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2024年02月09日
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2|住宅需要の動向
バブルが崩壊し始めた時の日本では、少子高齢化が進むとともに、それまで右肩上がりだった住宅主要購入層(25~49歳)の人口が1980年頃をピークに減少し始め、それがバブル崩壊の遠因となっていた(図表-13)。それでは中国ではどうなのだろうか。
現在の中国でも少子高齢化が進み始めており、住宅主要購入層の人口は2012年頃をピークに減少に転じている。中国の人口ピラミッドを見ると(図表-14)、住宅主要購入層の予備軍となる24歳以下の人口がこれまでより少ないため、今後は住宅購入ブームなどで一時的に盛り上がることはあったとしても、長続きせず趨勢的には減少傾向を辿るものと見られる。
一方、農村から都市へと人口が移動する都市化はまだ進展途上にある。中国の総人口に占める都市人口の比率(都市化率)は66.2%(2023年)と、約77%だった1990年の日本よりも低いからである。但し、前述の通り24歳以下の人口が少ないため、都市化の進展ピッチはこれまでより鈍化しそうだ。また、農村から都市へ人口が移動すれば大都市での住宅需要は増えるものの、農村部では減ることになる点には注意が必要だ。
バブルが崩壊し始めた時の日本では、少子高齢化が進むとともに、それまで右肩上がりだった住宅主要購入層(25~49歳)の人口が1980年頃をピークに減少し始め、それがバブル崩壊の遠因となっていた(図表-13)。それでは中国ではどうなのだろうか。
現在の中国でも少子高齢化が進み始めており、住宅主要購入層の人口は2012年頃をピークに減少に転じている。中国の人口ピラミッドを見ると(図表-14)、住宅主要購入層の予備軍となる24歳以下の人口がこれまでより少ないため、今後は住宅購入ブームなどで一時的に盛り上がることはあったとしても、長続きせず趨勢的には減少傾向を辿るものと見られる。
一方、農村から都市へと人口が移動する都市化はまだ進展途上にある。中国の総人口に占める都市人口の比率(都市化率)は66.2%(2023年)と、約77%だった1990年の日本よりも低いからである。但し、前述の通り24歳以下の人口が少ないため、都市化の進展ピッチはこれまでより鈍化しそうだ。また、農村から都市へ人口が移動すれば大都市での住宅需要は増えるものの、農村部では減ることになる点には注意が必要だ。
それでは現在の中国はどうなのだろうか。新築住宅価格は政府統制の影響が色濃いので、ここでは中古住宅の値動きで確認してみたい。それを見ると(図表-16)、ピークまでの上昇率が最も大きかったのは深圳市(広東省)だった。起点とした2010年12月の3倍近くに値上がりしており、北京市や上海市といった大都市でも軒並み2倍に上昇している。そして深圳市では2021年4月にピークを付け、その後は値下がりしているものの、下落率は8.9%にとどまっており、バブル崩壊というほどの下落率ではない。
一方、ピークからの下落率が最も大きかったのは牡丹江市(黒龍江省)だった。最高値を付けた2011年4月からの下落率は36.6%である。中古住宅価格の推移を見ると、牡丹江市では2014~15年にかけてのチャイナショックで15%ほど下落している(図表-17)。その後は中国全土でバブル形成が始まったこともあってやや持ち直したものの、チャイナショック前のレベルを回復するには至らず、2019年6月には再び下落に転じ、それからの4年半ほどの間に3割ほど下落、バブルは崩壊したと言えるだろう。ちなみに、牡丹江市のある黒龍江省の年収倍率を見ても6倍と、合理的水準の範囲内に低下している(図表-12)。
このように日本では数年で一気にバブルが形成され数年で一気に崩壊したが、中国では一部の地方都市でバブルが崩壊したものの、大都市(北京、上海、広東省)の下落率は小幅で、年収倍率も10倍を超えるなどバブル度合いはまだ高い(図表-11)。中国の大都市でバブルが崩壊するとすれば、それはこれからだろう。
