2024年04月03日

欧州大手保険グループの2023年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

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2|Allianz
(1) SCR比率の推移
2023年末のSCR比率は、2022年末の201%から5%ポイント上昇して、206%となった(なお、Allianzは、基本的には技術的準備金の経過措置を適用していないが、これを適用した場合には、自己資本が102億ユーロ増加して、SCR比率は229%になるとしている)。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+27%ポイント(税及び配当控除後で+7%ポイント)

・市場の影響は▲1%ポイント

・経営行動及び資本管理の影響は▲16%ポイント(新たな支払い方針に基づく配当見込(54億ユーロ)、2023年に発表/完了した自社株買い(15億ユーロ)に加えて、サブデット取引(+6億ユーロ)のプラスの影響)

・規制/モデル変更による影響は、+4%ポイント(動的インフレ外挿モデルの変更と、その他の中央及びローカルでのモデル変更)

・その他、税金関係で▲8%ポイント
AllianzのSCR比率推移の要因
また、自己資本とSCRへの影響は、以下の図表の通りとなっている。自己資本は、着実な営業利益の積み上げによる影響が過去最高の13.8億ユーロとなったことに加えて、過去に帳簿価額から控除されていた事業体を含めたことによる影響もあって、配当支払や自社株買いでのマイナスの影響があったものの、117億ユーロ増加した。一方で、SCRは、これまでモデル化されていなかった一部のマイナーな非EEA(欧州経済領域)保険会社に対する為替リスクを含む資本要件の追加による30億ユーロの影響により、規制/モデル変更による影響が29億ユーロと大きくなっている。
Allianzの自己資本及びSCR推移の要因
(2) 感応度の推移
全体として、金利の低下により、感応度は若干増加した。

国債に対する信用スプレッドによる感応度は、2020年末が高かったのに対して、2021年末、2022年末と低下していたが、2023年末は2022年末から横ばいとなっている。また、株式の感応度は、2019年末に大きく上昇し、その後ほぼ横ばいで推移した後、2022年末に若干低下していたが、再び若干上昇している。

なお、統合ストレスシナリオによる場合の感応度は、個々の感応度の合計に比べて、クロス効果により追加の▲2%ポイント(2022年末▲1%ポイント、2021年末▲8%ポイント)の影響があるとしている。
Allianzの感応度の推移
(3) トピック
Allianzの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年5月10日に、Allianz SEが最大15億ユーロ規模の新株買戻しプログラムを決議したと発表した。このプログラムは 2023年5月末に開始され、遅くとも 2023年12月31日までに完了するものとし、Allianz SEは買い戻した株式を全て消却する。

2023年7月10日に、ミュンヘンの大手資産運用会社であるGlobal Gate Capital(GGC Group)へのレバノン事業の売却及び譲渡に関する取引を完了したと発表した。この取引により、Allianzグループのソルベンシー資本と現金ポジションは影響を受けない、としている。

2023年9月5日に、Allianzとアフリカ最大のノンバンク金融サービスプロバイダーであるSanlamは、汎アフリカ有数のノンバンク金融サービスを創設する合弁会社であるSanlam Allianzについて規制当局の承認を得たことを発表した。これにより、アフリカ27市場でアフリカ大陸の顧客の進化し続けるニーズを満たす革新的な保険及び金融のソリューションとサービスを提供できることになる、と述べた。

2023年9月28日に、中東での事業運営を合理化するためのグループ事業戦略の一環として、Allianz Saudi Fransiの株式51%をアブダビ国民保険会社(ADNIC)に売却する拘束力のある契約を締結したと発表した。

2023年10月12日に、Allianz SpAが2億8,000万ユーロの対価でAssicurazioni Generali S.p.A.からTua Assicurazioni S.p.A.を買収する、と発表した。これにより、イタリアの魅力的な損害保険部門で市場シェアが約1% ポイント増加する。Tua Assicurazioni S.p.A.の約500の代理店による販売能力の大幅な強化が図られる、としている。なお、この取引は、2024年3月1日に完了したと発表された。

2023年10月13日に、Allianz SE は、CPIC Fund Management Co.Ltd. の株式49%を国泰君安証券有限公司に売却することについて最終合意を締結した、と発表した。

