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保険・年金の消費者動向レポートの公表(欧州)-EIOPAからの報告書の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――欧州における保険と年金の消費者動向調査
1 Consumer Trends Report 2023 (EIOPA 2024.1.23)
https://www.eiopa.europa.eu/system/files/2024-01/EIOPA-BoS-23-470-Consumer-Trends-Report-2023.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――主要な項目
2020年の新型コロナ、2021年はサプラーチェーンの混乱、さらには2022年にはロシアのウクライナ侵攻などにより、欧州の経済環境が大きく変化してきている。現在はそれまでとは変わって、高いインフレ傾向と金利上昇が起こっている状況である。こうした中で、投資型保険商品と年金商品の実質リターンに悪影響が出てきている。そうして保険商品の魅力が低下しているのに加えて、消費者が可処分所得の減少に直面し、生活費が苦しくなったために、保険加入の優先順位が下がった。
そこで実際に保険を解約するなどして保険料支払いの負担を当面小さくするのはやむをえないとしても、万一の場合の必要補償額を確保するためには貯蓄だけが頼り、という状況に陥る可能性があり、中長期的に家計の健全性を損なう可能性がある。現在の状況下では、すでにそうした消費者が増加しつつあると推定される。
今回、ダイバーシティ(多様性の認識)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(多様性の有効活用)(Diversity ,Equity and Inclusion :DE&I)に焦点が当てられている。
まずここでいうダイバーシティの中には、保険会社や年金基金サイドにおける、従業員、管理職、役員といったものと、消費者サイドの多様性の両者を想定している。特に消費者サイドにおいては、伝統的に差別されてきたグループ(移民など)の保障における脆弱性を認識し、そうした顧客層にも適切な保障を提供することを認識すべきである。
そしてインクルージョンの内容としては、性別、性的志向、民族、宗教などの要因に基づく差別や不当な扱いを防止する政策が実施されるべきである。
その結果として、どの顧客層にも保障あるいは年金による退職後のカバーが、ある意味公平に(エクイティ)いきわたればいいのだが、一律のやり方によるだけでは一部の消費者が充分な適切なサービスを受けられていない可能性があるため、場合によってはそれぞれ異なる方策が必要になるかもしれない。
例えば退職後の経済的な安心感においては、女性の方が男性より不安を感じている割合が高い。年齢の観点からは、若い消費者は金融制度・商品に対する慣れがないことで、知らずに高いリスクにさらされている可能性がある。一方で高齢者は近年進化しているデジタルリテラシーの面で困難を感じることが多いかもしれない。多様な消費者の特性に応じた保険商品の開発や年金制度を構築していくことが課題である。
ユニットリンクやハイブリッド保険商品については、消費者からみると仕組みが複雑でコストも高いが、その分環境が良好な時にはすぐれたパフォーマンスが得られるものという認識がある。しかし、2023年までの経済環境下においては、満足いく充分な価値(リターン)が得られなかったと感じている消費者が多いという調査結果となった。実際、2021年から2022年にかけてユニットリンクに関連する苦情が増加している。
保険に関する情報開示、情報提供については、近年の、テキスト分析、自然言語処理、機械学習2、などのテクノロジーの進化の恩恵を受けている。
こうした技術の利用により、ライフサイクル全般にわたる消費者への情報提供が容易かつ大量に行なえるようになり、消費者サイドの経験値をも高めることができるようになってきた。そして消費者はその知識により、保険商品等の価格やコストの比較、あるいはメリットデメリットの比較などを行い、商品の選択に生かすことができるようになってきている。
2 これらの用語は、高度に専門的ではあるが、現在ではかなり一般的にも使われるようになってきてもいる。ここで手短に理解するとしたら、以下のようなイメージか。
テキスト分析・・・コンピュータシステムの利用による顧客感情の分析や意見の追跡
自然言語処理・・・人が書いたり話したりする言葉を処理する技術
機械学習 ・・・大量のデータをコンピュータに読み込ませることによる自動学習
2023年にEIOPAが行った調査によると、快適な老後を過ごすのに十分なお金があると感じているのは、EU内の消費者の半数以下しかいない。これは年金制度に加入しているのが全体の23%、個人年金に加入しているのが全体の19%に過ぎないという事実から引き起こされるものである。
退職後の経済面における安心感を高めるためには、保険商品や年金制度について明確な情報提供を行い、透明性を確保することが必要である。このことにより貯蓄や年金に関する消費者の理解を促進し、保険加入や商品選択に関して、充分な情報に基づく意思決定ができるようになる。
このことに関しては、各国の保険・年金監督者による情報開示の透明性の確保はかなり進展しており、例えば苦情数が減少しているなどの一定の効果は見られるが、まだ問題は残っている。例えば、過度な専門用語を使用しないことで、商品・制度説明をわかりやすくしたり、誤解を招かないように詳細情報の開示を行ったりする必要がある。これらについては、適宜保険会社等から報告を受けて、引き続き改善に取り組む必要がある。
・(サステナビリティ)近年、サステナビリティ機能を備えた保険・年金商品に対する消費者の関心は高まっている。またそれに応えてその種の保険商品に加入できる機会も増加してきている。ただしサステナビリティ機能の満たすべき要件については、まだ不明瞭な点や不適切な開示などがあること、アドバイザー側のトレーニングが不充分であることなど、改善を要する不適切な事象も見受けられる。
・(自然災害)また自然災害が増加する中で、一部の国からは、自然災害カタストロフィとその補償に関連して、必要な保障がなされていないなど問題がある、と報告されている。ましてやこれがシステミックなリスクとなると、自然災害の起きた地域だけではなく、さらに広い範囲の消費者に悪影響をもたらすことになることが懸念されている。
・(不当なクロスセリング)信用保険や保証保険などを貸付とセットにした重ね売りの慣行は、消費者が望まない場合には問題となる場合があり、引き続き各国で実態を調査する必要がある。
3――おわりに
またSDGsやESG要素に加え(あるいはその一部として)、ダイバーシティやインクルージョン、その結果としての個々の状況に配慮したある種の公平性(エクイティ)(あわせてDE&I)は、社会全体どの場面でも考慮すべきこととされているが、保険・年金分野でも、供給側の保険会社や年金基金、需要側の消費者の双方が、近年強く意識して行動しつつある状況にある。
引き続き、動向をみていくことにしたい。
(2024年02月08日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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