2024年08月13日

近年の好調だった積立金運用は、公的年金の見通しにどう影響したか?~年金改革ウォッチ 2024年8月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月の動き

働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会は、報告書案について議論し、最終的な報告書を公表した。年金部会は、財政検証結果やオプション試算などの説明を受け、障害年金制度と遺族年金制度を皮切りに、次期年金制度改正に向けた本格的な議論に入った。資金運用部会は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の令和5年度業務実績評価を議論した。企業年金・個人年金部会は、中小企業向け制度の整備などについて議論した。
 
○年金局 働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会
7月1日(第8回) 議論のとりまとめ(案)
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240131_00014.html (資料)
7月3日(公表のみ) 議論のとりまとめ
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41109.html 
 
○社会保障審議会 年金部会
7月3日(第16回)  令和6年財政検証の結果(報告)
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_2024070.html (資料)
7月30日(第17回)  次期年金制度改正の方向性、障害年金制度、遺族年金制度等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240730.html (資料)
 
○社会保障審議会 資金運用部会
7月26日(第21回)  GPIFの令和5年度業務実績評価、第4期中期目標期間業務実績見込評価、他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_shikinshiryo21.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
7月31日(第36回)  DC制度の環境整備、「経済財政運営と改革の基本方針2024」、他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41816.html (資料)  

2 ―― ポイント解説:将来見通しへの運用の影響

2 ―― ポイント解説:将来見通しへの運用の影響

7月3日に公表された公的年金の新しい将来見通し(財政検証結果)は、前回(5年前)と比べて良好な結果になった。本稿では、良好となった要因のうち、見通しの出発点となった積立金の影響を考察する。
図表1 積立金の推移 (実績と前回の見通し) 1|前回の見通しより積立金残高が70兆円上振れ
公的年金の将来見通しは約100年後まで推計されるが、その出発点は推計初年度の前年度末積立金である。今回の出発点となる2023年度末の積立金は291兆円で、前回の見通し(経済前提ケースIII)を約70兆円上回った(図表1)。上回った要因は、2021年からの好調な株式市場や円安による運用収入の上振れや、厚生年金加入者の増加などとなっている。

なお、運用収入については、過去5年の平均との差を5年間に分割して計上する平滑化が、今回から導入された。そのため、今回の見通しでは、前回と比べて一時的な上振れの影響が抑えられている。
図表2 将来の法定所得代替率(厚労省の公表値) 2|上振れを除くと将来の所得代替率が3~6pt低下
年金財政の状態を示す将来の法定所得代替率について今回と前回の見通しを比べると、今回の成長型経済ケースは前回のケースIIIより約7ポイント、過去30年投影ケースは前回のケースVより約6ポイント、上昇している(図表2)。足下*1と比べて基礎年金部分のみが低下する点には注意が必要だが、前述した要因が奏功して前回よりも良好な見通しとなっている。
図表3 将来の法定所得代替率(筆者の粗い試算) しかし、前述のように平滑化が実施されているとはいえ、運用収入は時価評価であるため変動しやすい。そこで、2023年度末の積立金を平滑化後の実績値から前回の見通しの2023年度末の値に置き換えて推計した結果が、図表3である*2。粗い試算のため、今回の見通しを再現した結果でも公式値との差が生じている点には留意が必要だが、今回の成長型経済ケースに前回のケースIIIの2023年度末の積立金を当てはめた試算では約3ポイント、今回の過去30年投影ケースに前回のケースVの2023年度末の積立金を当てはめた試算では約6ポイント、法定所得代替率が低下した。
 
*1 2024年度の法定所得代替率は、基礎年金部分が36.2%、厚生年金部分が25.0%、合計が61.2%である。
*2 運用収入を見るには、積立金の変化のうち運用収入による影響分のみを置き換えるのが本来の試算である。しかし、2023年度の財政見通しは厚生年金と国民年金の合計のみが公表されているため、本来の試算を行えなかった。
3|出発点の積立金が上昇した影響を踏まえて、将来見通しを理解する必要
この試算からは、出発点の積立金の上昇が将来の法定所得代替率に与えた影響が、成長型経済ケースでは前回からの改善幅の約半分、過去30年投影ケースではその大部分、に相当する大きさだったと言える。将来の法定所得代替率が上昇した要因には厚生年金加入者の増加などもある点には留意が必要だが、出発点の積立金が上昇した影響を踏まえて、将来見通しを理解する必要があるだろう。

(2024年08月13日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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