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- 家計消費の動向(~2024年3月)-実質賃金マイナスで全体では低迷、外出型消費は改善傾向だが温度差も、マインドは上向き
2024年05月16日
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1――はじめに~コロナ禍後の家計消費、2024年2月でもコロナ前を下回って低迷が続く
2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症分類が季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げられてから約1年が経過した。その後、旅行や外食などの外出関連の消費は再開される一方、物価高が継続し、実質賃金が低迷する中で(図表1)、個人消費は2024年3月の時点でも(現時点の総務省「家計調査」の最新値)、コロナ禍前の水準を依然として下回っている(図表2)。
一方で2024年春闘の賃上げ率は昨年を上回る高水準であり1、消費者物価は、足元では歴史的な円安進行の影響といった不確実性はありながらも、2024年10-12月には2%台前半に低下することで、実質賃金はプラスへと転じる見通しであり2、個人消費の下支えとなる期待がある。
このような中、本稿では総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降、2024年3月までの二人以上世帯の消費動向について、コロナ禍で増減が目立った費目に注目して分析する。
一方で2024年春闘の賃上げ率は昨年を上回る高水準であり1、消費者物価は、足元では歴史的な円安進行の影響といった不確実性はありながらも、2024年10-12月には2%台前半に低下することで、実質賃金はプラスへと転じる見通しであり2、個人消費の下支えとなる期待がある。
このような中、本稿では総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降、2024年3月までの二人以上世帯の消費動向について、コロナ禍で増減が目立った費目に注目して分析する。
1 日本労働組合総連合会「2024年春闘 第4回回答集計(2024年4月18日公表)」によると5.20%、ベースアップに相当する「賃上げ分」は3.57%。
2 斎藤太郎「実質賃金プラス転嫁へのハードル―名目賃金の下振れと物価の上振れ」、ニッセイ基礎研究所、Weeklyエコノミスト・レター(2024/4/12)
2――二人以上世帯の消費支出の概観~全体では低迷、食料や教養娯楽等が減少、保健医療等が増加
まず、二人以上世帯の消費支出、および内訳の主な費目(大分類として示されるもの)の概況を捉え、次節にてコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)の状況を分析する。
コロナ禍前の2019年同月と比べた二人以上世帯の消費支出は、2020年1月以降は緊急事態宣言が発出された時期(2020年の4・5月や夏、年末など)に減少してきた(図表3(a))。なお、各年10月に盛り上がりが見られるが、これは消費税率引き上げによる反動減が生じた2019年10月との対比であるためだ。また、2021年と比べて2022年や2023年では消費支出が2019年対比で下回る月が多く(10月を除く全て)、その減少幅は2022年と比べて2023年の方が拡大していることから、コロナ禍2・3年目では感染予防対策と経済活動の両立が図られるようになりつつも、物価高が継続する中で、二人以上世帯の消費支出が抑制されている可能性がある。
なお、図表2に示す総消費動向指数と、二人以上世帯の消費支出の動きが異なるようだが、これは、前者は二人以上世帯に加えて単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当するもの)であることに加えて、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されたものであるためだ。いずれにしろ、2024年2月までの時点では、消費全体で見るとコロナ禍前の水準に戻らずに低迷していること、また、2023年5月の5類引き下げ以降も消費は低迷している傾向は同様である。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると(図表3(b)~(f))、コロナ禍前をおおむね下回るのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)である(ただし、「教養娯楽」は改善傾向)。一方、コロナ禍をおおむね上回るのは「住居」や「保健医療」である。これらの理由としては、既出レポート3等で繰り返し見てきたように、外出が自粛されたことで、外食や旅行、レジャーなどの外出型消費が減少する一方、家の中で過ごす時間が増えたために巣ごもり型消費が活発化した影響がある。なお、大分類として示される主な費目では、5類に引き下げられた5月以降で顕著に増加(あるいは減少)傾向を示すものは見えにくいようだ。よって、次節では、コロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目して分析する。
コロナ禍前の2019年同月と比べた二人以上世帯の消費支出は、2020年1月以降は緊急事態宣言が発出された時期(2020年の4・5月や夏、年末など)に減少してきた(図表3(a))。なお、各年10月に盛り上がりが見られるが、これは消費税率引き上げによる反動減が生じた2019年10月との対比であるためだ。また、2021年と比べて2022年や2023年では消費支出が2019年対比で下回る月が多く(10月を除く全て)、その減少幅は2022年と比べて2023年の方が拡大していることから、コロナ禍2・3年目では感染予防対策と経済活動の両立が図られるようになりつつも、物価高が継続する中で、二人以上世帯の消費支出が抑制されている可能性がある。
