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- 金価格は史上最高値を更新、まだ上昇余地はあるか?
2025年02月07日
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1.トピック:金価格は史上最高値を更新、まだ上昇余地はあるか?
(NY金は過去最高値を更新)
金(Gold)価格が最高値を更新している。国際的な中心指標であるNY金先物価格(中心限月・終値ベース)は、昨年10月以降に一進一退の時間帯が続いていたものの、1月からは上昇基調となり、今月5日には1トロイオンス2893.0ドルと過去最高値を更新した(表紙図表参照)。
そして、最高値更新の最大の原動力となったのは先行き不透明感の高まりだ。昨年11月の米大統領選で大胆な政策を掲げるトランプ氏が勝利し、米国ならびに世界全体の政治・経済を巡って先行き不透明感が高まったことで、安全資産としての金需要が高まった。また、同氏が掲げる関税引き上げ、大規模な減税や規制緩和、不法移民の強制送還といった看板政策は、それぞれ輸入物価の押し上げ、需要喚起、人手不足というインフレ促進的な要素を内包するため、米国におけるインフレ再燃懸念を通じて、インフレヘッジ資産である金の買いが促された面もあるだろう。
金(Gold)価格が最高値を更新している。国際的な中心指標であるNY金先物価格(中心限月・終値ベース)は、昨年10月以降に一進一退の時間帯が続いていたものの、1月からは上昇基調となり、今月5日には1トロイオンス2893.0ドルと過去最高値を更新した(表紙図表参照)。
そして、最高値更新の最大の原動力となったのは先行き不透明感の高まりだ。昨年11月の米大統領選で大胆な政策を掲げるトランプ氏が勝利し、米国ならびに世界全体の政治・経済を巡って先行き不透明感が高まったことで、安全資産としての金需要が高まった。また、同氏が掲げる関税引き上げ、大規模な減税や規制緩和、不法移民の強制送還といった看板政策は、それぞれ輸入物価の押し上げ、需要喚起、人手不足というインフレ促進的な要素を内包するため、米国におけるインフレ再燃懸念を通じて、インフレヘッジ資産である金の買いが促された面もあるだろう。
一方で、インフレ再燃懸念は、同時にFRBの利下げ観測の後退を通じて米金利の上昇をもたらし、「保有しても金利の付かない金」の投資対象としての相対的な魅力を低下させた。また、金利上昇によって投資妙味を増したドルが多くの通貨に対して上昇し、(ドルを自国通貨としない投資家から見た)NY金価格の割高感が高まったこともNY金価格の重石となった。昨年秋から今年年初までは「先行き不透明感の高まり」、「インフレ懸念の高まり」という上昇圧力と、「米金利上昇」、「ドル高」という下落圧力が交錯したことでNY金は方向感を欠く展開となっていた。しかし、1月に入ってからは、トランプ政権の発足が迫り、発足直後にはバイデン前政権の方針を覆す各種大統領に署名、さらに今月1日にはメキシコ・カナダ・中国に対する関税引き上げの大統領令に署名1するなど、トランプ政権の大胆な政策が実現に動き出した。これを受けて先行きの不透明感が一段と増し、安全資産としての金需要がさらに高まったことがNY金の強い追い風となり、過去最高値を更新することになったと考えられる。
1 このうち、メキシコ・カナダに対する関税引き上げは2月4日に1か月先送りされた。
なお、より長い期間で見た場合には、国内金先物の上昇はより鮮明になる。起点をどこに置くかにもよるが、2024年年初を100とした場合、直近6日時点の国内金先物は149.8と49.8%も上昇している。この間、内外の株価も上昇しているが、国内金先物の上昇率は、同じ期間の日経平均株価の上昇率(16.7%)や米ダウ平均株価の上昇率(円換算後・27.5%)を大きく上回っている。つまり、昨年2024年も消費者物価上昇率(総合)が前年比2.7%上昇するなどインフレ状態が続くなかで、国内金先物はそのインフレヘッジ機能を存分に発揮してきたと言える。
2 NY金先物も国内金先物も同一の資産である金を対象とするため、両者の価格に乖離が発生した場合には、裁定取引によって乖離が是正される。
(2025年の金相場見通し)
次に、今後の内外金価格について見通しを考えると、まず、NY金先物は上昇基調を辿ると見ている。トランプ政権は発足して3週間足らずだが、既に関税引き上げを実行しており、今後も引き上げを実施する可能性が高い。とりわけ最大のライバルと見做す中国との間では貿易摩擦が激化する可能性が高いだろう。また、トランプ大統領は、米国によるグリーンランドの購入やガザの所有、パナマ運河の奪還など従来にも増して唐突な発言が目立っており、先行きの不透明感が強い状況が続くことで、「安全資産としての金需要」も続きそうだ。関税引き上げや移民の送還を受けて、米国のインフレ懸念が燻ることで、インフレヘッジの金需要も見込まれる。さらに、米政権が各国に対して強硬な姿勢を取ることで、各国中央銀行では外貨準備内のドルが制裁によって凍結されるリスクも意識されそうだ。このため、2022年の欧米によるロシア外貨準備の凍結を受けて加速した「中央銀行による外貨準備におけるドルから金へのシフト」の流れも継続するだろう。
