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2024年02月01日
米国・日本・欧州における外資系生命保険会社のプレゼンス-最近の日米欧間の生命保険会社の相互市場参入はどんな状況にあるのか-
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1―はじめに
日本の生命保険会社による海外保険市場への進出については、生命保険事業の特性(社会保障制度との関係、国民性、経済発展状況との関連性等)等から、欧米の保険グループや日本の損害保険会社に比べると、積極的とは言えない状況にあり、各社はむしろ、国内市場の深耕開拓に注力してきていた。ところが、縮小傾向にある国内保険市場での競争激化に伴う収益減少懸念への対応や新興国の成長性の取り込みといった観点から、大手の生命保険会社も2010年前後から、改めて積極的に海外進出を展開してきている。
今回のレポートでは、米国・日本・欧州の生命保険市場における外資系生命保険会社1のプレゼンスがどうなっているのかを報告する。各種のデータ面での制約はあるが、これらを通じて、日米欧間の生命保険会社の相互市場参入がどの程度進展した状況にあるのかについて報告する。
1 ここで、外資系保険会社とは、株式の50%超が外国資本の会社を意味している。
今回のレポートでは、米国・日本・欧州の生命保険市場における外資系生命保険会社1のプレゼンスがどうなっているのかを報告する。各種のデータ面での制約はあるが、これらを通じて、日米欧間の生命保険会社の相互市場参入がどの程度進展した状況にあるのかについて報告する。
1 ここで、外資系保険会社とは、株式の50%超が外国資本の会社を意味している。
2―米国における外資系生命保険会社のプレゼンス
1|全体の状況
米国全体の生命保険会社の会社数は、合併や買収等の影響により、1997年から2022年の25年間、ほぼ毎年減少してきているが、外資系生命保険会社の会社数は、増減を繰り返してきており、この15年間はほぼ横ばいとなっている。一方で、総資産は米国全体及び外資系生命保険会社とも着実に増加してきている。この結果として、外資系生命保険会社の構成比は、会社数では増加傾向にあるが、総資産については2割程度でほぼ横ばいで推移している。
即ち、市場の規模拡大に対応する形で業績を伸ばしてきてはいるが、総資産ベースでは米国国内の保険会社のシェアを大きく奪う形にはなっていない。市場の特性等を踏まえた上での独自のあるいは適正な戦略を立てていかないと、保険先進国の米国においては、外資系といえどもシェアを伸ばすのは容易ではない状況にある。
米国全体の生命保険会社の会社数は、合併や買収等の影響により、1997年から2022年の25年間、ほぼ毎年減少してきているが、外資系生命保険会社の会社数は、増減を繰り返してきており、この15年間はほぼ横ばいとなっている。一方で、総資産は米国全体及び外資系生命保険会社とも着実に増加してきている。この結果として、外資系生命保険会社の構成比は、会社数では増加傾向にあるが、総資産については2割程度でほぼ横ばいで推移している。
即ち、市場の規模拡大に対応する形で業績を伸ばしてきてはいるが、総資産ベースでは米国国内の保険会社のシェアを大きく奪う形にはなっていない。市場の特性等を踏まえた上での独自のあるいは適正な戦略を立てていかないと、保険先進国の米国においては、外資系といえどもシェアを伸ばすのは容易ではない状況にある。
なお、2022年末において、会社数でみた構成比は14.0%だが、総資産では20.2%であることから、外資系生命保険会社の平均資産規模は全体平均の1.5倍程度となっている。具体的には、2022年度の平均資産規模は、米国全体の生命保険会社では11,382百万ドル、外資系生命保険会社では16,422百万ドルとなっている。
米国の生命保険会社は、州毎や事業種類毎に複数の保険会社を設立して事業展開していることもあり、平均資産規模を個別会社単位でみると必ずしも大きなものとはなっていないものと想定される。一方で、外資系保険会社が米国生命保険会社を買収する場合には、基本的には収益性や将来性が見込める一定規模以上の会社を対象としていることが考えられることも資産規模の格差に影響しているものと想定される。
米国の生命保険会社は、州毎や事業種類毎に複数の保険会社を設立して事業展開していることもあり、平均資産規模を個別会社単位でみると必ずしも大きなものとはなっていないものと想定される。一方で、外資系保険会社が米国生命保険会社を買収する場合には、基本的には収益性や将来性が見込める一定規模以上の会社を対象としていることが考えられることも資産規模の格差に影響しているものと想定される。
2|親会社国別の状況
以上の状況を親会社国別に見てみると、以下の図表の通りとなっている。
会社数では、バミューダがキャプティブ設立の影響等でここ10~15年間で大幅に増加しており、ケイマン諸島の会社数も増加している。一方で、オランダと英国は大きく減少している。なお、日本の会社数も大きく増加して、2022年には15社となり、カナダ、バミューダに次ぐ第3位となっている2。
総資産での構成比の推移についても、基本的には会社数の変化を反映した形になっている。2012年から2022年の10年間では、バミューダが5.1%ポイント、日本が2.3%ポイント増加している。一方で、オランダは4.1%ポイント、英国とフランスはそれぞれ2.8%ポイント低下しており、欧州保険会社の地域別や事業別の展開に関する戦略等を反映した形になっている。
