2024年08月14日

いわゆる身元保証サービスとは何か(2)~高齢者等終身サポート事業者ガイドラインについて~

社会研究部 取締役 部長 鈴木 寧

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1――はじめに

前稿「いわゆる身元保証サービスとは何か(1)~高齢者等終身サポート事業者ガイドライン制定の背景~」では、独居の高齢者が増加するなかで、従来の家族の役割を代替する機能として、いわゆる身元保証サービス会社が増加しているが、数々の消費者トラブルが発生し、政府では関係する省庁がそれぞれ対応してきた経緯を説明した。そのような状況を受けて、今年6月に身元保証サービス事業者を対象とする「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン1」(以下、ガイドライン)が策定され、公表された。共管する府省庁は、内閣官房(身元保証等高齢者サポート調整チーム)、内閣府 孤独・孤立対策推進室、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省であり、この事業がいかに広範囲に私たちの生活に関わっているかがわかる。

本稿では、当ガイドラインの概要について紹介する。
 
1 消費者庁ホームページ「高齢者等終身サポート事業者ガイドラインについて」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_037/assets/consumer_policy_cms102_240618_01.pdf

2――高齢者等終身サポート事業者ガイドラインの概要

2――高齢者等終身サポート事業者ガイドラインの概要

1|ガイドライン全般的な事項について
ガイドラインでは、過去の消費者問題も踏まえ、高齢者等終身サポート事業者(以下、事業者)の適正な事業運営を確保し、同事業の健全な発展を推進し、利用者が安心して当該事業を利用できることに資することを目的として策定された。

高齢者等終身サポート事業は、主に「身元保証サービス2」、「死後事務サービス3」、「日常生活支援サービス4」に分類されるが、今回ガイドラインの対象となるのは、「身元保証等サービス」及び「死後事務サービス」を提供する事業者としている5。尚、「日常生活支援サービス」を提供する事業者については、既に家事代行業などで、必ずしも高齢者等を主な利用者としない業者もあることから、ガイドラインの対象外としている。また、弁護士、司法書士、行政書士等も業法に基づく規制が既に存在することから、ガイドラインの対象外としている。

加えてガイドラインでは、サービス提供にあたっての基本的な考え方として、利用者の尊厳を守り、自己決定を尊重し、利用者本人の価値観や選好に基づく意思決定を行えるよう、利用者の判断能力が低下しているおそれがある場合は、必要に応じて成年後見制度等の手続きについても検討することが重要としている。
 
2 主に、医療・介護施設への入院の際の連帯保証、手続き代行、死亡又は退去時の身柄の引き取り等を行う業務。
3 主に、死亡の確認、関係者への連絡、死亡診断書・埋葬許可証等の請求受領、葬儀手続き、残置物処理等を行う業務。
4 主に、通院の付添い、買い物代行、介護保険等のサービス受給手続きの代行、日常生活費の管理、金融商品等の取引に関する手続代行等を行う業務。
5 身元保証、死後事務のいずれかのサービスを提供する事業者についても、ガイドラインを参照することが望ましい、としている。
2|契約締結にあたって留意すべき事項
ガイドラインでは、利用者が高齢者であるという特徴を踏まえて、契約締結時、契約履行時、事業者の体制の観点から、留意すべき事項を整理するとともに、チェックリスト6を提供している(図表1)。
(図表1) チェックリスト(抜粋)
契約の締結にあたっては、サービス内容が多岐にわたり、高齢者にとっては理解しづらいことから、事業者は民法や消費者契約法に定められたルールを遵守しつつ、利用者の判断能力等を踏まえながら丁寧に説明を行うとともに重要事項説明書を作成・交付することが重要としている。また、重要事項説明書では、過去にも消費者問題にもなったサービス内容と費用、預託金の管理方法、死因贈与等に関する取扱方針も網羅することが重要としている。

事業者との死因贈与契約(例えば、預託金の残金を事業者に贈与する)や寄附・遺贈については、それが真に利用者の意思に基づくものであれば不適切であるとはいえないものの、当該事業の他サービスとパッケージにした契約プランを設定することは、事業者がサービス提供に費用をかけなければ死因贈与による財産の額が大きくなるという利益相反が発生するため避けるべきとしている。加えて、利用者から遺贈を受ける場合は、公正証書遺言にすることが望ましいとする等、利用者の判断能力の低下に配慮した取扱いを求めている。
 
6 消費者庁ホームページ「高齢者等終身サポート事業者ガイドラインについて」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_037/assets/consumer_policy_cms102_240618_02.pdf
3|契約の履行にあたって留意すべき事項
契約の履行にあたっては、契約に基づき適正にサービスを提供するとともに、提供したサービスの時期や内容、費用等について記録を作成・保存し、その内容を定期的に利用者(成年後見人がいる場合は、後見人)に報告することが重要としている。また、死後事務については、利用者自身がサービス履行の確認をできないことから、第三者による点検などが定期的に行われる仕組み等を構築することが有効としている。

