がある。既存の監督枠組みにおいては、EIOPAは介入権限が限定されており、調整者、監督者、仲介者の役割を果たしている。
 
国境をまたぐ事例においては、EIOPAは監督者カレッジやコラボレーションプラットフォームなどを通じて、関連する国内の監督当局と緊密に連携している。カレッジにおけるEIOPAの役割は、効果的かつ効率的な監督活動を促進し、グループがさらされている可能性があるリスクを評価し、国内の監督者が実施するタスクを監視し、グループ監督に関連する監督慣行の統一を促進することである。

EIOPAは情報交換を強化し、関連する監督当局間の協力を強化するために、コラボレーションプラットフォームを設置して調整している。EIOPAは、プラットフォームが適切に機能するために必要な情報を、タイムリーに提供するよう、保険監督当局に要求できる。ただし、監督と執行の決定は、今後とも本国保険監督当局の権限である。
 
特に今回のケースでは、EIOPAは関連する各国の管轄当局と連携し、監督者間の良好な協力と情報交換を促進し、影響を受けるすべての欧州の保険契約者が、居住地や保険の加入場所に関係なく、公平かつ公正に取り扱われることを保証しようとしている。

なお、いまのところ、ルクセンブルクとオーストリアの両保険会社の認可は取り消されておらず、依然としてEIOPAに登録されたままである。

3――それ以降2025年2月5日まで

3――それ以降2025年2月5日まで2
 
2024年7月に始まった一連の動きの中で、6か月の期限が過ぎ、FWUルクセンブルクの解散と清算が決定したようである。関係者の動きは以下の通りである。
 
2025年1月19日 期限到来
2025年1月22日 保険料徴収の停止
2025年1月31日 各国で情報サイトの遮断
2025年2月5日 清算人による清算プロセスの初期段階の公表
 
2 EIOPA informs policyholders about the liquidation of FWU Life Insurance Luxembourg  (2025.2.5 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/eiopa-informs-policyholders-about-liquidation-fwu-life-insurance-luxembourg-2025-02-05_en

4――今後の動きについて

4――今後の動きについて

清算手続きが開始された現時点では、保険契約者へのさらなるガイダンスは、清算人とCAAから適宜提供されることになっている。またもちろん、中間段階での案内と同じく、CAAの他、居住地の保険監督当局の情報も参考になるとしている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年02月21日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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