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- Metaのデジタル市場法違反-欧州委員会による暫定的見解
コラム
2024年07月11日
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2024年7月1日、欧州委員会はMetaに対して、Metaの「支払か同意か(Pay or Consent)」広告方式がデジタル市場法(Digital Markets Act)違反であるとの暫定的見解を通知したことを、同日付でプレスリリースした。
該当条文はデジタル市場法5条2項である。同項においては、指定されたGatekeeper(プラットフォームの提供者、本事案ではMeta)は、指定されたコアプラットフォーム(本事案においてはFacebook、Instagram)利用者の個人情報を他のサービスと結びつける場合には、利用者の同意を得なければならないとする。そして、この同意を得られなかった場合には、より個人的でない(Less personalized)が、同等のサービスを受けられるようにしなければならないとする規定(以下、本規定)である。なお、本事案において結び付けられるサービスとは個人向けに特化した広告サービスである。
本規定は巨大プラットフォーム提供者(Gatekeeper)がサービス提供にあたって大量の個人情報を収集し収益化することにより、Gatekeeperほど大きな顧客基盤を持たない競合事業者がオンライン広告やSNSといったサービスを提供するにあたっての参入障壁が高くなることを防止するためのものである。
Pay or Consent広告方式は、Metaが本規定導入への対応として、利用者の個人情報を広告に利用するための同意を取ることとしたものである。その選択肢としては、i)広告なし版のSNSを有料で利用するか、ii)個人向け特化型広告あり版のSNSを無料で利用するか、の2択としたものである。
欧州委員会はこのようなMetaの広告方式について、以下の2点で本規定に反するとの暫定的見解を下した。具体的に、MetaのPay or Consent広告方式は、
a)利用者がより個人的でないサービスを希望した場合、個人向け特化型広告あり版と同等のサービスを受けられない(=有料である)こと、また、
b)利用者が自己の個人データが結合されることに関して自由に同意する権利を行使できないこと、が問題であるとする。
疑問なのは、たとえばYouTubeでは有料サービスであるYouTube Premiumに加入すると広告が表示されない。仮にこれが合法だ1とすると、MetaのPay or Consent広告方式のどこが問題になるのであろうか。一応の回答としては、YouTubeのような動画配信サービスでは有料のところが一般的である(Netflix、Amazon Primeなど)ところ、SNSはどこのサービス(X(旧Twitter)やLINEなど)でも通常は無料で提供されている。しかし今回のMetaの措置により、SNSに対する一般的な認識とは異なり、SNSであるFacebook等では個人情報利用同意なしに無料でサービス提供を受けられなくなった。
この点で、Metaは、個人情報を他サービスと結びつけるための同意を事実上強制していると見うる。利用者視点から言えば選択の余地なく、同意をしなければならないということになる。これは本規定の趣旨に明確に違反するということができよう。
今後の動きとして、欧州委員会の暫定的見解に対してMetaは反論することができる。仮に暫定的見解が確定した場合には全世界売り上げの10%が制裁金として賦課される。
1 ただし、今後、欧州委員会が問題にする余地はあると考える。
該当条文はデジタル市場法5条2項である。同項においては、指定されたGatekeeper(プラットフォームの提供者、本事案ではMeta)は、指定されたコアプラットフォーム(本事案においてはFacebook、Instagram)利用者の個人情報を他のサービスと結びつける場合には、利用者の同意を得なければならないとする。そして、この同意を得られなかった場合には、より個人的でない(Less personalized)が、同等のサービスを受けられるようにしなければならないとする規定(以下、本規定)である。なお、本事案において結び付けられるサービスとは個人向けに特化した広告サービスである。
本規定は巨大プラットフォーム提供者(Gatekeeper)がサービス提供にあたって大量の個人情報を収集し収益化することにより、Gatekeeperほど大きな顧客基盤を持たない競合事業者がオンライン広告やSNSといったサービスを提供するにあたっての参入障壁が高くなることを防止するためのものである。
Pay or Consent広告方式は、Metaが本規定導入への対応として、利用者の個人情報を広告に利用するための同意を取ることとしたものである。その選択肢としては、i)広告なし版のSNSを有料で利用するか、ii)個人向け特化型広告あり版のSNSを無料で利用するか、の2択としたものである。
欧州委員会はこのようなMetaの広告方式について、以下の2点で本規定に反するとの暫定的見解を下した。具体的に、MetaのPay or Consent広告方式は、
a)利用者がより個人的でないサービスを希望した場合、個人向け特化型広告あり版と同等のサービスを受けられない(=有料である)こと、また、
b)利用者が自己の個人データが結合されることに関して自由に同意する権利を行使できないこと、が問題であるとする。
疑問なのは、たとえばYouTubeでは有料サービスであるYouTube Premiumに加入すると広告が表示されない。仮にこれが合法だ1とすると、MetaのPay or Consent広告方式のどこが問題になるのであろうか。一応の回答としては、YouTubeのような動画配信サービスでは有料のところが一般的である(Netflix、Amazon Primeなど)ところ、SNSはどこのサービス(X(旧Twitter)やLINEなど)でも通常は無料で提供されている。しかし今回のMetaの措置により、SNSに対する一般的な認識とは異なり、SNSであるFacebook等では個人情報利用同意なしに無料でサービス提供を受けられなくなった。
この点で、Metaは、個人情報を他サービスと結びつけるための同意を事実上強制していると見うる。利用者視点から言えば選択の余地なく、同意をしなければならないということになる。これは本規定の趣旨に明確に違反するということができよう。
今後の動きとして、欧州委員会の暫定的見解に対してMetaは反論することができる。仮に暫定的見解が確定した場合には全世界売り上げの10%が制裁金として賦課される。
1 ただし、今後、欧州委員会が問題にする余地はあると考える。
(2024年07月11日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/28 | 欧州委、AppleとMetaに制裁金-Digital Market Act違反で | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/04/18 | 資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2025/04/16 | 公取委、Googleに排除命令-その努力と限界 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/04/11 | AlphabetにDMA違反暫定見解-日本のスマホ競争促進法への影響 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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