一方で、関税引き上げや不法移民の送還に伴って米国でインフレ圧力が高まることは、FRBの利下げ停止を通じてNY金先物の重石になる。FRBは年央にも利下げを一旦停止せざるを得なくなるだろう。また、直近では金価格上昇を見越した投機筋による金買い越しが過去の上限(30万枚前後)レベルに積み上がっているため、今後は利益確定売りが相場の重荷になると考えられる。
従って、米利下げ停止や投機筋の利益確定売りに押される場面も想定され、一本調子とはいかないものの、先行き不透明感やインフレ懸念、中銀の買いが追い風になり、NY金先物はトレンドとして上昇すると見ている。1トロイオンス3000ドルの節目突破も時間の問題と見られ、年末には3000ドル強で着地すると予想している。
次に、今後の内外金価格について見通しを考えると、まず、NY金先物は上昇基調を辿ると見ている。トランプ政権は発足して3週間足らずだが、既に関税引き上げを実行しており、今後も引き上げを実施する可能性が高い。とりわけ最大のライバルと見做す中国との間では貿易摩擦が激化する可能性が高いだろう。また、トランプ大統領は、米国によるグリーンランドの購入やガザの所有、パナマ運河の奪還など従来にも増して唐突な発言が目立っており、先行きの不透明感が強い状況が続くことで、「安全資産としての金需要」も続きそうだ。関税引き上げや移民の送還を受けて、米国のインフレ懸念が燻ることで、インフレヘッジの金需要も見込まれる。さらに、米政権が各国に対して強硬な姿勢を取ることで、各国中央銀行では外貨準備内のドルが制裁によって凍結されるリスクも意識されそうだ。このため、2022年の欧米によるロシア外貨準備の凍結を受けて加速した「中央銀行による外貨準備におけるドルから金へのシフト」の流れも継続するだろう。
一方で、関税引き上げや不法移民の送還に伴って米国でインフレ圧力が高まることは、FRBの利下げ停止を通じてNY金先物の重石になる。FRBは年央にも利下げを一旦停止せざるを得なくなるだろう。また、直近では金価格上昇を見越した投機筋による金買い越しが過去の上限(30万枚前後)レベルに積み上がっているため、今後は利益確定売りが相場の重荷になると考えられる。
従って、米利下げ停止や投機筋の利益確定売りに押される場面も想定され、一本調子とはいかないものの、先行き不透明感やインフレ懸念、中銀の買いが追い風になり、NY金先物はトレンドとして上昇すると見ている。1トロイオンス3000ドルの節目突破も時間の問題と見られ、年末には3000ドル強で着地すると予想している。
次に国内金先物の先行きを考えると、上記のようにNY金先物が上昇すれば、国内金にとっても上昇要因となる。一方で、日銀が今後も利上げを志向すると見込まれることは、円高ドル安を通じて国内金の圧迫材料となると考えられる。そこで問題となるのは円高の進行度合いだ。既述の通り、日銀の利上げ姿勢によって方向感としては円高になるものの、FRBの利下げが年央に停止されると見込まれることや構造的な円売り材料(日本の貿易赤字・デジタル赤字・企業と家計による積極的な対外投資)を踏まえると円高ドル安の進行は小幅に留まる可能性が高い。
従って、現時点では、NY金の上昇を打ち消すほど円高ドル安は進まないと見ており、今年年末時点の国内金価格は現状よりやや高い1グラム14000円台後半と予想している。
ちなみに、前回、第1次トランプ政権下でも金価格は上昇していた。トランプ氏が2016年大統領選で勝利する直前にあたる同年11月7日から、コロナ過に入る前にあたる2019年末にかけての期間で見ると、NY金先物が19.0%の上昇、国内金先物が23.2%の上昇となっている。もともと、トランプ大統領の言動は予測困難であり、世界経済の下振れリスクになりかねない関税引き上げを政策の主軸に置く特徴があることから、内外経済を巡る先行き不透明感が高まりやすく、金価格にとっては押し上げ要因になりやすいことが背景にあると考えられる。
従って、現時点では、NY金の上昇を打ち消すほど円高ドル安は進まないと見ており、今年年末時点の国内金価格は現状よりやや高い1グラム14000円台後半と予想している。
ちなみに、前回、第1次トランプ政権下でも金価格は上昇していた。トランプ氏が2016年大統領選で勝利する直前にあたる同年11月7日から、コロナ過に入る前にあたる2019年末にかけての期間で見ると、NY金先物が19.0%の上昇、国内金先物が23.2%の上昇となっている。もともと、トランプ大統領の言動は予測困難であり、世界経済の下振れリスクになりかねない関税引き上げを政策の主軸に置く特徴があることから、内外経済を巡る先行き不透明感が高まりやすく、金価格にとっては押し上げ要因になりやすいことが背景にあると考えられる。
(2025年02月07日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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