2024年07月16日

外国人労働者の誘致政策-「先進性」「ソフトパワー」「所得」「人権」

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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2外国人が日本に来た理由から読み解く、日本の魅力
外国人が日本に来る理由を知ることは、外国人労働者の誘致を考えるうえで手掛かりになる。例えば、出入国在留管理庁が中長期の在留外国人を対象に実施した2022年のアンケート調査によると、日本に来た主な理由として「スキル獲得・将来のキャリア向上のため」(19.3%)、「日本が好きだから」(18.0%)、「勉強のため」(17.1%)、「お金を稼ぐ・仕送り(送金)のため」(15.6%)などが挙げられる[図表8]。

これを解釈すれば日本に来る外国人は、⑴学習意欲やキャリア意識が高い層、⑵日本に好意的な印象を持つ層、⑶出稼ぎを目的とする層、の3つに分類可能であり、賃金だけが日本で働く理由ではないことが分かる。そして、各属性から抽出される日本の魅力は、「技術・サービスの先進性」「ソフトパワーの魅力」「所得環境の優位性」ということになるだろう。
[図表8]日本に来た理由
(1) 技術・サービスの先進性
日本にやって来る外国人は、学歴・所得階層などの面でみて、人材輩出国の中で上位に位置付けられる層であり3、その学習意欲は総じて高い。そのような人材にとって、先進的な技術に触れられる日本は魅力的に映ると思われる。

実際、日本の技術力や研究開発力は高い。それは、毎年のようにノーベル賞受賞者が出ることからも明らかだと思われる。また、公益財団法人日本生産性本部の調査4では、調査対象となった分野のほとんどで、日本のサービス品質は米国よりも高い評価を得ている。日本のサービス品質も、やはり高いと言えるだろう。
[図表9]Top1%補正論文数(分数カウント) ただ、その優位性は徐々に失われつつあることが、多くのデータから示唆されている。例えば、技術力や研究開発力について「論文の被引用回数」をみると、各年各分野で上位1%に入る論文数で日本は順位を落としている[図表9]。また、スイスの著名なビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)が公表した「世界競争力年鑑」によると、かつて高位にあった(1990年代前半には1位だった)日本企業の競争力は2023年に35位まで低下している。日本企業の経営者も研究開発力を強みと評価できなくなっており、同調査で強みと回答した経営層は、全体の4割程度(2018年以前は6割程度)に過ぎない。日本の先進性に疑問符を打つには時期尚早ではあるが、危機感を持つべき兆候が一部の指標に現れている。

学習意欲やキャリア意識が高い外国人材を日本に誘致し続けるには、日本企業が技術・サービスの先進性を磨き続けることが必須であり、政府にはそれを促す改革(税制改正や規制緩和など)が求められる。
 
3 田辺国昭・是川夕監修、国立社会保障・人口問題研究所研編「国際労働移動ネットワークの中の日本 : 誰が日本を目指すのか 」(株式会社日本評論社、2022年)
4 公益財団法人日本生産性本部「サービス品質の日米比較」(2017年7月12日)
(2) ソフトパワーの魅力
日本に対する外国人のポジティブな感情は、日本から発信される情報やインバウンドの体験により形成されていると考えられる。

足元では、経済力や軍事力を梃子として、他国に影響力を及ぼすハードパワーに関心が集まるが、文化や価値観などを共有し、国際社会からの共感や信頼を得るソフトパワーに注目することも、国際競争で優位に立つための有効な手段となる。