なお、オランダとドイツの会社数は多くはないものの、総資産の構成比では2%台で日本とほぼ同じ水準となっている。
以上の状況を親会社国別に見てみると、以下の図表の通りとなっている。
会社数では、バミューダがキャプティブ設立の影響等でここ10~15年間で大幅に増加しており、ケイマン諸島の会社数も増加している。一方で、オランダと英国は大きく減少している。なお、日本の会社数も大きく増加して、2022年には15社となり、カナダ、バミューダに次ぐ第3位となっている2。
総資産での構成比の推移についても、基本的には会社数の変化を反映した形になっている。2012年から2022年の10年間では、バミューダが5.1%ポイント、日本が2.3%ポイント増加している。一方で、オランダは4.1%ポイント、英国とフランスはそれぞれ2.8%ポイント低下しており、欧州保険会社の地域別や事業別の展開に関する戦略等を反映した形になっている。
なお、オランダとドイツの会社数は多くはないものの、総資産の構成比では2%台で日本とほぼ同じ水準となっている。
2 日本の大手生命保険会社の海外進出の状況や日本市場への外資系会社や外国会社の進出状況に関しては、拙著「必携 生命保険ハンドブック」(中央経済社 2022)においても説明しているので、こちらも参照していただきたい。
3|個別会社・グループの状況
2では親会社国別の分布を見たが、実際には、各国を代表するグローバルに活動している大手保険グループの米国事業の状況が大きく分布に反映される形になっている。
AM Best社が公表している認容資産ランキングによれば、2022年には、トップ25のうち、John Hancock Life insurance Group(親会社はカナダ(のManulife Financial Life Group)、以後同様)が第10位、Aegon USA Group(オランダ)が第15位、Athene US Life Group(バミューダ)3が第16位、Great-West Life Group(カナダ)が第18位、Allianz Life Group(ドイツ)が第19位、Protective Life Group(日本)が第25位となっており、6社がランクインしている。
一方で、10年前の2012年においては、トップ25のうち、Manulife Financial Life Group(カナダ)が第3位、ING USA Life Group(オランダ)が第10位、Aegon USA Group(オランダ)が第11位、Axa Financial Groupが第13位、Jackson National Group(英国)が第14位、Allianz Life Group(ドイツ)が第20位、Sun Life Financial Group(カナダ)が第23位となっており、7社がランクインしていた。
このように、外資系生命保険会社のランキングは、過去10年間をみても、大きく変動している。2012年にはトップ25の圏外であったAthene US Life Group(バミューダ)、Great-West Life Group(カナダ)、Protective Life Group(日本)の3社が新たにランクインしている一方で、ING USA Life Group(オランダ)(→2013年にVoya Financial Groupにリブランディングし、その後2018年に年金事業の大部分を新しく設立した独立会社 Venerable Holdings, Inc. に売却)、Sun Life Financial Group(カナダ)がランキング外となっている。また、AXAはEquitableを売却し、米国の生命保険事業から撤退している(なお、Equitable Life Groupは、2022年のランキングで第11位となっている)。Jackson National Groupについては、以前は英国Prudentialの子会社であったが、2021年9月の会社分割及びその後のJackson Nationalによる株式買取等により、2022年末現在のPrudentialの持分は9.2%となっており、現在は米国の会社となっている。
このように、米国市場においては、会社の合併・買収や事業の再編・売却等によって、認容資産で見た場合の外資系生命保険会社・グループのランキングはかなり大きく変動している。
3 Atheneについては、保険年金フォーカス「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(8)-3社が新たに追加されて、IAIGsは55 社に-」(2023.11.7)の中で、Athora Holding Ltd.のIAIG指定に関連して、若干の説明を行っている。
2では親会社国別の分布を見たが、実際には、各国を代表するグローバルに活動している大手保険グループの米国事業の状況が大きく分布に反映される形になっている。