2023年11月2日に、Allianz Xが、NEXT Insuranceの2億6,500万米ドルの資金調達ラウンドに投資し、戦略的関係を拡大すると発表した。

2023年12月19日に、Allianz SEは、Blue Sky Re DACを通じて、2億5,000万ユーロの欧州の暴風雨リスクをカバーする新たなカタストロフィ債のスポンサーに成功したと発表した。

なお、2024年に入ってからも、以下の資本取引等が公表されている。

2024年2月22日に、Allianz SEは、最大10億ユーロ規模の自社株買いプログラムと配当政策の修正を発表した。Allianz SEは買い戻した株式を全て消却する。

2024年2月22日に、AlTi Tiedemann Globalが、Allianz X と Constellation Wealth Capital からの最大4億5,000万ドルの戦略的投資を歓迎すると発表した。
3|Generali
(1) SCR比率の推移
2023年末のSCR比率は、2022年末の221%から1%ポイント低下して、220%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益の計上による資本形成で+22%ポイント

・市場の変動等で▲18%ポイント、そのうち、経済的差異は▲6%ポイント(2023年第4四半期の金利低下、中国市場のマイナス成長によるあまり芳しくない株式パフォーマンス、ポートフォリオ全体における不動産価値の変化)、営業差異は▲12%ポイント(解約経験とそれに伴う前提条件の変更、アジアの成長と損害保険リスクの上昇によるSCRの増加(より大きい規模とより高いNat Catリスクチャージ)、余剰資金の縮小、長期インセンティブプラン費用と非経常的な保有費用)

・配当等の資本移動で▲6%ポイント

・規制変更等により▲3%ポイント

・M&Aで+4%ポイント

なお、2024年に想定される影響として、M&A(Liberty、Conning、China P&C, TUA Assicurazioni)で▲10%ポイント、戦略的買戻しで▲2%ポイント、UFR(終局フォワードレート)の変更で▲1%ポイント、VA(ボラティティ調整)ポートフォリオ及びその他のリスクフリーパラメーターの更新で▲1%ポイント、が挙げられている。

また、通常の資本形成により、SCRを超過する自己資本は46億ユーロ増加しているが、このうち生命保険事業が40億ユーロ、損害保険事業が10億ユーロ、その他で▲4億ユーロとなっている。
GeneraliのSCR比率推移の要因
Generaliの自己資本とSCRの推移の要因
(2) 感応度の推移
Generaliは、過去数年間において、1) 生命保険における軽資本商品のウェイトの拡大、2) 損害保険、ユニットリンク、保障商品を通じての分散化の促進、3) 段階的なデュレーションの短期化によるBTP(イタリア国債)のウェイトの引き下げ、4) 資産・負債マッチングに関する規律のさらなる強化、を通じて、ソルベンシーII比率のボラティリティを引き下げてきた。

これにより、例えば金利に対する感応度は、2021年末から2022年末にかけて大きく低下していたが、2023年末もさらに低下した。また、社債スプレッドの拡大による影響は、2019年からプラスとなっていたが、2022年からはマイナスとなっている。

イタリア国債のBTPスプレッド+100bpsによる影響は、2021年までの3年間は二桁のマイナスと大きなものになっていたが、2022年末は▲5%ポイント、2023年末も▲6%ポイントとなっている。なお、2022年のBTPスプレッド感応度においては、カントリー・ボラティリティ調整5が発動されたが、この発動がなければ、2022年のBTPスプレッド感応度+100bpsは▲8%ポイントであった。2023年のBTPスプレッド感応度+100 bpsについてカントリー・ボラティリティ調整は発動されていない。

株式に対する感応度は25%の変動で数%ポイントと安定している。
Generaliの感応度の推移
 
5 国固有の参照ポートフォリオのリスク修正スプレッドがリスクフリーレートを少なくとも100 bps上回り、通貨固有の参照ポートフォリオのスプレッドの2倍を超える場合、通貨スプレッドの2倍を超える国内スプレッドの超過額の65% に相当する国固有のボラティリティ調整が追加される。
(3)トピック
Generaliの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年1月19日に、「LTIプラン 2022-2024」と呼ばれるグループの長期インセンティブプランと、実行中のグループのインセンティブ及び報酬プランを目的として、以前に買い戻されたものと合わせて、最大1,050万株の自社株買いを開始すると発表した。

