コラム
2024年03月06日

日本における男女間の格差とその原因を考察する-統計的差別や性別役割分担意識の解消等意識改革が必要-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

東洋大学 准社会学部国際社会学科 准教授 姜 英淑

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改善の速度が遅い男女間の賃金格差

日本における男女間格差の改善速度が遅い。2006年から非営利財団の世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が発表している「Global Gender Gap Report」によると、2022年1に146カ国中116位であった日本の順位は2023年2には146カ国中125位で、主要先進国(G7)のなかで最下位で過去最低の結果となった。この結果はアジア地域の韓国、中国、ASEAN諸国よりも低い順位である。

ジェンダーギャップ指数は、経済、教育、健康、政治の4分野から構成されている男女格差を示す指標で、日本の各分野の順位は健康59位、教育47位、経済123位、政治138位で経済と政治分野で低い順位を記録した。特に、日本における女性の経済分野の順位が低いのは、女性管理職比率が低いことと、パートタイム労働者等女性の非正規労働者の割合が高く、男性と比べて賃金水準が低いこと等が挙げられる。

労働政策研究・研修機構(2023)3によると、日本における就業者に占める女性の割合は44.7%で、フランス(48.9%)、イギリス(47.7%)、アメリカ(47.0%)、ドイツ(46.8%)と大きな差を見せていないが、管理職に占める女性の割合は13.2%で、アメリカ(41.4%)、フランス(37.8%)、イギリス(36.5%)、ドイツ(29.2%)を大きく下回った。さらに、隣国、韓国の16.3%よりも低い数値を記録した。

一方、厚生労働省が発表している「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」によると、男性の賃金を100とした場合の女性の賃金水準は2010年の69.3%から、2022年には75.7%と賃金格差は縮小したが、10年間でわずか6.4ポイントしか改善されていないことが分かった。男女別に賃金カーブをみると、男性の場合、年齢階級が高くなるにつれて賃金も高く、55~59歳で41.7万円と賃金がピークとなり、その後下降している。一方、女性の場合でも、55~59歳で28.0万円と賃金がピークとなっているが、男性に比べて賃金上昇の傾きが緩やかとなっており、非正規労働者の賃金カーブと類似していることが分かる。
男性と女性の年間収入と賃金格差(男性=100)
性、年齢階級別賃金
OECD加盟国の男女別賃金格差(男性の賃金が女性よりどのぐらい高いのか)
 
1 World Economic Forum(2022)Global Gender Gap Report 2022
2 World Economic Forum(2023)Global Gender Gap Report 2023
3 労働政策研究・研修機構(2023)『データブック国際労働比較2023』

日本では男女間の賃金格差が大きい理由は?

では、なぜ日本では男女間の賃金格差が大きいだろうか?永野(2022)4はその原因として、「育児休業法があっても、大卒女性の出産をはさんだ就業継続が伸びておらず、さらにいったん離職した大卒は、中年期に、高卒層や短卒層以上に、フルタイム職への復帰が少ないこと」を一つの原因として挙げた。最近は女性の学歴水準が上昇し、労働市場で活躍している女性が増加している。また、過去とは異なり、女性労働者に対する企業側の認識も変わってきており、さらに女性の活躍を支援するための制度も十分だとは言えないが少しずつ整備されてきている。にもかかわらず、経歴断絶が起こり、男女間の賃金格差に繋がっている。このような背景にはまだ日本の労働市場に統計的差別が依然として残存していることが挙げられる。

統計的差別とは、差別を行う意図がなくても、過去の統計データに基づいた合理的判断から結果的に生じる差別をいう。つまり、まだ日本の一部の企業は、「〇割の女性が出産を機に仕事を辞める」、「女性の〇割は専業主婦になることを望んでいる」といった統計データに基づき、退職を織り込んで採用を行っており、その結果統計的差別が発生している。つまり、統計的差別の残存等により経歴断絶が起こり、男性と比べて女性の雇用率や管理職比率が低くなったことが男女間の賃金格差を広げた一つの原因であると考えられる。

男性に比べて女性の非正規労働者の割合が高いことも男女間の賃金格差が発生する主な理由である。2023年における女性の非正規労働者の割合は53.2%で、男性の22.6%より2倍以上も高い。日本では正社員・正職員以外の賃金(1カ月)は22.1万円で、正社員・正職員の32.8万円の約67.3%に留まっていることを考慮すると、男女間の賃金格差の一因が雇用形態の違いであることが分かる5。特に女性が結婚と出産を迎える30代以降、男性と女性の非正規労働者の割合に差が発生し、賃金格差が広がっている。
男女別非正規労働者の割合
男女間の賃金格差
日本社会に根強く残っている「性別役割分担意識」も男女間賃金格差の一因だと言える。男女共同参画社会基本法では、性別役割分担意識について「男女を問わず個人の能力等によって役割の分担を決めることが適当であるにもかかわらず、男性、女性という性別を 理由として、役割を固定的に分けてしまいがちである。「男は仕事・女は家庭」、「男性は主要な業務・女性は補助的業務」等は固定的な考え方により男性、女性の役割を決めている例である。」6と説明している。男性は仕事、女は育児や家事、男性は主要な業務、女性は補助的な業務といった日本社会の固定観念が、男女間の賃金格差に影響を与えたと考えられる。

政府は、男女間の賃金格差を解消するために2010年8月には「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」を発表した。ガイドラインには、男女間賃金格差の縮小に向けて、賃金や雇用管理のあり方を見直すための視点や、性別を問わず社員の活躍を促進するための実態調査票といった支援ツールなどが盛り込まれている。また、2015年8月28日には女性が活躍できる職場を目指し「「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、以下「女性活躍推進法」」を制定した(2016年4月1日施行)。さらに2022年7月8日からは女性活躍推進法の改正に基づき、常時雇用労働者301人以上の事業主を対象に、男女間賃金格差の開示が義務化され、2022年10月1日からは男性が子どもの出生後8週間以内に、最大4週間まで取得することができる「産後パパ育休」が新設された。

このような政府の対策がより効果を発揮するためには日本社会に残存している統計的差別や性別役割分担意識を解消する必要がある。意識改革で男女間の賃金格差を含めた格差がより早く改善されることを望むところである。
 
4 永瀬 伸⼦(2022)「⼥性管理職の増加には何が必要か」総務省
5 厚生労働省(2023)「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
6 内閣府男女共同参画局より引用、https://www.gender.go.jp/about_danjo/law/kihon/chikujyou04.html
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生活研究部

金 明中 (きむ みょんじゅん)

東洋大学 准社会学部国際社会学科 准教授 姜 英淑

(2024年03月06日「研究員の眼」)

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