一方、ピークからの下落率が最も大きかったのは牡丹江市(黒龍江省)だった。最高値を付けた2011年4月からの下落率は36.6%である。中古住宅価格の推移を見ると、牡丹江市では2014~15年にかけてのチャイナショックで15%ほど下落している(図表-17)。その後は中国全土でバブル形成が始まったこともあってやや持ち直したものの、チャイナショック前のレベルを回復するには至らず、2019年6月には再び下落に転じ、それからの4年半ほどの間に3割ほど下落、バブルは崩壊したと言えるだろう。ちなみに、牡丹江市のある黒龍江省の年収倍率を見ても6倍と、合理的水準の範囲内に低下している(図表-12)。
このように日本では数年で一気にバブルが形成され数年で一気に崩壊したが、中国では一部の地方都市でバブルが崩壊したものの、大都市(北京、上海、広東省)の下落率は小幅で、年収倍率も10倍を超えるなどバブル度合いはまだ高い(図表-11)。中国の大都市でバブルが崩壊するとすれば、それはこれからだろう。
4|金融面-マネーサプライ、金融機関が抱える不良債権
バブルが崩壊したあとの日本では、前述したように不動産デベロッパーだけでなく、一般企業・個人も一斉に投げ売りに走り、それまでの金融引き締め措置の効果が一気に顕在化して(図表-7)、マネーサプライの伸びは急減速(図表-18)、経済活動は停滞して金融機関が抱える不良債権は急増(図表-8)、日本は金融システム不安に直面することとなった。
それでは現在の中国はどうなのだろうか。経営不安に陥った不動産デベロッパーや投機対象として不動産を購入していた個人の投げ売りは見られるものの、政府統制もあって大都市の価格下落は小幅にとどまりバブル崩壊に至っていないこともあって、マネーサプライの伸びは前年比10%前後を維持(図表-18)、金融機関が抱える不良債権は増えたとはいえ、GDP比で3%程度にとどまっている(図表-19)。
このまま大都市でバブルが崩壊しなければ、日本が経験したような金融システム不安は避けられるとも考えられる。しかし、大都市でバブルが崩壊しないと断定できるだけの証拠もない。確かに中国の商業銀行の不良債権はそれほど多くなく、債権総額に占める不良債権の比率は1%台にとどまり、GDP比で見ても3%強と、バブル崩壊後の日本に比べると銀行の経営は健全と見られる。しかしその背景には、中国の銀行が2020年以降3年連続で3兆元ほどの不良債権処理を続けてきたことがある。では、銀行のバランスシートから外された不良債権はどこに行ったのか、その行方が問題となる。その行方は明らかでないものの、不良債権処理会社(AMC)に移された可能性も排除できない。現時点では大都市のバブルが崩壊していないので大問題となっていないが、もしそうした事態となればAMCの経営状態は要注意だ。中国が金融システム不安に陥るというリスクは少なからずあるだろう。
バブルが崩壊したあとの日本では、前述したように不動産デベロッパーだけでなく、一般企業・個人も一斉に投げ売りに走り、それまでの金融引き締め措置の効果が一気に顕在化して(図表-7)、マネーサプライの伸びは急減速(図表-18)、経済活動は停滞して金融機関が抱える不良債権は急増(図表-8)、日本は金融システム不安に直面することとなった。
それでは現在の中国はどうなのだろうか。経営不安に陥った不動産デベロッパーや投機対象として不動産を購入していた個人の投げ売りは見られるものの、政府統制もあって大都市の価格下落は小幅にとどまりバブル崩壊に至っていないこともあって、マネーサプライの伸びは前年比10%前後を維持(図表-18)、金融機関が抱える不良債権は増えたとはいえ、GDP比で3%程度にとどまっている(図表-19)。
