2024年10月11日

米国における法定責任準備金評価利率を巡る動向-金利の上昇を受けて、10年ぶりに2025年から0.5%引き上げられる-

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1―はじめに

米国の監督会計においては、2017 年 1 月から、原則主義アプローチの責任準備金評価である PBR (Principle Based reserving)制度が導入されている。ただし、PBR導入前の既契約については、これまでの細則主義アプローチの責任準備金評価が引き続き適用され、PBR導入後の新契約についても、これまでの細則主義アプローチの責任準備金との大小チェックが行われていくことになる。

細則主義アプローチでは、最低限会社が積み立てなければならない金額としての「標準責任準備金」が規定され、その標準責任準備金の積立方式や評価のために使用される予定死亡率や予定利率等の前提については、「標準生命表」や「法定責任準備金評価利率」として、法令等に規定されている。

このうちの、例えば終身保険等の20年超の保証期間を有する生命保険に対する「法定責任準備金評価利率」の水準については、過去の1986年をピークにして、40年近くにわたって低下してきていたが、ここ数年の金利の上昇を受けて、2025年から0.50%引き上げられることになった。

今回のレポートでは、この米国における「法定責任準備金評価利率」を巡る動向について、その設定ルールとともに、今回の引き上げの概要について報告する。

2―法定責任準備金評価利率の設定方法-

2―法定責任準備金評価利率の設定方法-生命保険・年金保険-

米国の法定責任準備金の評価方法については、NAIC(全米保険監督官協会)が定めるモデル標準責任準備金法に基づいて各州の州法において規定されている。その責任準備金評価方式については、生命保険及び養老保険給付の場合には「CRVM(監督官式責任準備金評価方式:Commissioners’ Reserve Valuation Method」、年金及び生存保険給付の場合には「CARVM(監督官式年金責任準備金評価方式:Commissioners’ Annuity Reserve Valuation Method」と呼ばれるが、さらにその責任準備金評価に使用される予定死亡率や予定利率等の前提についても、法令等に規定され、加えてこれらの細部については各種のガイドラインや実務基準等が作成されている。

このうちの予定利率に相当する法定責任準備金評価利率1については、以下のプロセスを経て決定される。なお、2018年1月1日以降に発行される所得年金(一時払即時年金及びその他の類似の契約又は補足契約)については、NAICが策定するVM(責任準備金評価マニュアル)のVM-22(所得年金の法定最高責任準備金評価利率)2に規定されているので、これについては「4-法定最高責任準備金評価利率の設定-所得年金-」で説明する。
 
1 標準責任準備金評価法等の法令の用語「statutory valuation interest rate」の日本語訳に従って「法定責任準備金評価利率」としている。実質的には、標準責任準備金の最低水準を決定するための予定利率という意味においては、「最高」あるいは「上限」に相当するものである。
2 ここでは、VM-22の用語「statutory maximum valuation interest rate」に従って[法定最高責任準備金評価利率]としている。
1|参照利率の決定
法定責任準備金評価利率は、「参照利率(reference interest rate」に基づいて決定される。

この参照利率は、「参照金利」である「Moody’s公表の月次平均社債利回り(the monthly average of the composite yield on seasoned corporate bonds, as published by Moody’s Investors Service, Inc.」に基づいて、「(A)Moody’sの月次平均社債利回りの12ヶ月平均と36ヶ月平均のうちの小さいほう」ないしは「(B)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均」として算出される。
2|参照金利(Moody’s社公表の月次平均社債利回り)の詳細
(1) Moody’s の月次平均社債利回りの算出対象は、残存期間が少なくとも20年以上の約90の投資適格債券(Moody’s の格付でBaa以上)で構成される。それぞれの債券の残存残高は1億ドル以上、できる限り30年に近い満期を有するものが対象となる。

もし、残存期間が20年未満になったり、格付が変更されたりした場合には、リストから落とされる。高割引債やプレミアム債券は一般的に除外される。

全ての利回りは、半年複利ベースで満期までの利回りで算出される。

なお、年次データは1919年から、月次データは1919年1月から、日次データは1997年8月1日から入手可能となっている。

日々の値は、毎営業日のEST(東部標準時刻)の11時に更新される。
3|「責任準備金評価利率」基礎数値の算出
(1) 概要
こうして決定される「参照金利」に基づいて算出される「参照利率」を下記に述べる算式に当てはめて、「暦年責任準備金評価利率」を算出する。算出結果については、端数処理を行い、最も近い0.25%単位の利率にする。なお、0.125%の倍数となった場合には切り捨てないで切り上げる。

下記に述べるように、生命保険か年金保険か、さらにはそれぞれの保証期間に基づいて、生命保険の場合3つ、年金保険の場合は4つのパターンが存在し、年金保険の場合にはさらに契約タイプによっても異なってくるため、結局、(形式上は)生命保険で3、年金保険で53 の合計56もの「責任準備金評価利率」が存在(結果的な利率水準が同一な場合や該当するケースが無い場合もあるが)することになる 。