なお、図表2に示す総消費動向指数と、二人以上世帯の消費支出の動きが異なるようだが、これは、前者は二人以上世帯に加えて単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当するもの)であることに加えて、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されたものであるためだ。いずれにしろ、2024年2月までの時点では、消費全体で見るとコロナ禍前の水準に戻らずに低迷していること、また、2023年5月の5類引き下げ以降も消費は低迷している傾向は同様である。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると(図表3(b)~(f))、コロナ禍前をおおむね下回るのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)である(ただし、「教養娯楽」は改善傾向)。一方、コロナ禍をおおむね上回るのは「住居」や「保健医療」である。これらの理由としては、既出レポート3等で繰り返し見てきたように、外出が自粛されたことで、外食や旅行、レジャーなどの外出型消費が減少する一方、家の中で過ごす時間が増えたために巣ごもり型消費が活発化した影響がある。なお、大分類として示される主な費目では、5類に引き下げられた5月以降で顕著に増加(あるいは減少)傾向を示すものは見えにくいようだ。よって、次節では、コロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目して分析する。
3 久我尚子「コロナ禍における家計消費の変化~ウィズコロナの現状分析とポストコロナの考察」、ニッセイ基礎研レポート(2021/5/20)など。
3――コロナ禍の影響を受けた主な費目の動き~外出型消費は改善傾向だが多くはコロナ禍前を下回る
1|コロナ禍で減少した支出~外出型消費は改善傾向だが国内旅行以外はコロナ禍前を下回る
(1) 旅行・レジャー~国内旅行はコロナ禍前に回復、海外旅行は途上だが改善傾向、一部レジャーは回復鈍化
まず、コロナ禍で支出額が減った費目について捉える。旅行について見ると、「宿泊料」や「パック旅行費」は、これまでコロナ禍においてもGoToトラベルや全国旅行支援などの政府による需要喚起策が実施された時期4に盛り上がりが見られてきた(図表4(a))。特に「宿泊料」は、コロナ禍でもマイクロツーリズム需要が捉えられたことで、2022年までの3年間においても、施策の時期にはコロナ禍前を大幅に上回る月もある。なお、2023年5月以降では、コロナ禍前を下回る月もあるものの、7月(対2019年同月実質増減率+23.2%)や10月(同+41.1%)の増加率は、これまでの3年間(2020年:同▲39.3%、2021年:同▲28.0%、2022年:同+11.5%)と比べて大幅に高く、5類引き下げによって夏休みや秋の旅行需要が一層、増した様子がうかがえる。足元までの状況を見ると、月による増減はあるものの、コロナ禍前を上回る水準と言える。
一方、交通費を含む「パック旅行費」でも同様の時期に盛り上がりが見られ、2022年以降は改善傾向が強まっているが、未だコロナ禍前の水準を下回る。この背景には5類引き下げ以降は海外への渡航が容易になったとはいえ、可処分所得が増えない中、円安の影響で海外旅行の費用が上昇しているため、強い需要はあっても抑制されている可能性がある。なお、国内旅行については、「宿泊料」の状況を見ればコロナ禍前の水準をおおむね上回って回復しているようだが、インバウンドの再開も相まって観光業の人手不足から供給が足りずに強い需要を受けきれていない状況も考えられる。
レジャーについては、この4年余りの間、いずれも(「映画・演劇等入場料」、「文化施設入場料」、「遊園地入場・乗物代」)改善傾向が続いている(図表4(b))。ただし、「映画・演劇等入場料」と「文化施設入場料」は2022年と比べて2023年の回復基調は鈍化しており、かつ、2023年5月以降も必ずしもプラスに転じているわけではない。また、単月ではなく推移で見た方が適切と考えるが、足元では「遊園地入場・乗物代」もコロナ禍前を下回っている。よって、物価高が続く中で娯楽費へ充てる予算が減っている可能性もあり、賃金とあわせて今後の動向を注視する必要がある。
(1) 旅行・レジャー~国内旅行はコロナ禍前に回復、海外旅行は途上だが改善傾向、一部レジャーは回復鈍化
まず、コロナ禍で支出額が減った費目について捉える。旅行について見ると、「宿泊料」や「パック旅行費」は、これまでコロナ禍においてもGoToトラベルや全国旅行支援などの政府による需要喚起策が実施された時期4に盛り上がりが見られてきた(図表4(a))。特に「宿泊料」は、コロナ禍でもマイクロツーリズム需要が捉えられたことで、2022年までの3年間においても、施策の時期にはコロナ禍前を大幅に上回る月もある。なお、2023年5月以降では、コロナ禍前を下回る月もあるものの、7月(対2019年同月実質増減率+23.2%)や10月(同+41.1%)の増加率は、これまでの3年間(2020年:同▲39.3%、2021年:同▲28.0%、2022年:同+11.5%)と比べて大幅に高く、5類引き下げによって夏休みや秋の旅行需要が一層、増した様子がうかがえる。足元までの状況を見ると、月による増減はあるものの、コロナ禍前を上回る水準と言える。
一方、交通費を含む「パック旅行費」でも同様の時期に盛り上がりが見られ、2022年以降は改善傾向が強まっているが、未だコロナ禍前の水準を下回る。この背景には5類引き下げ以降は海外への渡航が容易になったとはいえ、可処分所得が増えない中、円安の影響で海外旅行の費用が上昇しているため、強い需要はあっても抑制されている可能性がある。なお、国内旅行については、「宿泊料」の状況を見ればコロナ禍前の水準をおおむね上回って回復しているようだが、インバウンドの再開も相まって観光業の人手不足から供給が足りずに強い需要を受けきれていない状況も考えられる。
レジャーについては、この4年余りの間、いずれも(「映画・演劇等入場料」、「文化施設入場料」、「遊園地入場・乗物代」)改善傾向が続いている(図表4(b))。ただし、「映画・演劇等入場料」と「文化施設入場料」は2022年と比べて2023年の回復基調は鈍化しており、かつ、2023年5月以降も必ずしもプラスに転じているわけではない。また、単月ではなく推移で見た方が適切と考えるが、足元では「遊園地入場・乗物代」もコロナ禍前を下回っている。よって、物価高が続く中で娯楽費へ充てる予算が減っている可能性もあり、賃金とあわせて今後の動向を注視する必要がある。
4 2020年7月下旬に開始され、感染拡大によって12月下旬に一旦停止。2021年4月から自県民の県内旅行を推進する「県民割」が、その後、対象を地域ブロックに広げた「ブロック割」を2022年10月上旬まで実施。その後は対象を全国に広げた「全国旅行支援」が実施されている。2023年4月以降の「全国旅行支援」は各都道府県の予算がなくなり次第、順次終了。
(2024年05月16日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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