2024年2月に英ブランド・ファイナンス社が発表した国家の「ソフトパワー・ランキング5」によると、日本のソフトパワーは世界193カ国中の第4位、アジアでは中国6に次いで第2位と高い評価を得ている。このランキングは、ビジネスと貿易、教育と科学、文化と遺産など8つの柱の下にグループ化された35の属性について、世界の一般市民による国家ブランドに対する認識を調査し、親しみやすさ(Familiarity)、評判(Reputation)、影響力(Influence)、推奨(Recommendation)の4つを重要指標として評価としたものである。日本は「持続可能な未来(Sustainable Future)」の分野で評価が高く、前年から引き続いて順位をキープしている。
[図表10]在留外国人の情報収集(先進国以外) また、2016年に総務省が実施した「在留外国人へのアンケート調査」では、来日して滞在1-2年目となる外国人(直近の受け入れ外国人)は、来日前に「日本の伝統文化」「観光」「食生活」などに高い関心を持っていたことが示されている[図表10]。さらに、2018年に内閣府が実施した別の調査7では、「アニメ・マンガ・ゲーム」が日本に興味を持つきっかけになったとの調査結果もある。世界で和食ブームが起こり、日本の農産品の輸出は10年続けて過去最高となった。外国人を魅了する日本のソフトパワーは、これからも外国人労働者を誘致するうえで強力な武器になる可能性が高いだろう。

日本のファンを増やし、日本での就労を希望する外国人材を増やしていくためには、エンターテイメントなどクリエイティブ産業の展開を戦略的に進め、農産品や環境技術の輸出を強化し、ジャパンブランドの形成につなげるクールジャパン戦略の実効性を高める必要がある。
 
5 Global Soft Power Index 2024
6 中国は2023年の5位から3位にランクアップ。ビジネスと貿易、教育と科学における認識の改善が主な要因。
7 内閣府「クールジャパンの再生産のための 外国人意識調査」
(3) 所得環境の優位性
国際的な人の移動において、就労機会や所得環境は重要な要素の1つである。国内労働者と同じく外国人労働者も、自らのスキルや知識を最も高く評価してくれるところに移動する。

外国人労働者のうち未熟練労働者については、最低賃金の水準が、所得環境の良し悪しを測る指標の1つとなる。これは日本における未熟練労働者、すなわち技能実習生や留学生のパート・アルバイトなどが、最低賃金で働いていることが多いからである。日本の最低賃金を外国人労働者の誘致で競合する豪州や韓国などと比較すると、すでに日本の一部地域の最低賃金は韓国を下回っている[図表11]。足元の円安/相手国通貨高が少なからず影響した面はあるものの、最低賃金の水準だけで見れば、外国人労働者にとって日本と韓国は、ほぼ同じ位置づけとなる。

ただ、将来については、楽観を許さない。コロナ禍を含む過去10年平均でみると、韓国の最低賃金は年6%程度で伸びる一方、日本の同期間の平均伸び率は年2.5%程度に過ぎない。この趨勢が今後も続けば、韓国の最低賃金が日本を完全に上回る日も遠くはないだろう。
[図表11]日本と周辺国の最低賃金
他方、専門的・技術的分野の高度人材については、正規雇用者の所得水準が、所得環境の良し悪しを測る指標の1つとなる。日本で働く高度人材は、資格要件の緩和などもあって、日本人と同じように働く正規雇用者のイメージが近いからである。

日本と比較した各国・各職種の相対的な賃金水準は、高度人材の誘致を競う豪州に対しては明確に見劣りし、香港、シンガポール、韓国などに対しても、その優位性を失いつつある[図表12]。中国や台湾といった周辺国、インドネシアやベトナムといったASEAN諸国に対しては、まだ優位性を確保できているものの、賃金上昇率と表裏一体の関係にある経済成長力では、日本はいずれの国に対しても見劣りする。現状に安住していれば、これらの国に対する優位性も危うくなるだろう。

今後も日本が所得面の優位性を確保していくには、諸外国に負けない賃上げを継続的・持続的に実現して行くことが欠かせない。そのためには、賃上げの原資となる利益の拡大が必須であり、インプット(人・時間・資金)に対するアウトプット(成果・付加価値)の比率の拡大、すなわち、生産性の改善が必要となる。その意味で、日本の構造的な課題として指摘される、生産性向上の取組みは、外国人労働者を誘致する観点からも重要だと言える。
[図表12]基本給・月額(正規雇用)

(2024年07月16日「ニッセイ基礎研所報」)

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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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