このまま大都市でバブルが崩壊しなければ、日本が経験したような金融システム不安は避けられるとも考えられる。しかし、大都市でバブルが崩壊しないと断定できるだけの証拠もない。確かに中国の商業銀行の不良債権はそれほど多くなく、債権総額に占める不良債権の比率は1%台にとどまり、GDP比で見ても3%強と、バブル崩壊後の日本に比べると銀行の経営は健全と見られる。しかしその背景には、中国の銀行が2020年以降3年連続で3兆元ほどの不良債権処理を続けてきたことがある。では、銀行のバランスシートから外された不良債権はどこに行ったのか、その行方が問題となる。その行方は明らかでないものの、不良債権処理会社(AMC)に移された可能性も排除できない。現時点では大都市のバブルが崩壊していないので大問題となっていないが、もしそうした事態となればAMCの経営状態は要注意だ。中国が金融システム不安に陥るというリスクは少なからずあるだろう。
5|その他の特筆すべき点
その他、日本のバブル崩壊と中国のそれを比較する時、筆者は以下4点に留意すべきと考えている。
第一に一人当たりGDPのレベルである。不動産バブルがピークを付けた1991年、日本の一人当たりGDPは29,512ドルと米国のそれ(24,303ドル)を上回っていた(図表-20)。さらに当時は日米貿易摩擦の最中でもあった。したがって、当時の日本にとって、不動産バブルが崩壊し内需がダメージを受けても、外需依存に回帰する道のハードルはとても高かった。一方、現在の中国も米中対立の最中だが、一人当たりGDPは12,814 ドルと米国のそれ(76,348ドル)の6分の1ほどに過ぎない。したがって、中国産品の国際競争力のポテンシャルは当時の日本より高いと考えられる。
第二に有望な輸出先の有無である。当時の日本には将来の発展が確実視された「中国」という極めて有望な輸出先があった。実際、バブル崩壊後の日本は中国への輸出を拡大していった(図表-21)。一方、現在の中国にもインド、ASEAN、アフリカといった将来の発展が確実視される国・地域がある。実際、中国は「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」を掲げて、その取り込みに奔走している。但し、その筆頭格であるインドと中国は国境紛争を抱えており、欧米先進国と競合することもあって、当時の日本が中国に期待したほどには輸出を増やせそうにない。
その他、日本のバブル崩壊と中国のそれを比較する時、筆者は以下4点に留意すべきと考えている。
第一に一人当たりGDPのレベルである。不動産バブルがピークを付けた1991年、日本の一人当たりGDPは29,512ドルと米国のそれ(24,303ドル)を上回っていた(図表-20)。さらに当時は日米貿易摩擦の最中でもあった。したがって、当時の日本にとって、不動産バブルが崩壊し内需がダメージを受けても、外需依存に回帰する道のハードルはとても高かった。一方、現在の中国も米中対立の最中だが、一人当たりGDPは12,814 ドルと米国のそれ(76,348ドル)の6分の1ほどに過ぎない。したがって、中国産品の国際競争力のポテンシャルは当時の日本より高いと考えられる。
第二に有望な輸出先の有無である。当時の日本には将来の発展が確実視された「中国」という極めて有望な輸出先があった。実際、バブル崩壊後の日本は中国への輸出を拡大していった(図表-21)。一方、現在の中国にもインド、ASEAN、アフリカといった将来の発展が確実視される国・地域がある。実際、中国は「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」を掲げて、その取り込みに奔走している。但し、その筆頭格であるインドと中国は国境紛争を抱えており、欧米先進国と競合することもあって、当時の日本が中国に期待したほどには輸出を増やせそうにない。
4 「中国の不動産バブル-日本のバブル崩壊の経験だけで類推するのは危険」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2023-12-25
4――中国経済の展望
以上の不動産バブルの日中比較を踏まえて、今後の中国経済を展望してみたい。
