2024年04月01日

日銀短観(3月調査)~景況感の動きは限定的、設備投資計画は堅調維持、値上げ継続姿勢が示唆される

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画:23年度収益は上方修正、24年度は増収減益スタート

2023年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.7%増(前回は2.5%増)、経常利益が6.9%増(前回は3.2%増)とそれぞれ上方修正された。例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられて前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6月調査で比較対象となる前年度分の上方修正などを受けてやや下方修正されるが、9月調査以降は、景気が悪化していない限り、上方修正が続く傾向が強い。

今回も同様のパターンとなり、もともと保守的ぎみであった想定を実績が上回ったことが上方修正に繋がったとみられる。

なお、2023年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は140.36円と、前回(139.38円)から1円程度円安方向に修正されたが、年度の実績(144.6円)との対比では、かなりの円高水準に留まっている。短観の想定為替レートは修正に時間がかかる傾向があるためだ。従って、今後6月調査(実績)で想定為替レートが円安方向に修正されることで、輸出企業が牽引する形で全体の収益計画が上方修正される余地が残っている。
 
また、今回から集計・公表された2024年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比1.0%増、経常利益が同3.0%減となっている。

例年、経常利益計画は年度始時点では保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナスでスタートする傾向が強く、今回も同様となった。また、今後は賃上げに伴う景気回復が期待される一方で、中国など海外経済の減速や物価高による消費減速などの下振れリスクが残るため、とりあえず小幅な減益に仮置きして様子見している企業も多いと推測される。

なお、2024年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は141.42円(上期141.60円、下期141.25円)と、足下の実勢(151円台)から大幅な円高水準に設定されている。米FRBによる利利下げ開始や、日銀による利上げなどによる円高の進行が見込まれていると考えられる。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は堅調維持、人手不足感は33年ぶりの水準に

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント上昇の▲1となった。設備の需給は概ね均衡ながら、若干不足ぎみの状況が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲36となった。コロナ禍で一旦縮小したDIのマイナス幅は、コロナ禍前のピーク(2018年12月調査・2019年3月調査の▲35)を超え、1991年以来約33年ぶりの水準を記録した。人手を多く要する対面サービス需要の回復や少子化の影響を受けて人手不足感がさらに強まってきている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)も前回から0.2ポイント低下の▲23.1となり、2019年3月調査以来のマイナス幅となった。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用人員判断DIが▲39と各3ポイントの低下が見込まれており、設備・雇用ともに不足感がさらに強まる見通しになっている。この結果、「短観加重平均DI」も▲26.1と足元からさらに3.0ポイント低下する見込みとなっている。
 
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比10.7%増となり、前回12月調査(11.8%増)からやや下方修正された。

例年、3月調査(実績見込み)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては若干下方修正される傾向があり5、今回も同様のパターンとなった。ただし、3月調査における前年比10.7%増という伸び率は、直近10年間で2番目の高水準に当たり、引き続き堅調な投資計画と言える。一方、人手不足による工事の遅れや資材価格高騰を受けて、年度前半の投資が低迷していたことから、今後、翌年度計画への先送りが発生しやすい点には留意を要する。
 
また、今回から新たに調査・公表された2024年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2023年度見込み比で3.3%増となった。従来、3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向が強かった6。しかし、2024年度については、収益回復を受けた投資余力の改善に加え、脱炭素・DX・省力化・供給網再構築等に向けた投資需要の存在がプラスに働いたとみられ、23年度3月調査に次ぐ高い伸び率からのスタートとなっている。
 
2023年度設備投資計画(全規模全産業で前年比10.7%増)は市場予想(QUICK 集計9.4%増、当社予想は9.3%増)を上回る結果だった。さらに、2024年度設備投資計画(全規模全産業で前年比3.3%増)も市場予想(QUICK 集計2.2%増、当社予想も2.2%増)をやや上回る結果だった。
 
2023年度のソフトウェア投資額(全規模全産業)は前回(14.6%増)から下方修正されたものの、前年度比11.0%増と大幅な増額計画が維持されている。企業において、オンライン需要への対応や生産性向上・省力化等に向けた業務のIT化が加速している証左とみられ、前向きな動きと言える。特に人手不足感の強い中小企業では2割を超える伸びが示されている。また、今回から新たに調査・公表された2024年度の計画(全規模全産業)も2023年度比6.6%増と引き続き堅調な伸びが示されている。
(図表11) 設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表12)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13)設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
5 直近10年間(2013~22年度)における3月調査(実績見込み)での修正幅は平均で▲0.9%ポイント。
6 直近10年間(2014~23年度)の3月調査(新年度計画)における伸び率は平均で前年比▲1.4%。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年04月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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