AM Best社が公表している認容資産ランキングによれば、2022年には、トップ25のうち、John Hancock Life insurance Group(親会社はカナダ(のManulife Financial Life Group)、以後同様)が第10位、Aegon USA Group(オランダ)が第15位、Athene US Life Group(バミューダ)3が第16位、Great-West Life Group(カナダ)が第18位、Allianz Life Group(ドイツ)が第19位、Protective Life Group(日本)が第25位となっており、6社がランクインしている。
一方で、10年前の2012年においては、トップ25のうち、Manulife Financial Life Group(カナダ)が第3位、ING USA Life Group(オランダ)が第10位、Aegon USA Group(オランダ)が第11位、Axa Financial Groupが第13位、Jackson National Group(英国)が第14位、Allianz Life Group(ドイツ)が第20位、Sun Life Financial Group(カナダ)が第23位となっており、7社がランクインしていた。
このように、外資系生命保険会社のランキングは、過去10年間をみても、大きく変動している。2012年にはトップ25の圏外であったAthene US Life Group(バミューダ)、Great-West Life Group(カナダ)、Protective Life Group(日本)の3社が新たにランクインしている一方で、ING USA Life Group(オランダ)(→2013年にVoya Financial Groupにリブランディングし、その後2018年に年金事業の大部分を新しく設立した独立会社 Venerable Holdings, Inc. に売却)、Sun Life Financial Group(カナダ)がランキング外となっている。また、AXAはEquitableを売却し、米国の生命保険事業から撤退している(なお、Equitable Life Groupは、2022年のランキングで第11位となっている)。Jackson National Groupについては、以前は英国Prudentialの子会社であったが、2021年9月の会社分割及びその後のJackson Nationalによる株式買取等により、2022年末現在のPrudentialの持分は9.2%となっており、現在は米国の会社となっている。
このように、米国市場においては、会社の合併・買収や事業の再編・売却等によって、認容資産で見た場合の外資系生命保険会社・グループのランキングはかなり大きく変動している。
3 Atheneについては、保険年金フォーカス「IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(8)-3社が新たに追加されて、IAIGsは55 社に-」(2023.11.7)の中で、Athora Holding Ltd.のIAIG指定に関連して、若干の説明を行っている。
3―日本における外資系生命保険会社のプレゼンス
1|全体の状況
日本における外国及び外資系生命保険会社のプレゼンスを考える上では、支店形式の外国生命保険会社の位置付けが高いため、以下の表ではこれらの会社も外資系生命保険会社に含める形で取り扱っている。また、日本の場合、そもそも会社数が少ないので、外資系生命保険会社といってもより特定しやすくなるが、比較のため米国と同様の方式でデータをまとめている4。
日本市場における外資系生命保険会社の数や構成比は、1990年代までは支店形式による保険会社を含めてもそれほど多くなく、また高いものでもなかったが、2000年代前半に経営破綻した会社の買収等により、急速にその数を増やし、構成比を高めていた。その後も銀行窓口販売の解禁等の代理店チャネルの規制緩和等により、構成比を伸ばしてきていた。ただし、2022年までの10年間において、外資系生命保険の会社数は減少し、また総資産の構成比も若干は増加したもののほぼ横ばいとなっている。
日本における外国及び外資系生命保険会社のプレゼンスを考える上では、支店形式の外国生命保険会社の位置付けが高いため、以下の表ではこれらの会社も外資系生命保険会社に含める形で取り扱っている。また、日本の場合、そもそも会社数が少ないので、外資系生命保険会社といってもより特定しやすくなるが、比較のため米国と同様の方式でデータをまとめている4。
日本市場における外資系生命保険会社の数や構成比は、1990年代までは支店形式による保険会社を含めてもそれほど多くなく、また高いものでもなかったが、2000年代前半に経営破綻した会社の買収等により、急速にその数を増やし、構成比を高めていた。その後も銀行窓口販売の解禁等の代理店チャネルの規制緩和等により、構成比を伸ばしてきていた。ただし、2022年までの10年間において、外資系生命保険の会社数は減少し、また総資産の構成比も若干は増加したもののほぼ横ばいとなっている。
4 以下の表においては、対象年度における資本状況等を勘案しつつ、例えば以下のように取り扱っている。(1)ソニーライフ・エイゴン生命については、Aegonの50%出資会社であるが、外資系会社に含めている。(2)PCA生命(2015年からはSBI生命)については、英国Prudentialの子会社としている。
(2024年02月01日「保険・年金フォーカス」)
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