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2024年02月13日
PRA(英国)やAPRA(オーストラリア)が2024年の監督・政策上の優先事項等を公表
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1―はじめに
英国のPRA(健全性規制機構)が、2024年1月11日に保険会社のCEO宛の書簡1の中で、保険監督における2024年の優先事項について説明している。また、オーストラリアのAPRA(オーストラリア健全性機構)も2024年1月31日に、2024年の監督と政策上の優先事項を概説2している。
今回のレポートは、これらのPRAやAPRAの2024年における保険監督上の優先事項について、報告する。
1 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/letter/2024/insurance-supervision-2024-priorities
bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/letter/2024/insurance-supervision-2024-priorities.pdf
2 https://www.apra.gov.au/news-and-publications/apra-outlines-2024-supervision-and-policy-priorities
今回のレポートは、これらのPRAやAPRAの2024年における保険監督上の優先事項について、報告する。
1 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/letter/2024/insurance-supervision-2024-priorities
bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/letter/2024/insurance-supervision-2024-priorities.pdf
2 https://www.apra.gov.au/news-and-publications/apra-outlines-2024-supervision-and-policy-priorities
2―PRAの保険監督上の2024年の優先事項
PRAの保険監督のエグゼクティブディレクターであるCharlotte Gerken氏とディレクターであるShoib Khan氏は、2024年1月11日に保険会社のCEO宛の書簡の中で、保険監督上の2024年の優先事項について説明している。
これによると、全ての保険会社を対象とするものとしては、オペレーショナル・レジリエンスや撤退の緩和、気候変動リスクから生じる金融リスクに関するテーマが挙げられている。このうちの気候変動リスクから生じる金融リスクについては、会社は、特にシナリオ分析とリスク管理に関する「能力格差」に対処し続けなければならず、PRAは、監督上のエンゲージメント、会社ごとの深堀り、テーマ別の作業を通じて、会社がSS3/19(気候変動による金融リスクを管理するための銀行及び保険会社のアプローチの強化に関する監督声明)に準拠しているかを評価する、としている。
生命保険会社に対しては、リスク管理能力、積立再保険、ストレステスト、さらにはソルベンシーIIの規制改革が挙げられている。このうちの積立再保険については、その英国の生命保険市場における役割に注目し、その組織的な利用が、安全性と健全性、契約者保護というPRAの目的に重大なリスクをもたらす可能性があるとの考えから、会社が再保険を利用することから生じるリスクに対処するための PRAの広範な戦略の一環として、政策提案について協議を行い、市場の慣行がどのように発展していくかを引き続き注視し、さらなる具体的な政策措置が必要かどうかを検討する、としている。また、ソルベンシーIIの規制改革においては、PRAは、2024年6月末までにHMT(財務省)のMA(マッチング調整)規定を実施できるよう、MAに関する最終的な方針を定める予定としている。
なお、生命保険会社、主として年金引受会社に対しては、信用リスク管理能力の有効性に焦点を当て、さらに、2022年9月に発生したLiability-Driven Investment Shockのような事象を踏まえて、またマクロ経済情勢が保険契約者の特定の保険商品の保有インセンティブに与える影響、潜在的な解約リスクにつながる影響にも留意して、流動性リスクに関しての報告要件を策定するともに、SWES(システムワイド演習)の設計と実施に積極的に関わり、2024 年末までにSWES の調査結果を公表する、としている。
損害保険会社に対しては、サイバー引受リスク、保険金請求インフレの監視、モデル・ドリフト、ストレステストが挙げられている。サイバー引受リスクに関しては、PRAは、サイバーリスク・エクスポージャーの増大に見合った会社の資本とエクスポージャー管理能力の確保に注力するとしている。また、保険金請求インフレについては、2023年6月に各社のチーフアクチュアリー向けに調査結果を記載した書簡を発出しているが、この調査が示しているように、準備金が増加してはいるものの、重要な不確実性が残っており、過度の楽観主義が準備金、価格設定、再保険計画に影響を及ぼす可能性があることから、2024年においても、規制当局によるデータ収集や通常の監督会議を通じて、保険金請求インフレを監視し、必要であれば、さらなるターゲットも検討する、としている。
具体的には、以下のような項目にまとめられている。