(2) 暦年責任準備金評価利率(I)の算出
まずは、暦年責任準備金評価利率(I)が保険契約の種類ごとに以下の算式で算出される。

(2-1) 生命保険の場合
生命保険の場合の算式は以下の通りとなる。
生命保険の場合の算式
ここに、

W : 加重係数
R :  参照利率
R1=min( R、9%)
R2=max( R、9%)

生命保険の場合、Rとしては「(A)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均と36ヶ月平均のうちの小さいほう」が用いられる。

「加重係数(W)」は保証期間によって決定される。ここで、「保証期間」は「生命保険が原契約の保障している保険料率や不没収価格を変更して契約を転換する選択権のもとで保証された、有効でありうる最長の年数」として定義される。結果として、以下の水準となっている。
「責任準備金評価利率」基礎数値の算出の水準
(2-2) 年金保険の場合3
以下の要件を満たす年金(以下、このレポートでは、これらの年金を「年金保険」と称する)

・一時払即時年金(SPIA)

・SPIA以外の保険金額一括受取選択権付年金及び保険金額一括受取選択権付GICによる生存要件付年金給付

・SPIA以外の保険金額一括受取選択権付年金及び保険金額一括受取選択権付GICで、契約年度ベースで評価される場合で保証期間10年以下のケース

・SPIA以外の保険金額一括受取選択権を持たない年金と保険金額一括受取選択権を持たないGIC

・SPIA以外の保険金額一括受取選択権付年金及び保険金額一括受取選択権付GICで、基金変更方式で評価される場合

については、以下の算式で算出する(なお、「SPIA以外の保険金額一括受取選択権付年金及び保険金額一括受取選択権付GICで、生存要件付年金給付を含まず、契約年度ベースで評価される場合で保証期間10年超のケース」では、生命保険と同じルールが適用される)。
年金保険の場合の算式
ただし、ここでの参照利率Rについては、10年超の保証期間を有する場合には「(A)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均と36ヶ月平均のうちの小さいほう」、一時払や10年以下の保証期間しか有しない場合や基金増額方式の場合には「(B)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均」が使用されることになる。

従って、これらの年金保険の法定責任準備金評価利率については4、(2-1)の生命保険の場合に比べて、より頻繁に変更されることになる。

さらに、これらの年金保険の場合の加重係数Wは、「保証期間」だけでなく、「年金種類」によっても変わる。なお、1980年改正法により、従前の個人年金と団体年金の区別が撤廃されて、同一の率を用いることになっている。加えて、年金保険については、以下の「契約タイプ」ごとに法定責任準備金評価利率が異なってくる。
 
3 先に述べたように、2018年1月1日以降に発行される所得年金(一時払即時年金及びその他の類似の契約又は補足契約)については、後述の「4―法定最高責任準備金評価利率の設定-所得年金-」で述べるVM-22に従って、算出される。
4 「fund」の日本語訳として、「基金」としているが、「ファンド」や「積立金」との意味合いである。
年金契約のタイプ
年金契約については、以下の3つのタイプ(A、B、C)に分けられる。

A 保険契約者が年金を引き出すことができるのが
(1) 保険会社から基金を受け取った後に、利率又は資産価値の変更を反映するための調整を行うとき
(2) そのような調整はないが、5年以上の分割払によるとき
(3) 即時開始生命年金として受け取るとき
(4) (1)から(3)以外では引き出しが許されていない。

B 保険契約者が利率の保証の終了する前に基金を引き出すことができるのが
(1) 保険会社から基金を受け取った後に、利率又は資産価値の変更を反映するための調整を行うとき
(2) そのような調整はないが、5年以上の分割払によるとき
(3) (1)(2)以外では引き出しは許されていない。
利率の保証が終了するとき、上の調整なしで一時金又は5年以下の分割払で基金を引き出すことができる。

C 利率の保証期間終了前に保険契約者が一時金又は5年以下の分割払で基金を引き出す場合には
(1) 保険会社から基金を受け取った後に、利率又は資産価値の変更を反映するための調整を行わない。
(2) 契約に基金の何%と明示されている、固定した解約控除のみを控除した金額を受ける。
契約年度方式又は基金変更方式
年金保険については、(i)契約年度ベースで評価する場合と(ii)年金基金の増額ベースで評価する場合がある。前者の場合は、契約の全期間中に対する責任準備金評価の最低基準を決定するのに用いられる利率は、その契約の契約年度に対する法定責任準備金評価利率となる。一方で、後者の場合には、各年金基金の増額時に対して適用される責任準備金評価の最低基準を決定するのに用いられる利率は、基金増額の暦年に対する法定責任準備金評価利率となる。

以上の定義を踏まえた上で、年金保険の加重係数等の具体的な水準については、以下の通りとなる。
年金保険の加重係数
以上、SPIA以外の年金保険の法定責任準備金評価利率の分類は、以下の通りとなる。

① 保険金額一括受取選択権(有か無か)
② 評価(契約年度又は基金増額年度)
③ 1年以上経過後の年金保険料の利率保証(有か無か) 
SPIA以外の年金保険の法定責任準備金評価利率の分類

(2024年10月11日「基礎研レポート」)

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