- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 環境経営・CSR >
- PRI in Person 2024 トロント大会の概要―― Progressing Global Action on Responsible Investment ――
PRI in Person 2024 トロント大会の概要―― Progressing Global Action on Responsible Investment ――

日本生命保険相互会社 財務企画部 責任投融資推進室 木村武 (編集責任者、日本生命保険執行役員、PRI理事)

日本生命保険相互会社 財務企画部 責任投融資推進室 岩田淳、河合浩、田中祐太朗、林宏樹、宮下雄一
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――はじめに
昨年の東京大会では、岸田文雄首相(当時)が登壇し、サステナビリティ・アウトカムへの支持を表明したことに加え、日本の7つの公的年金基金が新たにPRIの加盟に向けた作業をすることを表明した1。開催国政府のリーダーが登壇し責任投資へのコミットメントを力強く発信したことは、投資家にとって力強いサポートとなり、PiPの大きな成功として新たなスタンダードになった。この成功体験は今年のトロント大会にも引き継がれた。本大会ではカナダの副首相兼財務相であるクリスティア・フリーランド氏(Chrystia Freeland)が登壇し、「カナダ版タクソノミー(Canadian Taxonomy)」と「気候関連財務開示の義務化(Mandatory Climate-related Financial Disclosures)」を発表し、2050年までのネットゼロに向けたカナダのコミットメントを示した。東京大会で確立したベンチマークがトロント大会に引き継がれたことで、PiPの開催がポリシーエンゲージメントのグローバルなモメンタムを維持する重要な機会として投資家にみなされるようになった。来年のブラジル・サンパウロ大会においても、このモメンタムが維持されることが期待される。
1 昨年の東京大会の概要については、下記レポートを参照。
ニッセイ基礎研、「責任投資:約束から行動へ―― PRI in Person 2023東京大会の模様―― 」、2023年11月20日
2――大会テーマ:Progressing Global Action on Responsible Investment
この関連で参加者の注目を集めたテーマが、PRIが新たに提唱するレポーティング・フレームワーク「Progression Pathways」である。同フレームワークは、責任投資への取組みを体系化し、進展の道筋をつけ進捗を評価するための包括的なツールとして、PRIと署名機関が共同設計しているものである。従来の一律的なアプローチとは異なり、カスタマイズされたリソースやガイダンスの提供により、各々の署名機関が投資目的に応じた方法で、責任投資の取組みを評価することが期待されている。本大会では、このフレームワークが投資家にとって価値のあるツールとなることや、グローバルなベストプラクティスと各地域の投資慣行とのギャップを埋める上で重要な役割を担い得る点が紹介された。以下、主な発言や議論内容を紹介する。
- まず、ネイサン・ファビアン氏(Nathan Fabian, Chief Responsible Investment Officer, PRI)は、「署名機関自身の目標と洗練度について説明責任を果たすのはPRIの役割ではなく、Progression PathwaysはPRIに説明責任を負わせるためのものではない」とし、これらはあくまで署名機関の責任である点を強調した。
- Progression Pathwaysの概要説明に続くパネルセッションでは、フィールド・ビルディング(field building)という概念が提示された。これは、投資家が業界全体の慣行や規範を変革し、持続可能な企業行動を促進するためにステークホルダーとのネットワークを活用する手法である。多くの署名機関は「同業者との比較」(peer comparison)を重要視しているため、Progression Pathwaysがフィールド・ビルディングのプラットフォームとして機能すれば、投資家の取組み進展が互いに促進され、業界全体にポジティブな効果をもたらす可能性があることが紹介された。この背景には、投資戦略の違いや地域ごとの規制の違いが、責任投資の慣行における収斂を難しくしている点がある。例えば、英国のスチュワードシップ・コードは投資家に対しシステムレベル・リスクに取り組むことを推奨している一方、日本のスチュワードシップ・コードには対応する原則がなく、具体的な投資活動に関する詳細な情報開示も求めていない。Progression Pathwaysが、フィールド・ビルディングの場として機能することにより、異なる開示・規制環境におけるベストプラクティスを互いに学びながら規制の断片化を防ぎ、責任投資慣行の収斂を促進することが期待されている。
3――本大会の中心的な概念:サステナビリティ課題間の相互連関性とシステム思考
4――主要トピックス
先住民族コミュニティの問題は、開催国カナダにおいて、責任投資の文脈でシステムレベル・リスクと深くかかわる重要なテーマである。トロント大会の開会式において、ファースト・ネーションズ総会のナショナル・チーフであるシンディ・ウッドハウス・ネピナク氏(Cindy Woodhouse-Nepinak, National Chief, Assembly of First Nations)や、ミシサガ族の代表であるオギマクウェ・クレア・ソー氏(Ogimaa-kwe Claire Sault, Chief, Mississaugas of the Credit First Nation)が登壇したことに象徴されるように、カナダにおいて先住民族は、国家の歴史や社会、文化において重要な位置を占めている。主な発言や議論内容は以下の通り。
- 先住民族の権利と企業・投資家の責任をテーマに議論が行われたセッションでは、石油産業と先住民コミュニティの事例が紹介された。一般的に、石油産業は温室効果ガスの排出や環境保護の視点から議論されることが多いが、先住民コミュニティが石油産業プロジェクトやパイプラインの所有権を有することで経済的自立の手段として活用できる可能性がある。責任投資の重要な課題の一つとして、企業や投資家が社会的インパクトを重視しながら長期的な利益を追求する「Just Transition(公正な移行)」という概念がある。これは、気候変動対策が経済社会的な格差・不平等を生じさせないようにする考え方であり、公正さを欠く移行は社会的不平等を悪化させ、システムレベル・リスクを増大させる可能性がある。先住民コミュニティがガスパイプラインの所有権を持ち、意思決定プロセスや資金調達に影響を及ぼすことで、利益を教育や生活インフラの充実に回し、生活の質を向上させることが期待できることは、公正な移行のグッドプラクティスと捉えることができる。一方で、多くの企業が先住民族の権利を軽視し法的な問題に発展していることが、カナダやオーストラリアで発生した事例とともに紹介され、課題も認識された。
(2024年12月09日「基礎研レポート」)
日本生命保険相互会社 財務企画部 責任投融資推進室 木村武 (編集責任者、日本生命保険執行役員、PRI理事)
日本生命保険相互会社 財務企画部 責任投融資推進室 岩田淳、河合浩、田中祐太朗、林宏樹、宮下雄一
新着記事
-
2025年07月07日
トランプ関税前後の貿易状況 -
2025年07月07日
2025年上期のJリート市場は7.6%上昇。需給やファンダメンタルズの改善が上昇を後押し~売却益計上による還元強化の取組みが継続 -
2025年07月07日
「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(1)-SDGs未来都市計画から読み解く「地方創生2.0」への打ち手 -
2025年07月07日
グローバル株式市場動向(2025年6月)-半導体関連銘柄を中心に上昇 -
2025年07月04日
金融安定性に関するレポート(欧州)-EIOPAの定期報告書の公表
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【PRI in Person 2024 トロント大会の概要―― Progressing Global Action on Responsible Investment ――】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
PRI in Person 2024 トロント大会の概要―― Progressing Global Action on Responsible Investment ――のレポート Topへ