これによると、全ての保険会社を対象とするものとしては、オペレーショナル・レジリエンスや撤退の緩和、気候変動リスクから生じる金融リスクに関するテーマが挙げられている。このうちの気候変動リスクから生じる金融リスクについては、会社は、特にシナリオ分析とリスク管理に関する「能力格差」に対処し続けなければならず、PRAは、監督上のエンゲージメント、会社ごとの深堀り、テーマ別の作業を通じて、会社がSS3/19(気候変動による金融リスクを管理するための銀行及び保険会社のアプローチの強化に関する監督声明)に準拠しているかを評価する、としている。
生命保険会社に対しては、リスク管理能力、積立再保険、ストレステスト、さらにはソルベンシーIIの規制改革が挙げられている。このうちの積立再保険については、その英国の生命保険市場における役割に注目し、その組織的な利用が、安全性と健全性、契約者保護というPRAの目的に重大なリスクをもたらす可能性があるとの考えから、会社が再保険を利用することから生じるリスクに対処するための PRAの広範な戦略の一環として、政策提案について協議を行い、市場の慣行がどのように発展していくかを引き続き注視し、さらなる具体的な政策措置が必要かどうかを検討する、としている。また、ソルベンシーIIの規制改革においては、PRAは、2024年6月末までにHMT(財務省)のMA(マッチング調整)規定を実施できるよう、MAに関する最終的な方針を定める予定としている。
なお、生命保険会社、主として年金引受会社に対しては、信用リスク管理能力の有効性に焦点を当て、さらに、2022年9月に発生したLiability-Driven Investment Shockのような事象を踏まえて、またマクロ経済情勢が保険契約者の特定の保険商品の保有インセンティブに与える影響、潜在的な解約リスクにつながる影響にも留意して、流動性リスクに関しての報告要件を策定するともに、SWES(システムワイド演習)の設計と実施に積極的に関わり、2024 年末までにSWES の調査結果を公表する、としている。
損害保険会社に対しては、サイバー引受リスク、保険金請求インフレの監視、モデル・ドリフト、ストレステストが挙げられている。サイバー引受リスクに関しては、PRAは、サイバーリスク・エクスポージャーの増大に見合った会社の資本とエクスポージャー管理能力の確保に注力するとしている。また、保険金請求インフレについては、2023年6月に各社のチーフアクチュアリー向けに調査結果を記載した書簡を発出しているが、この調査が示しているように、準備金が増加してはいるものの、重要な不確実性が残っており、過度の楽観主義が準備金、価格設定、再保険計画に影響を及ぼす可能性があることから、2024年においても、規制当局によるデータ収集や通常の監督会議を通じて、保険金請求インフレを監視し、必要であれば、さらなるターゲットも検討する、としている。
具体的には、以下のような項目にまとめられている。
なお、過去の年度の監督上の優先事項としては、以下の項目が挙げられていた。
これによれば、基本的には、オペレーショナル・レジリエンス、再保険リスク、気候変動リスク、規制改革等、2023年からの項目が引き続き挙げられている。ただし、2024年はストレステスト(生命保険・損害保険)に加えて、昨今の経済環境等を踏まえて、信用リスクや流動性リスクが新たに大きな項目に挙げられている一方で、過去の2年間で挙げられていた、多様性、公平性及び包摂性(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)(DE&I)の項目が挙げられていない。
2023年
1.財務上のレジリエンス
2.リスク管理
3.金融改革の実施
4.再保険リスク
5.オペレーショナル・レジリエンス
6.保険会社の撤退のしやすさ
7.その他の重点分野
その他の重点分野としては、「非自然カタストロフィリスク」、「気候変動から生じる金融リスク」、「多様性、公平性及び包摂性(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)(DE&I)」、「監督上のアプローチ」が挙げられていた。
2022年
1.財務上のレジリエンス
2.オペレーショナルリスクとレジリエンス
3.気候変動から生じる金融リスク
4.規制の変更
5.英国で認可を求める第三国の支店
6.ダイバーシティ&インクルージョン
これによれば、基本的には、オペレーショナル・レジリエンス、再保険リスク、気候変動リスク、規制改革等、2023年からの項目が引き続き挙げられている。ただし、2024年はストレステスト(生命保険・損害保険)に加えて、昨今の経済環境等を踏まえて、信用リスクや流動性リスクが新たに大きな項目に挙げられている一方で、過去の2年間で挙げられていた、多様性、公平性及び包摂性(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)(DE&I)の項目が挙げられていない。
2023年
1.財務上のレジリエンス
2.リスク管理
3.金融改革の実施
4.再保険リスク
5.オペレーショナル・レジリエンス
6.保険会社の撤退のしやすさ
7.その他の重点分野
その他の重点分野としては、「非自然カタストロフィリスク」、「気候変動から生じる金融リスク」、「多様性、公平性及び包摂性(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)(DE&I)」、「監督上のアプローチ」が挙げられていた。
2022年
1.財務上のレジリエンス
2.オペレーショナルリスクとレジリエンス
3.気候変動から生じる金融リスク
4.規制の変更
5.英国で認可を求める第三国の支店
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(2024年02月13日「保険・年金フォーカス」)
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