メインシナリオとしては、中国の大都市では不動産バブルがまだ崩壊していないとはいえ、現在の住宅在庫は積み上がっており、今後も住宅需要は減少傾向を辿ると見られるため、不動産業の不振が中国経済全体の成長率を押し下げる状態は長期化すると予想している5。さらに中国は少子高齢化など人口問題を抱えており、財政発動の余地もそれほど大きくないことから、経済成長率はじりじりと鈍化し、10年後には先進国並みの2%台になると見ている。そして景気対策として財政を発動する度に中国の政府債務残高(GDP比)は上昇し、日本のそれに近づいていくことになるだろう。
但し、経済成長率がマイナスに陥ったとしてもそれは一時的だろう。そうした事態となれば、財政発動する余地はまだそれなりに残っているからだ。中国の政府債務残高は隠れ債務(融資平台)を含めてもGDP比で110%程度とまだ日本のそれを大きく下回っている(図表-26)。また、中国の一人当たりGDPのレベルは米国の6分の1ほどに過ぎないので、EV自動車や動力電池など新エネ関連の輸出は堅調と見られ、情報通信・ITサービスも生成AIの活用などで2桁成長を維持すると見られるため、経済成長率を押し上げる要因もある(図表-27)。ちなみに日本のバブル崩壊後の経済成長率を見ても(図表-10)、マイナスに陥ったのは一時的で、1990年代の年平均が1.3%増だった。
とはいえ不動産バブルがハードランディングに陥るリスクは覚悟しておく必要がある。経営破綻した不動産デベロッパーの処理方法を誤れば社会不安を招く恐れがあり、上海など大都市でもバブルが崩壊すればAMCの経営不安を招く恐れもあるからだ6。しばらく中国の不動産市場から目が離せない状況が続きそうである。
メインシナリオとしては、中国の大都市では不動産バブルがまだ崩壊していないとはいえ、現在の住宅在庫は積み上がっており、今後も住宅需要は減少傾向を辿ると見られるため、不動産業の不振が中国経済全体の成長率を押し下げる状態は長期化すると予想している5。さらに中国は少子高齢化など人口問題を抱えており、財政発動の余地もそれほど大きくないことから、経済成長率はじりじりと鈍化し、10年後には先進国並みの2%台になると見ている。そして景気対策として財政を発動する度に中国の政府債務残高(GDP比)は上昇し、日本のそれに近づいていくことになるだろう。
但し、経済成長率がマイナスに陥ったとしてもそれは一時的だろう。そうした事態となれば、財政発動する余地はまだそれなりに残っているからだ。中国の政府債務残高は隠れ債務(融資平台)を含めてもGDP比で110%程度とまだ日本のそれを大きく下回っている(図表-26)。また、中国の一人当たりGDPのレベルは米国の6分の1ほどに過ぎないので、EV自動車や動力電池など新エネ関連の輸出は堅調と見られ、情報通信・ITサービスも生成AIの活用などで2桁成長を維持すると見られるため、経済成長率を押し上げる要因もある(図表-27)。ちなみに日本のバブル崩壊後の経済成長率を見ても(図表-10)、マイナスに陥ったのは一時的で、1990年代の年平均が1.3%増だった。
とはいえ不動産バブルがハードランディングに陥るリスクは覚悟しておく必要がある。経営破綻した不動産デベロッパーの処理方法を誤れば社会不安を招く恐れがあり、上海など大都市でもバブルが崩壊すればAMCの経営不安を招く恐れもあるからだ6。しばらく中国の不動産市場から目が離せない状況が続きそうである。
5 なお経済発展に伴う所得水準の上昇で住宅価格の年収倍率が合理的水準(4~6倍)に戻るソフトランディング(軟着陸)の可能性は極めて低い。所得の伸びだけで年収倍率を合理的水準に戻すには少なくとも10年はかかるからだ。上海市の場合、住宅価格が横這いで、年間所得が10年に渡り年平均10%で伸びたとしても、年収倍率は6.4倍になる程度である。
6 格付け会社フィッチ・レーティングスは2024年1月3日、中国の不良債権管理会社4社(中国信達資産管理、中国東方資産管理、中国華融資産管理、中国長城資産管理)の格付けを引き下げた。いずれも投資適格「BBB以上」を維持したが、財務状況の変化には要注意。
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(2024年02月09日「基礎研レポート」)
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