2023年4月20日に、4億9,956万3,000ユーロの永久債の買戻しと4回目のグリーンボンド(2033年4月20日満期の新しいユーロ建てTier 2債券)の発行を無事完了したと発表した。

2023年5月4日に、Frankfurter LebenとGenerali Deutschland Pensionskasseの売却で合意したと発表した。この取引は、生命保険事業のプロファイルと収益性の継続的な改善を通じて収益プロファイルを強化し、資本集約度を削減し、営業成績を向上させるというGeneraliの戦略に沿ったものである。この取引により、グループのソルベンシーII比率が1%ポイント増加する。

2023年6月15日に、Liberty MutualからLiberty Segurosを買収し、欧州保険業界のリーダーシップを強化すると発表した。これにより、スペイン(4位)とポルトガル(2位)での損保ポジションを強化し、アイルランドと北アイルランドに参入する。取引総額は23億ユーロとなり、グループのソルベンシーII比率への影響は約▲9.7ポイントと推定されている。なお、Liberty Segurosは、2022年12月31日時点でソルベンシー比率が330%を超え、強固な資本基盤を有している。なお、この取引は、2024年1月31日に完了している。

2023年6月30日に、Eurovitaの保険契約者を保護するため、他の保険会社4社(Allianz, Intesa Sanpaolo Vita, Poste Vita and Unipol SAI)と共同で事業を展開すると発表した。

2023年7月6日に、アジア最大の金融機関の一つであるCathay Financial Holdingsの子会社であるCathay Lifeから、保険及び機関投資家向けの世界有数の資産運用会社であるConning Holdings Limited(CHL)を買収して、グローバルな資産管理ビジネスを強化し、Cathay Lifeと長期的なパートナーシップを構築する、と発表した。Conningとその関連会社は、約1,570億ドル(1,440億ユーロ)の運用資産を持ち、保険会社やその他の機関顧客のニーズに応える世界的な資産管理会社である。この買収により、Generaliの運用資産総額(AUM)は8,450億ドル(7,750億ユーロ)になる。また、CHLがGenerali Investments Holding S.p.A (GIH)に出資した結果、Cathay LifeはGIHの少数株主となる。Cathay Lifeによる GIHのCHL株式100%の拠出の対価として、Cathay Lifeは慣例的な決算調整を条件として、決算時点でGIHの株式資本の16.75%を所有する予定である。なお、Generali又はGIHがCathay Lifeに対して支払うべき現金の前払いはなく、グループのソルベンシーII比率への影響はごくわずかであると想定されている。

2023年9月5日に、サステナビリティボンドフレームワークに従って「グリーン」形式で発行される、総額5億ユーロの2033年9月償還の新しいユーロ建てTier 2債券を発行したと発表した。

2023年10月12日に、TUA Assicurazioni SpAをAllianzに売却することで合意したと発表した。

2023年11月13日に、トリエステに本拠を置くオンライン保険会社のGenertel SpA が、2043年12月償還の1億ユーロの固定金利/変動利付劣後債を満期日前に全額償還するオプションを行使したことを発表した。

2023年12月21日に、BaFin(ドイル連邦金融監督庁)及び関連するドイツの独占禁止当局の承認を受けて、Generali Deutschland Pensionskasse AG (GDPK) のFrankfurter Lebenへの処分を完了した、と発表した。この取引により、ドイツのポジションに約10%ポイント、グループのソルベンシーIIポジションに1%ポイントがそれぞれ追加される。

なお、2024年に入ってからも、以下の資本取引等が公表されている。

2024年1月8日に、2029年1月と 2034年1月に満期となる 2つのユーロ建てシニア債の新たな発行を無事完了したと発表した。いずれもグリーン、ソーシャル、サステナビリティ債フレームワークに従って「グリーン」フォーマットで発行された。

2024年1月10日に、約9,900万ユーロの対価でGCI(ジェネラリ中国保険会社)の51%を買収する契約に署名し、GCIの100%株主になる、と発表した。

2024年3月1日に、TUA Assicurazioni SpAのAllianzへの売却を完了した、と発表した。この取引により、純利益に対して約 5,000 万ユーロのプラスの影響が生じ、正常純利益(特殊要因等を除いた実態ベースの純利益)に対しては中立的な影響が生じ、グループのソルベンシーIIポジションが約1%ポイント増加する、としている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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