更に、かつて消費者トラブルのあった費用の前払い金(預託金)を事業者が預かる場合は、運営資金等とは明確に区分して管理し、利用者に定期的に管理状況を報告することが望ましい、としている。

また、判断能力が低下した場合は、成年後見制度を活用することが必要としている。一方で、事業者と任意後見契約を締結する場合の留意点として、事業者が利用者が入所している施設を経営しているような場合は、事業者は介護サービス等の費用を請求する立場にもあり、利用者と利益相反することから、任意後見契約では契約締結の代理権を設定しないようにするなど配慮する必要がある、としている。
4|事業者の体制に関する留意事項
事業者は、利用者が安心して利用できるように、ホームページ等を通じて、事業者の基本情報(組織、人員体制、財務諸表、サービス内容と費用、預託金の管理方法、寄附・遺贈に関する取扱方針等)の開示や、個人情報の適正な取扱い、事業継続のための対策、相談窓口の設置に取り組むことが重要、としている。つまり、事業者の情報開示を充実させることにより、利用者が正しい選択をできることをサポートし、事業者側の適正な体制を促している。

3――ガイドラインにおける考察

3――ガイドラインにおける考察

今回、ガイドラインの制定を通じて、いままでの消費者トラブルを踏まえて事業者が留意すべき事項が整理されたことは意義がある。何より、当ガイドラインの策定にあたって、政府の9つの府省庁が共管して取り組んだことについては、政府としての独居高齢者への生活支援に関する課題意識の高さと解決に向けた意気込みを感じる。また、チェックリストについては、事業者にとどまらず、利用者が事業者を選択するにあたって活用することも期待できる。

一方で、未だ解決されていない残課題について、次の通り利用者視点で指摘しておきたい。

(1) 当事業を展開する事業者は、零細事業者も多く、ガイドラインで指摘しているような留意点が本当に担保することができるのか、疑問も残る。とりわけ、当事業を監督する監督官庁がないことから、事業者の運営を外部から確認・監督することができない。外部の第三者が監督する仕組みは欠かせないだろう。

(2) 事業継続リスクについては、当事業の多くを占める零細事業者は倒産リスクが高く、また大企業でも事業撤退リスクは存在する。仮に、契約先の事業者がなくなってしまった場合でも、最低限の契約内容(例えば、死後事務、埋葬等)については同業他社(あるいは行政)に引き継がれるような仕組みを構築する必要があるのではないか。

(3) 単独高齢者にとって、最も不安な要素のひとつは身体の衰えだけでなく、判断能力の低下への対処だろう。そこで、事業者が地域における人権擁護支援の地域連携ネットワークの一員として、地域の中核機関、地域包括支援センター、社会福祉協議会等と連携した仕組みづくりが期待される。その際には、当然ながら成年後見制度への円滑な移行と、各機関との役割分担の整理も必要だろう。

(4) 最後に、利用者にとって最も関心があるのは、事業者が提供するサービスが、本当に利用者が望む支援を実現できるサービス内容となっているのか、という点だ。身体、判断能力がともに衰えていくことが想定されるなかで、遠い将来の自身の死期を想定して、どのようなサービスが必要になるかをイメージするのは極めて困難だ。想定外の健康状態の悪化や、突発的な経済的な困難が発生した場合など、契約後もサービス内容を適宜見直す必要は生じるはずだ。その際、最も必要なサービスを提供できる事業者を中立的な立場で探し、制度設計を行ってくれる人(これが以前は、家族だった)の存在はやはり不可欠だ。これが、当ガイドラインの対象である高齢者等終身サポート事業者であるかは、今後の当事業業界全体の健全な成長に委ねられている。

4――さいごに

4――さいごに

本稿では、本年6月に公表された「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」の概要について紹介した。高齢化と未婚、離婚等による核家族化がいっそう進行するなかで、2050年には全世帯の5分の1となる1,084万世帯が65歳以上の独居の高齢者世帯となることが予測されており、この状況を止めることはできない。

また、これら高齢者を支える介護人材が不足している現状も、簡単に変えることはできない。この現実を踏まえて、高齢者等終身サポート事業が、今後、健全に発展し、地域における権利擁護支援の一員として高齢者の生活を支援する産業へと成長することを期待したい。

(2024年08月14日「基礎研レター」)

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社会研究部   取締役 部長

鈴木 寧 (すずき やすし)

研究・専門分野
社会研究部統括

経歴
  • 【職歴】
    1988年 日本生命保険に入社
    日本生命にて国際保険部、米国日本生命(ニューヨーク支店、ロサンゼルス支店)、官公庁、外資系企業等の法人営業部門等を経て、2020年ニッセイ基礎研究所入社。
    2024年4月より現職

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