2024年04月03日

欧州大手保険グループの2023年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

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4|Aviva
Avivaは会社ベースと(英国のソルベンシーII制度に基づく)監督・規制ベースの2つのソルベンシー比率を開示してきている。

Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、規制上のソルベンシーIIポジションに対して、以下の2点の調整が行われている。

・完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド(2023年末で14.08億ポンド、2022年末で13.69億ポンド)、職員年金制度(2023年末で3.97億ポンド、2022年末で3.94億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。それゆえ、会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、としている。

・TMTP(技術的準備金の移行措置)の名目上のリセットは、正式なTMTPのリセットと同じ方法で計算されるが、正式なTMTPのリセットポイントがトリガーされた場合にのみ発生するソルベンシーIIポジションの段階的な変更を回避している。2023年12月31日のソルベンシーIIポジションは、少なくとも2年毎にTMTPをリセットするという要件に沿って、TMTPの正式なリセットに基づいており、調整は必要ない(2022年12月31日のソルベンシーIIポジションには、名目上のリセットの影響がソルベンシー資本剰余で▲5.33億ポンド、含まれていた)。
(1) SCR比率の推移
2023末のSCR比率は、2022年末の212%から5%ポイント低下して、207%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・資本形成や市場・為替により+7%ポイント
・配当により▲11%ポイント
・債務発行により+3%ポイント
・その他で、自社株買戻しにより▲4%ポイント
AvivaのSCR比率推移の要因(会社ベース)
なお、ソルベンシー資本剰余は2022年末から1億ポンドの増加とほぼ横ばいだった。資本形成等による 15億ポンドの増加や債務発行 2億ポンドによる増加が、2022年の最終配当と2023年の中間配当の支払い 9億ポンド、自社株買いや資本リターン 3億ポンド、営業外の資本取崩し 3億ポンドによって相殺された。

英国では、ソルベンシーII改革の一環として、ソルベンシーIIのリスクマージンの計算を修正するための法的文書が2023年12月に議会に提出された。この規制は、6%の資本コスト率を4%に置き換え、生命保険契約にテーパリング要素を導入し、2023年12月31日から発効している。これによるリスクマージンの低下の影響は、対応するTMTPの低下によって一部相殺されているが、この改革により、2023年末のグループのソルベンシーIIの株主カバー率が6ポイント上昇した、と述べている。
Avivaの自己資本とSCR等の推移の要因
(2) 感応度の推移
下記の図表において、2023年末の数値は、図表の脚注に記載されているように、金利、死亡率/罹患率、年金死亡率の変化幅が2022年末までとは異なっているので、注意が必要になる。

2021年末から2022年末にかけての感応度の変化については、事業の売却等によるポートフォリオの変更が落ち着いたこともあり、過去の年末間の変化に比べて、比較的安定したものだったが、例えば金利に対する感応度が低下していた。これに対して、2022年末から2023年末にかけては大きな変化は見られない。
Avivaの感応度の推移
Avivaは、感応度分析に関して、以下の補足説明を行っている。

(参考)感応度分析の限界
上記の表は、主要な仮定を瞬時に変更した場合の影響を示しており、他の仮定は変更されていない。実際には、仮定と他の要因の間には相関関係がある。これらの感応度は非線形であり、これらの結果からより大きな又はより小さな影響を内挿又は外挿することはできない。

感応度分析では、グループの資産と負債が積極的に管理されていることは考慮されていない。さらに、グループのソルベンシーIIのポジションは、実際の市場の動きが発生した時点で異なる場合がある。例えば、グループの財務リスク管理戦略は、市場変動へのエクスポージャーを管理することを目的としている。

投資市場が様々なトリガーレベルを超えて変化するにつれて、経営行動には、投資の売却、投資ポートフォリオの割当ての変更、保険契約者にクレジットされる配当の調整及びその他の保護行動の実行が含まれる可能性がある。

上記の感応度分析におけるその他の制限には、確実に予測することはできない近い将来の市場の変化の可能性に関するグループの見解を示している潜在的なリスクを示すための仮説的な市場の動きの使用及び全てのパラメーターが同じように動くという仮定が含まれる。

具体的には、

・感応度分析では、全ての期間で金利が平行移動すると仮定している。これらの結果は、平行でない金利の 動きの影響を計算するために使用されるべきではない。

・感応度分析は、全ての市場で同等の仮定の変化を前提としている。つまり、英国と英国以外の利回り曲線が同じ量だけ移動し、世界中の株式市場が同じように上昇または下落する。

さらに、Aviva が保有する資産によって観察される動きは市場指数と同一ではないため、観察された指数の動きに感応度を適用する際には注意が必要となる。
(3) トピック
Avivaの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年1月12日に、Interserve Pension Schemeとの4億ポンドのバイイン取引を完了したと発表した。

2023年2月10日に、Arcadia Group Pension Schemesとの8億5,000 万ポンドのバイイン取引を完了したと発表した。

2023年4月4日に、DB (UK) Pension Schemeとの4億ポンドのバルク年金契約のバイイン取引を完了したと発表した。

2023年4月17日に、Aviva Ventures にさらに 1億5,000万ポンドを出資し、最初の150万ポンドを個人や組織によるMRI、超音波、X線などの診断スキャンの予約を支援する事業を行っているScan.com に投資すると発表した。

2023年5月5日に、Thomas Cook年金制度の管理委員会との9億ポンドのバルク年金バイイン取引を完了したと発表した。これにより、Avivaは、12,500人を超える会員の確定給付型年金債務を保証し、年金保護基金(PPF)の報酬レベルと同等又はそれを超える年金給付を提供することになる。

2023年7月20日に、NTL 1999年金制度の1億2,000万ポンドのフルスキームを獲得したと発表した。これにより、Avivaが約650人の会員の確定給付債務を保証し、これらの会員の投資と長寿のリスクを制度から取り除くことになる。

2023年7月24日に、Barclays UKと35万人の顧客からなる同社の住宅保険ポートフォリオを購入する契約を締結したと発表した。この買収は8月に完了予定としている。

2023年9月13日に、Singapore Life Holdings Pte Ltd(Singlife)の株式25.9% を 2つの債券とともに住友生命に全額売却することに合意したと発表した。住友生命は、Avivaの株式に対して5億ポンド(9億シンガポールドル)、2つの債券に対して3億ポンド(5億シンガポールドル)、合計8億ポンド(14億シンガポールドル)をクロージング時に対価として支払う予定である。なお、この取引は、2024年3月18日に、総額9億3,700万ポンド(16億シンガポールドル)で、売却が完了している。

2023年9月25日に、AIGの子会社であるCorebridge Financial, Inc.から AIG Life Limitedを4億6,000万ポンドの対価で買収する、と発表した。AIG Life Limitedは、完全な個人及びグループ保障商品の一覧を提供しており、130万人の個人保障顧客と140万人のグループ保障会員を抱えている。

2023年11月27日に、約1億ポンドの対価で、カナダにおける自動車交換保険の大手プロバイダーであるOptiomを買収すると発表した。この取引は、2024年1月5日に完了している。

なお、2024年に入ってからも、以下の資本取引等が公表されている。

2024年3月4日に、2億4,200万ポンドの対価でProbitas を買収し、Lloyd’s市場に参入することを発表した。この取引によるグループのソルベンシーII株主カバー率への影響は、2023年12月31日時点で約3%ポイントの低下と推定されている。
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中村 亮一

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